酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第87回】
「政策目的からみる租税法(その3)」
中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦
《(その1)はこちら》
はじめに
Ⅰ 素材とする事例
1 概観
2 具体的事実
3 当事者の主張
4 裁判所の判断
5 コメント
《(その2)はこちら》
Ⅱ 自動車重量税の性格
1 自動車重量税法
2 「権利」に課される自動車重量税
3 環境汚染と自動車重量税
Ⅲ 自動車重量税法の沿革と趣旨
1 法の解釈姿勢
租税法の解釈を考えるに当たって、かかる法の趣旨目的を探ることは非常に重要である。法の趣旨目的から逸脱したところで法解釈がなされることは、租税法律主義の観点から問題があることはいうまでもない。
そして、法の趣旨目的を探るには、その法の立法経緯をはじめとする沿革に目を向ける必要がある。
創設当初の議論が直接参考になることもあれば、他方で、経済社会の進展を受けて法の趣旨目的に変容が認められる場合もあり得よう。
以下では、簡潔に自動車重量税法の沿革を確認し、改めてその趣旨を探ってみたい。
2 沿革
ここまで繰り返し確認してきたとおり、自動車重量税は、車検を受けることで自動車が走行可能になるという法的地位を得ることに対して課される一種の権利創設税と解されている。本件判決はこの立場に立っている。
かような自動車重量税の沿革を時系列に沿って確認しておくこととしよう(以下は、佐藤良「車体課税をめぐる経緯及び論点」調査と情報935号(2017)を基に、筆者が時系列として再整理したものである。なお、平成27年以下については、国土交通省の税制改正要望などを参考にしている。)。
〇昭和46年
自動車に係る社会的費用を確保するとともに、第6次道路整備5か年計画(昭和45~49年度)における財源不足に対応するために創設された。根拠法である「自動車重量税法」(昭和46年法律第89号)上は、税収の使途を特定しない普通税であるが、運用上、自動車重量譲与税分を除いた国の歳入分の約8割が国の道路特定財源として扱われてきた。
〇昭和49年、51年
昭和49年、自動車取得税と同様に、地方道路財源の拡充を図る必要性等の理由から、昭和49~50年度の暫定税率として、自家用自動車の税率を本則税率の2倍に引き上げる措置が採られ、同51年には、自家用自動車で約25%増、営業用自動車で約12.5%増へと暫定税率が引き上げられた上で、適用期限が延長された。
なお、その後、平成20年に、平成30年4月末までの10年間の適用期限が設けられるまで、累次、暫定税率の適用期間が延長されてきた。
〇平成21年
自動車取得税と同様に、一般財源化がなされるとともに、環境性能に優れた自動車に対する時限的な減免措置(エコカー減税)が導入された。
〇平成22年
上記、平成30年4月末までの予定であった暫定税率が廃止され、車体の環境負荷に応じた複数税率が設定された。具体的には、次世代自動車(電気自動車、ハイブリッド車等)に本則税率を適用し、ガソリン自家用乗用車(18年経過車を除く。)に当分の間の税率として本則税率の2倍の税率を適用する等の措置を行う一方、18年経過車に係る税率については暫定税率の水準で据え置いた。
なお、エコカー減税は維持されている。
〇平成24年
環境性能に関する一定の基準を満たしている自動車を対象に、本則税率が適用され、それ以外の自動車に適用される当分の間の税率については、13年経過車を除き、引き下げられた。
なお、エコカー減税は、自動車取得税と合わせて、適用期限を3年間延長するとともに、最新の燃費基準への切替え、環境性能に優れた自動車への減免措置の重点化が行われた。
〇平成26年
エコカー減税を拡充するとともに、財源確保及び一層のグリーン化推進の観点から、新車新規登録から13年を経過した自家用自動車(18年経過車を除く。)の税率を段階的に引き上げられた。
〇平成27年
エコカー減税の適用期限が平成29年4月末まで2年延長されるとともに、燃費基準の切替えと減免対象の重点化が行われた。
〇平成28年
自動車重量税及び自動車取得税のエコカー減税の対象に、平成28年ディーゼル重量車排出ガス規制に適合する車両が追加された。大気汚染状況について、大都市地域においても環境基準の達成を将来に向けて確実なものとするため、ディーゼル重量車に対して、平成28年排出ガス規制が導入されたことを踏まえ、税制上の特例措置を講じることにより環境性能の優れた自動車の普及を促進することを必要とする観点によるものである。
3 法の趣旨の変容
上記のとおり、自動車重量税は昭和46年に創設されたものであるが、自動車に係る社会的費用を確保するとともに、第6次道路整備5か年計画(昭和45~49年度)における財源不足に対応することを目的としていたものである(佐藤・前掲稿、7頁)。
その後、自動車重量税は、昭和49年以降、平成20年に、同30年4月末までの10年間の適用期限が設けられるまで、累次、暫定税率の適用期間が延長されてきたわけであるが、同税を含む自動車関連税は、「急増する道路整備需要を賄う財源を求めるとともに、燃料間の税負担格差、地方の道路整備財源の確保等の見地」から、税率の引上げが繰り返されてきたのである(古川浩太郎「自動車関連税制の現状と課題―道路特定財源としての側面を中心に―」レファレンス57巻8号80頁(2007))。
