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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第60回】「日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その3)」

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第60回】

日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その3)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら

はじめに

Ⅰ 国民から政府への意見提出権

1 請願権

2 嘆願書や請願書と応答義務

Ⅱ 税理士会等の建議権

《(その2)はこちら

Ⅲ 平成29年度税制改正に関する建議書

1 建議書における重要建議項目

2 平成29年度税制改正

 

Ⅳ 平成30年度税制改正に関する建議書

1 建議書における重要建議項目

続いて、平成30年度税制改正に関する建議書を確認しておこう。

日税連の平成30年度税制改正建議書には、相続税・贈与税項目として、「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度は、税制改正において大幅に改善されたものの、事業承継を必要とする経営者の利用拡大には未だ不十分である。適用要件のより一層の緩和を図り、納税者が利用しやすい制度にすべきである。」との要望が掲げられていた。

具体的には、「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、適用要件をより一層緩和し、納税者が利用しやすい制度にすること。」として、次のような提案が示されていた。

この制度は、中小法人の事業の承継に伴う様々な問題の解決を図るとともに、雇用の確保や地域経済の活力維持の観点から、事業承継の円滑化のために創設された制度であるが、その適用要件の厳しさからこれまで利用が進まなかった。そのため、平成 25 年度及び平成 29 年度税制改正において一定の適用要件の緩和が図られた。事業承継税制の利用をさらに推進するために、引き続き適用要件の緩和や事務手続の簡素化を検討する必要がある。

現行、この制度により免除される相続税額は、経営承継相続人等が納付すべき相続税のうち、その非上場株式等(一定の部分に限る。)の課税価格の 80%に対応する部分である。これに対して、贈与税の場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式等(一定の部分に限る。)に対応する贈与税の全額である。相続税の場合も、全額免除することを検討すべきである。

また、非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、猶予税額が免除されるのは、後継者の死亡や先代経営者の死亡等の場合であり、年数基準は措置されていない。これに対して、一定の要件を満たした農業相続人は、相続税の申告書の提出期限後 20 年を経過した場合には、特例農地等のうち市街化区域内の農地等に相当する部分に係る相続税が免除されることとなっている。非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、年数基準の導入を検討すべきである。

2 平成30年度税制改正与党大綱

与党大綱においては、次のとおり、事業承継税制の拡充が謳われている。

中小企業経営者の年齢分布のピークが60歳台半ばとなり、高齢化が急速に進展する中で、 日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上は、待ったなしの課題となっている。こうした中で、事業承継税制について、10年間の特例措置として、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充を行う。

具体的には、施行日後5年以内に承継計画を作成して贈与・相続による事業承継を行う場合、①猶予対象の株式の制限(発行済議決権株式総数の3分の2)を撤廃し、納税猶予割合80%を100%に引き上げることにより、贈与・相続時の納税負担が生じない制度とし、②雇用確保要件を弾力化するとともに、③2名又は3名の後継者に対する贈与・相続に対象を拡大し、④経営環境の変化に対応した減免制度を創設して将来の税負担に対する不安に対応する等の特例措置を講ずる。こうした特例措置を講じるに当たっては、租税回避が助長されないよう、制度面・運用面で必要な対応を行う。

この納税猶予の特例制度について、簡潔に確認しておこう。

(1) 概要

特例後継者(仮称)が、特例認定承継会社(仮称)の代表権を有していた者から、贈与等によりその会社の非上場株式を取得した場合には、かかる非上場株式に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等まで納税を猶予する。

なお、ここで、「特例後継者」とは、特例認定承継会社の特例承継計画(仮称)に記載された当該会社の代表権を有する後継者(同族関係者と合わせて当該特例認定承継会社の総議決権数の過半数を有する者に限る。)であって、かかる同族関係者のうち、当該会社の議決権を最も多く有する者(後継者が2名以上の場合には、議決権数上位2名又は3名の者)をいう。

また、「特例認定承継会社」とは、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出した会社であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律12条《経済産業大臣の認定》1項の認定を受けたものをいい、「特例承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、当該特例認定承継会社の後継者、承継時までの経営見通し等が記載されたものをいう。

