酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第88回】
「附帯決議から読み解く租税法(その1)」
中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦
はじめに
附帯決議とは、国会において、委員会が法律案を可決する際に本案である法律案に附帯して行う決議で、当該法律の実施に際しての希望、留意事項等を法律案自体とは別個に決議するものである。
決議された内容に法的拘束力は無いが、政府を代表して所管大臣が「決議の趣旨を尊重する」旨を回答するため、一定の政治的効果はあると考えられている(石井和孝「附帯決議に関する国会議員への意識調査」千葉大学人文公共学研究論集38巻48頁(2019))。
本稿では、国会が行う附帯決議が租税法の解釈・適用に如何なる意義を有するかという点について考えることとしよう。
Ⅰ 租税法における附帯決議の例-総額主義か争点主義か-
不服申立ての段階における国税不服審判所では、総額主義が採用されるべきかあるいは争点主義が採用されるべきかという重要な論点がある。これは、いわゆる「理由の差替」を認めるか否かに影響する議論である。
総額主義は、我が国の租税訴訟が採用する原則的考え方であり、審査請求人の主張の範囲に制限されることなく、原処分を適法又は違法とするあらゆる理由が審理の対象となるべきとする考え方であり、結局においては、課税標準等又は税額等の金額の適否が重要な争点となる。
これによれば、理由の差替が認められることになろう。
これに対して、争点主義とは、審理を行うに当たっては、審査請求人及び原処分庁の双方の主張により明らかとなった処分理由に起因する争点に主眼を置いて効率的に行うべきとする考え方である。
すなわち、争点主義においては、原則として理由の差替は認められないことになる。
紛争の一回的解決を尊重するならば、総額主義が優れていると考えられるが、他方で、処分理由の附記が法律上要求されており、かかる処分あっての争いであることを念頭に置けば、処分理由から離れたところでの審理は納税者の救済に資するところが少ないとみることもできる。
けだし、処分理由の明示が要求されるのは、納税者の側での争訟準備のためでもあることに鑑みれば(酒井克彦『行政事件訴訟法と租税争訟』223頁(大蔵財務協会2010)参照。いわゆる「争点明確化機能」。)、争点主義と親和性を有するともいえそうである。
さて、いずれの考え方に従うべきであろうか。
最高裁昭和49年4月18日第一小法廷判決(訟月20巻11号175頁)は、次のように判示している。
被上告人のした本件決定処分は、上告人の昭和38年における総所得金額に対する課税処分であるから、その審査手続における審査の範囲も、右総所得金額に対する課税の当否を判断するに必要な事項全般に及ぶものというべきであり、したがって、本件審査裁決が右総所得金額を構成する所論給与所得の金額を新たに認定してこれを考慮のうえ審査請求を棄却したことには、所論の違法があるとはいえない〔。〕
これは総額主義を支持した判示である。
その他にも例えば東京高裁昭和48年3月14日判決(行集24巻3号115頁)も次のとおり示し、総額主義を採用している。
〔筆者注:審査〕手続には訴訟における如く弁論主義が適用されず、職権主義が採用され、従って審査の範囲は、審査請求の理由に拘束されることなく、又職権で審査請求人の提出しない証拠を取り調べることもできるのであって・・・、当該審査請求の対象となった処分の当否を判断するに必要な範囲全般に及ぶものと解すべきである。本件についていえば控訴会社の審査請求の対象は、当該事業年度の課税標準および法人税額についての更正処分の当否であって、その審査の範囲は、更正の理由のみに限定されるものではなく、又控訴会社の主張するように審査請求の理由のみに限定されるものでもない。更正処分の段階において見逃がされていた新たな事実についても審査できるし、又その理由に基づいて処分の当否の判断ができるのである。そしてかく解したからといって審査請求が国民の権利利益の救済を図るものであるという制度の趣旨にもとるものとはいえない〔。〕
このように総額主義を採用する最高裁判決や下級審判断があることに加え、さらに、政府税制調査会は次のように示している(昭和43年7月付け「税制簡素化に関する第三次答申」)。
審理は請求人の主張を中心として行うが、不服審理の過程で原処分の見過していた事実を発見したときは、それも審理の基礎とし、請求人の主張には制限されないものとする。
このように、最高裁も政府税制調査会も総額主義による旨を論じているところであるが、沿革からも検討を加えてみよう。
そこで、次に、沿革からの検討を行うために、昭和45年の国税通則法改正を巡る国会議論を参考としたい。
昭和45年3月17日の第63回国会参議院大蔵委員会における青木一男委員の追及を見てみよう。
国税不服審判所は、審査請求、答弁書その他の事項に盛られた問題のどちらの人が正しいかということについて審判すべきであって、新たに課税限度を取り上げるべきではない〔。〕
これに対して、福田赳夫大蔵大臣(当時)は次の答弁をしている。
大蔵当局は慎重にこの問題を検討してみたのであります。その結論を申し上げますと、非常に傾聴すべき御意見だという見解であります。国税不服審判所が成立した暁には、それが納税者の権利の救済機関であることに鑑み、審査を申し立てられた事項は、これに対する答弁書に記載された事項、さらに納税者側の反論内容を基礎として審理裁決が行われるよう指導する考えであります〔。〕
このような答弁からすると、国税不服審判所においては争点主義が採用されると考えるべきなのかもしれない。
もっとも、最高裁判決及び政府税制調査会の答申などもあるなかにおいて、この大蔵大臣答弁だけをそのように解する根拠とすることは、いささか心もとないようにも思われる。
むしろ、同審判所が採用すべきが総額主義か争点主義かを決定付けるのは、次に示すように、昭和45年3月24日に行われた参議院大蔵委員会における附帯決議であるといえよう。
政府は、国税不服審判所の運営に当たっては、その使命が納税者の権利救済にあることに則り、総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。
なお、衆議院大蔵委員会においても、ほぼ同旨の附帯決議が行われている。
今日においては、国税不服審判所の運営は争点主義的運営が展開されている。
国税不服審判所ホームページに掲載されているパンフレット「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし」(令和元年8月)には、「国税不服審判所の特徴」に関し「争点主義的運営」として次のような記載がある。
国税不服審判所は、審査請求人と処分を行った税務署長等の双方から事実関係や主張を聴き、争点に主眼を置いた調査・審理を行っています。
また、次にみるとおり、パンフレット「審査請求よくある質問 -Q&A-(審査請求をより詳しく知りたい方へ)」(令和元年8月)においても争点主義を取り入れている点を明らかにしている。
争点とは、納税者に対して、課税上又は徴収上、原処分を行うための法律上の要件(どのような場合に納税者に納税義務が発生するかという課税等に関する一定の法律効果が発生する要件などをいいます。)に関する審査請求人及び原処分庁の主張の相違点をいいます。
主張には、法令解釈に関するもの、事実関係に関するものなどがあり、それらの具体的な相違点が争点となります。
審査請求の審理は、この争点についての判断に主眼を置いて進めますので、課税上又は徴収上、原処分を行うための法律上の要件の判断に影響を与えない事柄に関する主張(例えば、税務行政に関する不満など)は、審査請求の審理の対象となりません〔下線筆者〕。
これからも明らかなとおり、現在の国税不服審判所は争点主義を取り入れている。かように、国会における附帯決議が、法律や制度の解釈・適用の手助けとしての重要な意義を有する場合があるのである。
(続く)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。






