このように、自動車重量税は、(その運営上、一般財源とされてきたのか、特定財源であったのかは一先ず置いておくとして)道路整備を主目的として運用されてきた税であるといってよいであろう。
しかし、その方向性は、平成20年代になって導入されたいわゆる「エコカー減税」を契機に大きく変わったもののように解される。
すなわち、かかる減税が、環境性能に優れた自動車に対する時限的な減免措置であるとおり、自動車重量税の減免というインセンティブを設けることによって、環境に配慮した自動車の普及促進が図られるようになったのである。
なお、自動車重量税法は、「13年経過車」や「18年経過車」といった基準を設け、新規登録から13年以上の車に対しては税率が上がる仕組みを採用している。加えて、18年以上となると更に税率が高くなるのであるが、これは、新規登録から13年以上経過したガソリン車などは、環境にかける負荷が大きいことから重課されるようになったものと解される。
このように、環境に対する負荷の観点から、自動車重量税の税率には差異が設けられており、これは、自動車重量税法の主たる目的が、道路整備から環境配慮に移行していることの証左といってもよいであろう。
なお、近時、「エコカー減税縮小」といった報道等がなされることがあり(日本経済新聞電子版2018年12月4日「車検時のエコカー減税縮小 免税枠はEV・PHVなど」参照)、その点のみを切り取ると、上記とは逆のベクトルに進んでいるようにも見受けられるところではあるが、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車など、特に環境についての配慮性が高い車を重点的に免税とすることで、それらの普及促進を図るものであると捉えれば、昨今の自動車重量税法は、より一層の環境配慮を目的としているものと整理することもできそうである。
また、本稿では詳しく取り上げてこなかったが、自動車関連税の1つであった自動車取得税は、平成31年10月の消費税率10%への引上げに伴い廃止されている。その一方で、自動車の取得時において、その環境性能に応じて課税する「環境性能割」が導入されており、自動車関連税全体が、環境配慮の目的に向かっていることも指摘しておきたい。
結びに代えて
このように当初は、道路財源の確保という意味合いの強かった自動車重量税であるが、その後、同税を取り巻く環境にも変化があり、今日において、自動車重量税の法的性質はグリーン化促進のためのものという意味合いが強くなってきているといえよう。
そうであるとするならば、単なる「権利」の創設に関心を寄せ、所有権が公証等されているか否かという点についてのみ自動車重量税の趣旨を見出して課税をすることには限界があるというべきなのではなかろうか。
結論を端的にいえば、自動車重量税の法的性質や趣旨は既に変容してきているといってもよく、その趣旨に応じた課税上の取扱いが解釈論として展開されることも検討されるべきではなかろうか。
なお、平成28年1月、多くの大学生を乗せたスキーバスが軽井沢で転落したという痛ましい事故が起こったが、それ以前から、平成24年4月に関越自動車道で高速バスの大事故が起こるなどしており、バスやトラックについて、衝突被害軽減ブレーキ等のASV装置の備付けが喫緊の課題とされてきた。
そうした装置設備を促進するため、自動車重量税法は、かかる装置を搭載した場合の特例措置を講じ、平成25年、27年、29年、31年と、かかる措置の拡大と延期が続けられている。
このように、自動車重量税法は、当初は道路整備に関する5か年計画にみる経済成長に資するために設けられ、その後、近年では、環境への負荷を基準とした税率が採用されている。そして、高速バスツアーの大事故を防ぐべく装置取付けを促進することで、交通事故の減少も目的としているのである。
このように見てくると、自動車重量税法はその時々の政策目的を色濃く反映している税制であるといってよいであろう。それは、まるで、優良な住宅普及を促進するために設けられている、住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除。措法41)のようにである。
同控除の適用を巡って争われた事例に、東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)(第16回~18回「建替え建築は『新築』か『改築』か?」参照)があるが、そこでは、「本件特別控除は、住宅政策の一環として、持家取得の促進と良質な住宅ストックの形成を図るとともに、住宅投資の活発化を通じた景気刺激策として、所得税額から一定額を控除する制度である。」とした上で、同控除の趣旨目的に即した解釈が展開されている。
このように、政策目的が強い租税法の解釈においては、かかる政策目的を念頭に置いた解釈がなされるべきであると解される。
そうであるとすれば、やはり、自動車重量税法の適用に当たって、単なる「権利」の創設に関心を寄せて法解釈を行うことには疑問を挟む余地もあり、いわば、もう運転できない車に対しての自動車重量税の課税のあり方については再考すべき時期が来ているように思われるのである。
もっとも、そうであるとはいっても、そこには「文理解釈」という租税法解釈において最優先されるべき解釈論が存在することを忘れてはならないし、また、そうした文理解釈を否定するものでは決してないことを付言しておきたい。
(了)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。






















