酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第133回】
「消費税の性質論(その1)」
中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦
はじめに
消費税法が施行されてから35年が経過しているのにもかかわらず、いまだに消費税の法的性質が論じられることが少なくない。そこでは、そもそも消費税が預り金としての性質を有するものであるのか否かとか、消費税は価格に転嫁されることが予定されるものであるのか否かといった本質論にも接続する論点が所在する。
そこで、これらの点について、消費税法は、憲法14条・25条・29条・32条・84条の一義的文言に違反するものでなく、同法の立法行為が不法行為となるとはいえないとした東京地裁平成2年3月26日判決(判時1344号115頁)を素材として考えることとしたい。
1 事案の概要
(1) 概観
X(原告)が国Y1(被告)及びY2(被告。立法当時の内閣総理大臣)を相手取り、次のような主張をした事例である。
(2) Y1の責任
国会議員は、憲法に違反する消費税法を、その違憲性を知りつつ、そうでなくても、僅かな注意義務を尽くせばその違憲性を知り得たにもかかわらず、短い審議時間でさしたる修正も加えずに、成立させたのである。
国の公権力の行使に当たる公務員たる国会議員が、このような憲法違反の法律の制定を行ったのは不法行為であるから、国は、Xらに対し、後述の損害を賠償すべき責任がある。
(3) Y2の責任
Y2は、内閣総理大臣として、内閣が税制改革六法律案を国会に提出するに当たり、憲法に違反した法律案を提出しないよう指揮・監督すべき義務があるのに、故意又は過失によりこれを怠り、内閣をして憲法違反の法律案を国会に提出させ、また、自由民主党総裁として、憲法違反の法律を成立させないよう同党を指揮すべき義務があるのに、故意又は過失によりこれを怠り、同党の党員である国会議員をして消費税法を国会において可決成立させたので、不法行為による損害賠償責任がある。
(4) 共同不法行為
Y1及びY2の上記行為は、共同不法行為であるから、Y1らは、Xらに対し、連帯して後述の損害を賠償する責任がある。
2 Xの具体的な主張
(1) 消費税の問題点
ア 消費者に対する過剰転嫁の危険性及び事業者間の不公平
(ア) 仕入税額控除制度の不合理
消費税の納税義務者は消費者、徴収義務者は事業者と解されることからして、事業者が消費者より徴収した消費税分は、事業者自身が仕入れの際に支払った消費税額を控除したもの以外全て国に納付すべきものである。
ところが、事業者が行う仕入れの中には、免税業者(消費税法9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》の適用を受ける者)からの仕入れも含まれているところ、免税業者からの仕入れには3パーセント(当時)の消費税額が上乗せされていないにもかかわらず、消費税法の定める税額控除制度は、これらの仕入れをも含めて全仕入れ額の103分の3を仕入れに係る消費税額として税額控除することを認めている。すなわち、同制度は、事業者が収入額の3パーセントの消費税分を消費者から徴収しているにもかかわらず、その一部を国庫に納めなくてよいことを認めている。
この制度は、事業者が、納税義務者である消費者からの消費税分を徴収しながら、過剰な控除を認めることにより、その一部を国庫に納めず、事業者が取得するといういわゆるピンハネを許したものである。
(イ) 事業者免税点制度の不合理
事業者免税点制度は、免税業者が消費者からの消費税分を徴収しながら、その全額を国庫に納めなくてもよいことを認めている。この制度は、不要な消費税分の転嫁を認めたことにより、全部のピンハネを認めたものである。
(ウ) 簡易課税制度の不合理
簡易課税制度は、売上等の収入に係る消費税額のうち80パーセント(当時)を仕入れに係る消費税額とみなして、国に対する消費税額の納付の際にこれを控除することを認めている。しかしながら、仕入れ自体が少ないか、あるいは免税業者からの仕入れが多い等の理由により、上記仕入れに係る消費税額の割合が80パーセントよりも低いこともあり得る。したがって、簡易課税制度によって認められた控除額と、仕入れに係る実際の消費税額との差額は、本来控除してはならない仕入れ税額であるにもかかわらず、控除を認められている。
この制度は、事業者が納税義務者である消費者からの消費税分を徴収しながら、過剰な控除を認めることにより、これを国庫に納めず、事業者が取得するというピンハネの結果をもたらすものである。
(エ) 事業者間の不公平
