酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第81回】
「シャウプ勧告から読み解く租税法解釈(その3)」
中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦
《(その1)はこちら》
はじめに
Ⅰ シャウプ勧告のインパクト
Ⅱ シャウプ税制の変転
《(その2)はこちら》
Ⅲ シャウプ勧告が租税実体法の解釈に及ぼす影響
1 所得税法にみるシャウプ勧告の影響
2 相続税法にみるシャウプ勧告の影響
Ⅳ シャウプ勧告と今日の租税法
1 シャウプ勧告は解釈論に影響を及ぼさないのか
これまでの連載では、シャウプ勧告が我が国の今日の税制を構築するに当たって極めて強いインパクトを持って迎えられ、それによって大改革が展開されたにも関わらず、その後の度重なる税制改正によって、その本旨とするところに修正が施されてきた点を確認した。
むしろ、今日的には、シャウプ勧告の理念や思想はさることながら、具体的な条文の解釈論を展開するに当たって、同勧告は直接的な参考となるものではないような事例が散見されており、租税法解釈において、シャウプ勧告は必ずしも重要視すべき参考資料としての意義を有していないようにも思われる。
しかしながら、本当にそうであろうか。
2 墓石・カロート事件
ここに、東京地裁平成24年1月24日判決(判時2147号44頁。以下「東京地裁平成24年判決」という。)を確認しておきたい。
これは、宗教法人が霊園の墓地等の使用者から永代使用料等として収受した金員のうち、墓石及びカロート(墓石の基礎と一体となった骨壺等を収納するための設置物)に係る部分は、法人税法上の収益事業による所得に該当し、また、消費税の課税対象になると判示された事例である。
(1) 公益法人等に対する法人税の課税の仕組みについて
ア 法人税法4条1項は、内国法人は、同法により法人税を納める義務があるが、内国法人である公益法人等については、収益事業又は退職年金業務等を行う場合に限る旨を定め、同法7条は、内国法人である公益法人等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、各事業年度の所得に対する法人税を課さない旨を定めており、宗教法人法に定める宗教法人は、法人税法にいう公益法人等であるとされている(同法2条6号、別表第2)。
以上の規定によれば、内国法人である宗教法人がある事業年度の所得に対する法人税の納税義務を負うのは、当該宗教法人が当該事業年度において収益事業を行う場合において、当該収益事業から生じた所得がある場合ということになる。このように、宗教法人等の公益法人等について、法人税法上、原則として法人税を課さないこととし、収益事業を行う場合にのみ課税することとされているのは、公益法人等は、専ら公益を目的として設立され、営利を目的としないという公益性を有する一方で、収益事業を行う場合には、一般の私企業と競争関係にあることから、課税の公平性という観点からも、そのような収益事業から生じた所得についてまで公益性を理由に非課税とするのは相当でないためであると解される。
そして、法人税法2条13号は、「収益事業」とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいうと定め、法人税法施行令5条1項は、上記「政令で定める事業」として物品販売業(1号)、不動産販売業(2号)、不動産貸付業(5号)など33の事業を掲げているところ、上記のとおりの公益法人等に対する法人税の課税の趣旨に照らせば、同項に掲げる事業を行う公益法人等については、たとえその事業が当該公益法人等の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業から生ずる所得については法人税を課すことになると解するのが相当である(法人税基本通達15-1-1参照)〔。〕
この点、原告は、公益法人等について原則として法人税を課さないこととしているのは、公益法人等の公益的活動に課税面で配慮することとしたものでもあり、公益法人等の公益的活動については、非課税とする趣旨であると主張する。
その上で、公益法人等の行う収益事業であっても、公益的活動及びこれと密接不可分な事業については非課税と解すべきであって、一般事業者との競争条件の平等を図るいわゆるイコールフッティングをその論拠に持ち出すのは不当である旨の主張をした。
