公開日: 2016/02/10 (掲載号:No.156)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第38回】「法人税法にいう『法人』概念(その2)」~株主集合体説について考える~

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第38回】

「法人税法にいう『法人』概念(その2)」

~株主集合体説について考える~

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

(その1)はこちら

はじめに

1 個人株主と法人との間の配当二重課税排除

(1) 支払配当控除方式

(2) グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式)

 

2 配当控除(所法92)と受取配当益金不算入(法法23)

前述のとおり、支払配当控除方式では必ずしも正確な二重課税の排除を行うことができない反面、グロスアップ方式には、その仕組みが複雑であることや国民の理解を得にくいという難点がある。そこで、グロスアップ方式を採用したとした場合に控除されるべき二重課税額相当額に近似した金額となるように、支払配当控除方式の計算式(配当金額×控除率)を用意することで、これらの問題を解決しようとするのが、我が国の税制である。具体的には、所得税法92条の配当控除によって二重課税の調整を図っているのである。

さて、このような制度設計の場合、法人から配当を受ける者が個人株主のみであれば、その個人株主の所得税額計算の段階で上記の配当控除(所法92)の適用により二重課税の調整が図られるのであるが、株主が必ずしも個人であるとは限らないであろう。むしろ、我が国の場合、企業の安定的経営等のために、株主が法人であるケースが多い。

ところで、例えば、A法人の株主がB法人であるケースにおいては、A法人からB法人が受けた配当金がB法人における法人所得に算入され、B法人において法人税の課税を受けることとなり、かかるB法人の法人税の計算後の利益から個人株主が配当を受けた場合に、当該個人株主の段階で配当所得に対する所得税課税がなされると、二重課税どころか三重課税となってしまう。

しかしながら、所得税法92条は、グロスアップ方式の計算結果と近似するように二重課税の調整計算を行うものであって、決して、三重課税の調整計算を想定しているわけではない。

このようなケースがあり得るので、所得税法に、三重課税の場合の税額控除として、配当控除を設けることも考えられるところではあるが、そうなると、四重課税、五重課税・・・と際限なく複数課税の税額控除規定を設けなければならないことになる。そもそも、個人株主が、自分が受けた配当につき、それが三重課税の配当なのか、四重課税の配当なのかを判断することは至難の業である。

そこで、我が国の租税法は、法人が法人から受ける配当については、法人税を課さないこととしているのである(いわば法人を導管のように見立てているのである)。すなわち、法人税法の益金の規定である同法22条2項に「別段の定め」を設けて、法人税法23条に法人が他の法人から配当を受けた場合であっても、原則としてそれを益金に算入しないという仕組みを設けているのである。

〈図表3〉
                配当                           法人税法23条:受取配当益金不算入                            この段階で初めて配当に対する課税                      A法人における法人課税と個人株主における所得課税の二重課税のみ                      ⇒所得税法92条:配当控除

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【第38回】

「法人税法にいう『法人』概念(その2)」

~株主集合体説について考える~

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

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はじめに

1 個人株主と法人との間の配当二重課税排除

(1) 支払配当控除方式

(2) グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式)

 

2 配当控除(所法92)と受取配当益金不算入(法法23)

前述のとおり、支払配当控除方式では必ずしも正確な二重課税の排除を行うことができない反面、グロスアップ方式には、その仕組みが複雑であることや国民の理解を得にくいという難点がある。そこで、グロスアップ方式を採用したとした場合に控除されるべき二重課税額相当額に近似した金額となるように、支払配当控除方式の計算式(配当金額×控除率)を用意することで、これらの問題を解決しようとするのが、我が国の税制である。具体的には、所得税法92条の配当控除によって二重課税の調整を図っているのである。

さて、このような制度設計の場合、法人から配当を受ける者が個人株主のみであれば、その個人株主の所得税額計算の段階で上記の配当控除(所法92)の適用により二重課税の調整が図られるのであるが、株主が必ずしも個人であるとは限らないであろう。むしろ、我が国の場合、企業の安定的経営等のために、株主が法人であるケースが多い。

ところで、例えば、A法人の株主がB法人であるケースにおいては、A法人からB法人が受けた配当金がB法人における法人所得に算入され、B法人において法人税の課税を受けることとなり、かかるB法人の法人税の計算後の利益から個人株主が配当を受けた場合に、当該個人株主の段階で配当所得に対する所得税課税がなされると、二重課税どころか三重課税となってしまう。

しかしながら、所得税法92条は、グロスアップ方式の計算結果と近似するように二重課税の調整計算を行うものであって、決して、三重課税の調整計算を想定しているわけではない。

このようなケースがあり得るので、所得税法に、三重課税の場合の税額控除として、配当控除を設けることも考えられるところではあるが、そうなると、四重課税、五重課税・・・と際限なく複数課税の税額控除規定を設けなければならないことになる。そもそも、個人株主が、自分が受けた配当につき、それが三重課税の配当なのか、四重課税の配当なのかを判断することは至難の業である。

そこで、我が国の租税法は、法人が法人から受ける配当については、法人税を課さないこととしているのである(いわば法人を導管のように見立てているのである)。すなわち、法人税法の益金の規定である同法22条2項に「別段の定め」を設けて、法人税法23条に法人が他の法人から配当を受けた場合であっても、原則としてそれを益金に算入しないという仕組みを設けているのである。

〈図表3〉
                配当                           法人税法23条:受取配当益金不算入                            この段階で初めて配当に対する課税                      A法人における法人課税と個人株主における所得課税の二重課税のみ                      ⇒所得税法92条:配当控除

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連載目次

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

関連書籍

現代税法入門塾

石村耕治 編

演習法人税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

入門税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

図解 租税法ノート

八ッ尾順一 著

【電子書籍版】法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

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公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

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法人税申告書と決算書の作成手順

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