〈1〉 仕入税額控除制度の下では、全仕入れを通常の課税業者に頼る事業者は、仕入れに際し、消費税分の全てを仕入れ先に対して負担しなければならない。これに比べ、免税業者からの仕入れに頼る事業者は、上記の負担をしないで、仕入税額控除制度の恩恵を受けることがある。このことは、免税業者からの仕入れに頼る事業者を不当に優遇することになり、事業者間に不公平をもたらすものである。
〈2〉 事業者免税点制度は、免税業者を非免税業者に比し不当に優遇する。
〈3〉 簡易課税制度は、簡易課税事業者を非簡易課税事業者に比し不当に優遇する。
イ その他の問題点
(ア) 消費税の逆進性
租税の経済的機能のうち最も重要なものは、所得の再分配機能である。現代のいわゆる自由主義経済社会において、その仕組みなどが原因して、高い所得を得ている者と低い所得しか得ていない者が生じ、所得の分布が不平等であり、不公正になっているところでは、租税負担の配分の仕方を利用して、不平等、不公正になっている現在の所得の分布を改善するために、所得の再分配をすべきである。高い所得を得ている者には重い租税負担を、低い所得しか得ていない者には軽い租税負担を課するという方法によって、この目的は達成される。
ところが、消費税は、低額の所得者にも高額の所得者にも、同額の税を課すものであるから、上記「応能負担の原則」、「公平負担の原則」に全く逆行するものである。
(イ) 課税要件の不明確性
〈1〉 消費税法4条《課税の対象》1項には、事業者が納税義務者であるとの規定があるものの、税制改革法11条《消費税の円滑かつ適正な転嫁》1項や各通達には消費者が納税義務者と解される余地もあり、この点において不明確である。
〈2〉 消費税法によると、国内の課税対象取引であるための要件は、ア 国内における取引であること、イ 「事業者」が「事業」として行った取引であること、ウ 「対価」を得た取引であること、エ 資産の譲渡、貸付け、役務の提供であることの4つである。
しかしながら、イの要件である「事業者」とは誰を指すのか、「事業」とは何を指すのかが明確でなく、これを明らかにする通達等もない。そのため、例えば大学教員の得た講演料、原稿料が消費税の課税対象となるのかどうかも法律の規定からは明確でない。また、ウの要件についても、例えば、事業者が商品についてクレームが付いたので相手方に金銭を支払った場合、これが「対価」なのか、あるいは損害賠償として対価性がないのかも法律の規定自体からは明らかでない。
(ウ) 不服申立制度の欠如
消費税の納税義務者は消費者であると解されるところ、消費税法は、消費者に対し、課された消費税額につき何ら不服申立手続あるいは訴訟手続によって争う権利を与えていない。
(エ) 課税最低限以下の所得しかない者に対する課税
消費税法は、無差別に資産の譲渡、役務の提供等に課税するものであるから、課税最低限以下の所得しかない者に対しても課税をすることになる。
(2) 消費税の違憲性
ア 憲法84条及び29条違反
消費税においては消費者を納税義務者、事業者を徴収義務者としているものと解されるところ、消費税法は、事業者が消費者から消費税分を徴収しながら、これを国庫に納めなくてもよいという結果を容認し、結果的に消費者への消費税分の過剰転嫁、ピンハネを認めている。このように、消費税法は、恣意的な租税の賦課・徴収を定めている点において租税法律主義を定めた憲法84条に違反し、また、税の過剰転嫁等によって国民の財産権を侵害する点において、憲法29条に違反する。
イ 憲法14条違反
仕入税額控除制度、事業者免税点制度、簡易課税制度は、事業者間に不合理な差別をもたらす点において憲法14条に違反する。
また、憲法14条は国民を機械的に平等に扱うことを要求するものではなく、租税に関していうならば、国民の負担能力に応じた課税がなされるという、相対的平等、実質的平等を要求しているものと解される。ところが、消費税法は、上記「応能負担の原則」、「公平負担の原則」に反するものであるから、この点においても、憲法14条に違反する。
ウ 憲法25条違反
憲法25条は、国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているが、同条は単に積極的な社会保障を国に要請しているだけでなく、国は、課税最低限以下の所得しかない者に対しては、課税してはならないことを規定していると解すべきである。ところが、消費税法は、消費者に対し無差別に課税するものであるから、課税最低限以下の所得しかない者に対しても課税している。この点において、憲法25条に違反する。
(3) Xらの損害
ア 国会が憲法違反の点のある消費税法を成立させたため、Xらは物品の購入又は役務の提供を受けるたび、事業者に対し、物品の購入費又は役務提供の対価のほか、消費税分として、物品の購入費又は役務提供の対価の3パーセントに相当する金員を支払わざるを得なかった。
その結果、Xらは、購入目録(省略)の各欄に記載のとおり、物品の購入をし、あるいは役務の提供を受けて、損害目録(省略)の消費税相当損害金欄記載の損害を被った。