これに対して、東京地裁平成24年判決は次のように判示する。
しかし、従前、公益法人等については、その行う事業が収益を生じるものであるか否かを問わず非課税とされていたものが、シャウプ勧告を経て、公益法人等が行う収益事業から生じた所得については課税の対象とすることを原則として、例外的に法人税法2条13号が委任する法人税法施行令5条1項に列挙された事業から生じた所得についてのみ課税しない〔ママ。筆者注:正しくは「課税する」と思われる。〕こととしたのは、公益法人等が社会的に有用な非営利活動を行うことを主たる目的とすることは否定できないことから、その範囲では税制上の便宜を提供することとはするものの、他の個人事業者や法人と同様に収益を生ずべき事業を行っている場合が少なくないことから、そのような事業から生じた収益に対しては、これらに税制上の便宜を提供すべき根拠がなく、また、同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点から、課税の対象としているものと解するのが相当であり(最高裁平成18年(行ヒ)第177号同20年9月12日第二小法廷判決・裁判集民事228号617頁参照)、その意味では、一般事業者との競争条件の平等化を図ることもまた上記の課税制度の根拠の一つとなっているというべきである。
東京地裁平成24年判決は、かかる最高裁を引用し、イコールフッティング論を展開しているわけであるが、同地裁の判示を引き続き確認しよう。
そして、このような公益法人等に対する課税制度の趣旨に照らせば、公益法人等が行う収益事業が、当該公益法人等の本来の目的の一部をなし、あるいは本来の目的と密接に関連するものであっても、そのことから直ちに当該事業から生じた収益が非課税となるものではなく、当該事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行われる性質のものか、それとも喜捨等の性格を有するものか、また、当該事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に判断するのが相当である(上記最高裁判決参照)。
3 シャウプ勧告の影響を受けた公益法人等課税制度
このように公益法人等課税制度を語る際には、まず、シャウプ勧告における税制創設の趣旨から論じられることが多いように思われる。
例えば、東京地裁平成18年6月2日判決(税資256号順号10416。以下、「東京地裁平成18年判決」という。)も次のように述べて、シャウプ勧告による公益法人等課税制度の趣旨を論じている。
ア シャウプ使節団が行った勧告(以下「シャウプ勧告」という。)を受けて昭和25年に改正された法人税法は、公益法人等について個別にその事業内容を審査し、特に公益性の高いものについてのみ免税資格を付与する旨の個別審査方式を採用せず、公益法人等が収益事業を営む場合には、その公益事業の内容いかんにかかわらず、その収益事業から生ずる所得について課税することとしたが、収益事業の定義は定めずに、収益事業に該当する事業の種類を挙げ、当該事業を営んでいれば、その目的いかんにかかわらず、その事業は収益事業に該当すると定めた〔。〕
イ その後、法人税法は、収益事業の範囲及び税率等の改正を行い、本件各事業年度当時、収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいうと定め(2条13号)、法人税法施行令は、法人税法2条13号に規定する政令で定める事業として33の事業を列挙した上、その性質上その事業に付随して行われる行為を含む旨定める(5条1項1号から33号まで)とともに、公益法人等が収益事業を営む場合には、その公益事業の内容いかんにかかわらず、その収益事業から生ずる所得についてのみ法人税を納める義務がある旨定めていた(4条1項、5条及び7条)。そして、法人税法及び法人税法施行令には、公益法人等の設立目的とされている本来の事業は収益事業に該当しない旨定めた規定はないから、上記アを変更していないというべきである。
したがって、たとえ公益法人等の営む事業が当該公益法人等の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業が法人税法に定める収益事業に該当する限り、当該事業から生ずる所得については法人税が課されるのであって、法人税基本通達15-1-1は、そのことに留意するよう明確に定めている。