(注) 差し込みの図表は、経済産業省ホームページからの引用である(以下において同じ)。


なお、特例後継者が特例認定承継会社の代表者以外の者から贈与等により取得する当該会社の非上場株式についても、特例承継期間(仮称)(5年)内に当該贈与等に係る申告書の提出期限が到来するものに限り、本特例の対象とするとされている。

(2) 雇用確保要件の緩和

現行の事業承継税制における雇用確保要件を満たさない場合であっても、納税猶予の期限は確定しない。

ただし、この場合には、その満たせない理由を記載した一定の書類を都道府県に提出しなければならない。なお、その理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、認定経営革新等支援機関から指導及び助言を受けて、当該書類にその内容を記載しなければならないこととされている。

(3) 特例承継期間経過後の株式譲渡等

経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合において、特例承継期間経過後に、特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするときや、合併により消滅するとき、解散をするとき等には、一定の限度額の範囲内で納税猶予税額が免除される。

なお、ここで、「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは、直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社が赤字である場合や、売上高がその前年に比して減少している場合が該当するとされている。

その他、直前の事業年度終了の日における特例認定承継会社の有利子負債の額が、その日の属する事業年度の売上高の6月分に相当する額以上である場合や、特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価が、その前年1年間の平均より下落している場合、特例後継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由がある場合もそれに該当することとされている。

(4) その他

特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年1月1日において20歳以上である者に限る。)であり、かつ、その贈与者が同日において60歳以上の者である場合には、相続時精算課税の適用を受けることができる。

なお、その他の要件等は、現行の事業承継税制と同様とするものとされている。

Ⅴ 税理士会の建議と請願

事業承継税制の拡充は、平成30年度税制改正の大きな目玉といえよう。

上記のような極めてインパクトのある事業承継税制の拡充改正案に至るまでには、日税連の建議のみならず、ロビー活動も欠かせないものであったと思われる(この点については、神津信一=酒井克彦「税制改正等における税理士の役割―その成果と今後の課題―」税務事例50巻1号1頁)。

本稿で確認してきたとおり、平成29年度税制改正においては災害対応税制の基本法化が実現し、平成30年度税制改正では事業承継税制がより使い勝手の良い制度へと改正される運びとなった。東日本大震災や熊本地震、大型台風の被害などが相次ぐ中での災害対応税制の基本法化も、我が国経済の土台を支える中小企業が後継者難にあえぐ実情に配慮された事業承継税制の拡充も、いずれも時宜を得た税制上の措置であると思われる。

次の一覧表は、日税連の建議が税制改正の実現につながった事項である。

これら「実現項目」欄に掲げられている条項に関する解釈問題に疑義がある場合には、日税連の建議にアクセスし、いかなる要望の下で制定ないし改正された条文であるのかという点を確認することが必要となろう。立法趣旨を探るに当たっては、その契機となった建議の内容を知ることから始める必要がある。

〈過去の税制改正と主な実現項目〉

(注) 日本税理士会連合会ホームページより

 

Ⅵ 結びに代えて

租税法が財産権に対する侵害規範であることからすれば、租税法は、原則たる財産権保障の例外的取扱いという位置付けになる。そうであるとすれば、自ずと租税法条文の解釈を行うに当たっては、厳格な解釈が要請されることになるのであり、原則として文理解釈が優先的に採用されることになろう。

もっとも、租税法が法である限り、その趣旨や目的から逸脱した解釈が許容されるわけではなく、解釈における二次的なテストとして、目的論的解釈も要請されよう。

しかしながら、目的論的解釈を採用しようにも、法条の趣旨、目的が判然としないことには先に進めない。ここで、条項の趣旨目的を確認するには、かかる条項がいかなる過程で制定・改正されたものであるのかといった立法背景の理解が必須となる。

かような問題関心から、対象とされている法条の制定過程について関心を寄せることが重要であり、税理士会の建議が経由されている場合には、建議内容についても確認をしておくことが必要となるのである。

(了)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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