イ そして、Xらは、消費税を支払う毎に精神的苦痛を受けた。この各苦痛を慰謝するには、Xら各自につきそれぞれ金10万円の慰謝料が相当である。
ウ よって、Xらは、Y1に対しては、国家賠償法1条1項に基づき、Y2に対しては、民法709条《不法行為による損害賠償》に基づき、連帯して、損害目録合計欄記載の各金員及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで年5分の割合による金員の支払を求める。
3 判決の要旨
一 消費税の内容
2 消費税における納税義務者・・・
税制改革法11条1項は、「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする」と抽象的に規定しているに過ぎず、消費税法及び税制改革法には、消費者が納税義務者であることはおろか、事業者が消費者から徴収すべき具体的な税額、消費者から徴収しなかったことに対する事業者への制裁等についても全く定められていないから、消費税法等が事業者に徴収義務を、消費者に納税義務を課したものとはいえない。「消費税の円滑かつ適正な転嫁が行われるよう努める」と規定されていた税制改革法律案が右条項のような表現に修正されたけれども、修正後の消費税法の内容からして、右修正に、消費税の消費者への円滑な転嫁の必要性をより明らかにする趣旨で行われたということ以上の意味を見出すことは到底困難である。
また、消費税法附則30条は、消費税の転嫁に関し、一定の共同行為(カルテル)について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外を認めているが、右は、事業者の消費税転嫁が行いやすい環境を作っているものに過ぎず、消費税の円滑な転嫁を促進する趣旨のものであって、それ以上に消費者を納税者とする趣旨に出たものとは到底解されない。
Xの主張する、消費税に関する国税庁長官通達や、政府広報の説明内容は、消費税施行に伴う会計や税額計算について触れたものであって、法律上の権利義務を定めるものではない。そこで述べられていることは、取引の各段階において納税義務者である事業者に対して課税がなされるが、最終的な負担を消費者に転嫁するという消費税の考え方と矛盾するものではなく、消費者が納税義務者であることの根拠とはなり得ない。
以上のとおりであるから、消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない。
二 消費税の問題点
1 消費者に対する過剰転嫁の危険性及び事業者間の不公平・・・について
(一) 仕入税額控除制度
(1) ・・・消費税の納税義務者が消費者、徴収義務者が事業者であるとは解されない。したがって、消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負うものではない。
もっとも、消費税の実質的負担者が消費者であることは争いのないところであるから、右義務がないとしても、消費税分として得た金員は、原則として国庫にすべて納付されることが望ましいことは否定できない。
(2) 仕入税額控除制度は、事業者が行う仕入れにつき仕入れ先が免税業者であるか如何を問わず一律に仕入れ額の103分の3を税額控除することを認めているが、免税業者からの仕入れには消費税相当額は上乗せされないから、一部に過剰控除が生じることになる。事業者が、このような過剰控除分の存在を考慮しないまま、商品等の本来の対価に対して一律に消費税分相当の対価3パーセント分を上乗せした場合、事業者が消費税として国に納付している額以上の額を消費者に過剰転嫁することになる。これを消費者の側から見たならば、消費者が右3パーセント分を消費税相当分の対価として支払いながら、前記過剰控除により右消費税分の一部については事業者が国庫に納付せず、事業者自身が取得するといういわゆるピンハネをしたような結果になることも否定できない。
しかしながら、消費税の転嫁について、税制改革法11条1項は「適正に転嫁するものとする」と抽象的に述べているだけであり、具体的な転嫁額については事業者の取引上の意思決定に任されている。そして、その対価の決定は、同業者との競争といった取引上の事情や商品内容に関する事情、その他諸般の事情を総合的に判断したうえで決定されるものであることを考慮すると、消費税分の価格への転嫁が、必然的に過剰転嫁を生ぜしめるともいいがたいし、消費税法自体が右過剰転嫁を積極的に予定しているものではないことも明らかである。