そうすると、公益法人等が、行政機関から特定の行政権限を委任された指定機関であり、指定を受けた委任事務が行政事務であったとしても、指定を受けた委任事務が収益事業に該当する場合には、当該公益法人等は、指定を受けた委任事務から生ずる所得について法人税を納める義務があるというべきである
結びに代えて
シャウプ博士は、「税制は、国民の最も貴重な資源の一つです。もし税制が打撃を受け、うまく機能しなくなったりしたら、国は全体としてインフレに移行し、その他にも何が起こるかわかりません。したがって税制を保護するためには、全体的な不公平感を是正しなければなりません。納税者なしの税制はありえませんし、納税者自身が納得して、全体としても筋が通っていてこそ公平な税制といえるのです。」と述べている(金子宏司会ほか座談会「カール・シャウプ博士を囲んで」税研23号52頁(1989))。
このようにシャウプ勧告は租税の公平を基調として我が国の税制を構築したことが分かる。
もっとも、シャウプ勧告は、所得税中心主義であり、そこでは包括所得課税の理念の下、キャピタルゲイン課税を徹底する旨を論じ、一旦はそれに従った税制が設けられたものの、その後の税制改正において、同勧告の採用するキャピタルゲイン課税に制限を加えるなどの改正が度々なされたことも前述のとおりである(本連載「その2」も参照)。
そのような意味では、所得税中心主義を採用しているとはいえない今日の税制を前提としたとき、また、完全なる包括所得課税や完全なるキャピタルゲイン課税が貫徹されていない今日においては、シャウプ勧告の考え方と一致しているとまではいえないため、個別の条文解釈に直接の影響を及ぼす余地は少ないかもしれない。
(※) 林建久教授は、シャウプ税制が実施後わずか2、3年で税制の核心部分が解体されてしまったことについて、「はじめからそれが当時の日本に適応ないし無理だったことを意味するのであって、はじめはよかったのに、時とともにまずくなっていったということではない。」とされる(林「シャウプ勧告の意味するもの」税研15巻3号24頁(1999))。林教授は、「シャウプ勧告は、戦後日本の租税体系の原点に位置している。それは、戦前・戦時にしだいに形成されてきた日本自身の税制の発展という面をもっていないわけではないが、むしろその税制に対するシャウプ氏の批判から生まれてきた面のほうがはるかに強い。かと思うと、一方ではアメリカでも実行されていないような制度がかなり採り入れられている。それはアメリカ税制についてのシャウプらの意見なり批判なりが、アメリカでは実現できずに日本にその場を見出した結果ではないかとも推測される。とすれば、この勧告は、占領政策の一環、ドッジ・ラインの一環ではあるが、よりつよくシャウプらの租税理念実現の場であったということになりそうである。そして、他ならぬそのことが、シャウプ勧告のその後の運命を大きく左右することにもなったのではないかと想像される。運命というのは、ここでは短命の謂いである。すなわち、勧告にもとづいて日本政府が新たにつくった1950(昭和25)年度の税制は、当初から必ずしも全面的には勧告を採り入れていなかったのであるが、朝鮮戦争というような予想の出来ない影響もあって、翌年からははっきりと勧告の線は崩れはじめ、昭和20年代末にはほぼ完全に崩壊してしまったのである。」とされるのである(林建久「シャウプ勧告と税制改革」東京大学社会科学研究所編『戦後改革〔7〕経済改革』205頁(東京大学出版会1974))。
さりとて、シャウプ勧告あっての今日の我が国税制であることも忘れてはなるまい。
混沌とした社会環境において、対象となる税制がいかなる趣旨目的で構築されたのかという点に思いを致さなければならない解釈局面は少なくない。
その際に、上記の公益法人等課税制度の理解を裁判所が行うのと同様に、原点に返って、シャウプ勧告が求めていた制度の意義や趣旨を改めて検討することが求められるのではなかろうか。
社会が大きく変革をしている現下、税制のあり方を考えるに当たっても、原点に戻って、改めて税制の向かうべき方向の羅針盤を読むという意味においても、シャウプ勧告は参考になるものといえよう。
(了)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。






