(3) 消費税法は、仕入れ税額を把握する手段としては、事業者の事務処理上の負担の軽減を図るため、いわゆるインボイスによる必要はなく、事業者の帳簿記載や取引に際して交付を受けた請求書等によることとしている。事業者が仕入れ取引を行うに当たり、逐一その相手方が免税業者であるか否かを確認しなければならないとすれば、その事務が極めて複雑になるから、右確認を要しない仕入れ税額控除制度としたのである。右制度の下では、右(2)で述べたとおりの過剰転嫁の生じる危険性があるものの、それは必然的に過剰転嫁になるという程度のものではなく、市場経済の中での適切な転嫁を期待することによってある程度回避可能なものと認められる。
そうすると、免税業者の売り上げ割合がさほど大きくないと推測される点も勘案すると、右制度が政策目的に照らして著しく不合理な制度であるとまではいえない。
なお、消費税法が、右制度の前提となる仕入れ税額把握の方法として、帳簿方式を採用するか、インボイス方式を採用するかの問題は、課税対象の広さや税率の構造とも関係してくるものであり、現行消費税法において、事務処理の簡便化の観点からみて、明らかにインボイス方式を採用する方が簡便で優れていると認めるだけの根拠もない。したがって、この点をもって仕入税額控除制度が不合理であるということもできない。
(4) そうすると、仕入れ税額控除制度は、運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネを許す余地があるという点で問題がなくはないが、これを不合理とまではいえない。
(二) 事業者免税点制度
(1) 消費税の適正な転嫁を定めた税制改革法11条1項の趣旨よりすれば、右制度は、免税業者が消費者から消費税分を徴収しながら、その全額を国庫に納めなくて良いことを積極的に予定しているものでないことは明らかである。同法11条1項が、消費税を「適正に転嫁するものとする」と規定していることに鑑みると、事業者免税点制度の適用を受ける免税業者は、原則として消費者に3パーセント全部の消費税分を上乗せした額での対価の決定をしてはならないものと解される。したがって、消費税施行にともない、いわゆる便乗値上げが生じることはあり得るとしても、それは消費税法自体の意図するところではない。
(2) 右制度の目的は、消費税が、我が国の企業にとって馴染みの薄いものであり、その実施に当たっては種々の事務負担が生じるので、その軽減を図る必要があるところ、特に、人的・物的設備に乏しく、新制度への対応が困難であることが多く、かつ相対的に見て納税コストが高くつくものと思料される零細事業者に対しては、特にこの面で配慮をして、右のような業者を免税業者としたものである。右立法的配慮が明らかに不合理であるということもできない。
(3) 以上のとおりであるから、右制度が直ちに著しく不合理であるとはいえない。
(三) 簡易課税制度
簡易課税制度も、先の事業者免税点制度と同様に、中小企業者の納税事務の負担軽減を図り、売上高のみから納税額を算出できるようにしたものである。同制度の運用如何によっては過剰転嫁の危険性があるものの、仕入れ税額控除制度と同様適切な転嫁によりこれは回避できる問題である。また、簡易課税制度を選択する基準を5億円としたことが明らかに不合理であると認めるだけの根拠もない。以上のとおりであるから、右制度が政策目的に照らして明らかに不合理であるとはいえない。
2 その他の問題点・・・について
(一) 消費税の逆進性
租税の社会経済的機能の一つとして、所得の再分配の機能があり、右機能の発現として累積〔ママ〕課税制度が採用されていることは、一般に承認されているところである。
消費税法は、所得の低い消費者にも、所得の高い消費者にも、同一の物品を購入等する限りでは、同額の税分を転嫁するものであるから、この点で、累進課税制度のような所得再分配機能がないことは明らかである。しかも、所得の高い消費者層では、消費性向が鈍るという一般的現象があるといわれていることからすると、むしろ、右の所得の再分配機能の面から見れば、消費税法は、累進課税制度とは逆に、高額所得者に割合的には低い税負担をもたらす可能性が理論上ある。
(四) 課税最低限以下の所得しかない者に対する課税
消費税は、資産の譲渡、役務の提供などの殆どについて課税するのであるから、Xの主張するとおり、課税最低限以下の所得しかない者も消費税相当分を負担することがあるのは、明らかである。
しかしながら、所得税法上の課税最低限以下の所得しかない者に対して、他の種類の税負担を求めるか否かは、税制全体のあり方、例えば、消費税法の制定と同時に行われた所得税法の改正による各種控除額の引上げ及び所得税の税率の引き下げ、物品税の廃止、各種社会保障制度のあり方及び国民の具体的な生活状況等を総合的に検討したうえで初めて政策決定されるものである。したがって、消費税法が所得税法上の課税最低限以下の所得しかない者に対しても実質的税負担を求めているという事実のみをもって、これを不合理と即断することはできない。
三 消費税と憲法違反の有無
1 立法行為の違法性
立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというような場合でない限り、国家賠償法1条1項若しくは民法709条の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない(最高裁判所昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。
以下、消費税法が、憲法の一義的な文言に違反しているか否かについて検討する。
2 憲法84条及び29条違反・・・について
(一) 憲法84条
先に述べたように、消費税相当分の転嫁の仕方は、事業者の対価等の決定如何に委ねられており、その運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネが生じる可能性もなくはない。この点において、消費税負担者である消費者側から見れば、消費税分につき、自己の負担すべき額の決定が恣意的に行われるように見える余地はある。
しかしながら、消費者が消費税相当分として事業者に支払う金銭はあくまで商品ないし役務の提供の対価としての性質を有するものであって、消費者は税そのものを恣意的に徴収されるわけではない。そして、法律上の納税義務者である事業者が、恣意的に国から消費税を徴収されるわけでもない。したがって、消費税法は、租税法律主義を定めた憲法84条の一義的な文言に違反するものではない。
(二) 憲法29条
先に述べたとおり、仕入れ税額控除制度等は、運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネを許す余地を含んだ制度であることは否定できない。しかし、税制改革法はむしろ適正な転嫁を要求しているのであるから、右制度が、事業者に対して、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネを法的に保障しているということはできない。したがって、消費税法それ自体が財産権を侵害するものとはいえない。
もっとも、運用の如何により過剰転嫁につながり得るような制度を定める法律は、財産権を侵害するという議論も考えられないわけではない。しかしながら、憲法29条によって保障される財産権は、政策的目的により、制約され得るものであって、右政策目的による制約が憲法に違反するといい得るのは、政策目的から見て財産権制約の手段が明らかに不合理である場合に限られるものというべきである。しかも、対象者数が極めて多いうえ、国家財政、社会経済、国民生活等広範な分野に関係してくる租税法律関係の特質上、その立法にあたっては、右広範な分野にわたる資料を前提として、徴税コスト、納税義務者の事務量等をも考慮のうえ、政策的技術的判断を行わざるを得ない。したがって、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重すべきであり、具体的手段の選択が著しく不合理でない限り、その合理性を否定することはできず、これを憲法29条に違反するものということはできない。
そこで、右の見地から消費税法の内容が憲法29条の一義的な文言に違反するかどうか検討するに、・・・消費税法の仕入税額控除制度、事業者免税点制度及び簡易課税制度は、消費者に消費税分を過剰転嫁する可能性がなくはないが、全体として立法政策目的に照らして、憲法29条の一義的な文言に違反するとはいえない。
3 憲法14条違反・・・について
(一) 事業者間の不公平
・・・仕入れ税額控除制度、事業者免税点制度及び簡易課税制度は事業者に異なった取り扱いをもたらすものであるが、右各制度の立法目的及び事業者に及ぼす差別の程度が著しく不合理であることが明らかであるといえない。したがって、右各制度が憲法14条の一義的な文言に違反するとはいえない。
(二) 消費税の逆進性
所得の再分配等による実質的平等実現のための政策は、租税制度のみに限っても、所得税、住民税等を含めた全体の負担の中で検討されるべきであり、ひいては、各種社会保障等をも含めた総合的な施策によって実現されるべきものである。したがって、右各種政策の一部に過ぎない消費税法の課税のあり方のみをとらえて憲法14条の一義的な文言に違反するとは到底いえるものではない。
6 憲法25条違反・・・について
・・・消費税法が、課税最低限以下の所得しかない者に対する税負担を強いることになっても、それだけで消費税法が憲法25条の一義的な文言に違反するものとは到底いえない。
消費税法の内容につき政策的に当不当の問題はあり得るとしても、右問題がXらの主張するような憲法違反を招来するものとはいえず、同法の立法行為が不法行為となるとは到底いえない。
したがって、その余について判断するまでもなく、Xらの請求は理由がない・・・。
(続く)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。






















