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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第62回】「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その2)」

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第62回】

「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その2)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら

はじめに

Ⅰ 条文見出しの意義

1 条文見出しの意義・役割

2 条文見出しの沿革

3 条文見出しの改正

3 条文見出しの改正(承前)

(2) 「実質所得者課税の原則」と「実質課税の原則」

以下では、条文見出しとその改正が租税法の解釈にいかなる影響を及ぼすか、具体的な租税法条文を参考に考えてみたい。ここでは、所得税法及び法人税法に規定されている「実質所得者課税の原則」を素材に検討を加えることとする。

所得税法12条《実質所得者課税の原則》

資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

この規定は、当初「実質課税の原則」という見出しで、昭和28年度税制改正において、旧所得税法3条の2として立法化されたものである(旧法人税法7条の3にも同旨の規定が設けられた。)。

旧所得税法3条の2《実質課税の原則》

資産又は事業から生づる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、当該収益を享受せず、その者以外の者が当該収益を享受する場合においては、当該収益については、所得税は、その収益を享受する者に対して、これを課するものとする。

この規定は形式的な法人成りに対応するために創設されたものと説明されている。すなわち、形式上の法人を作り、実質的には個人所得であるものを法人に取得させるケースが戦後増加したことに対応した措置である(高木克己「実質課税の原則における論理」駒大経営研究41巻3=4号86頁)。

その社会的背景としては、昭和24年に制定された中小企業等協同組合法に基づく企業組合が多数発生し、単に租税負担を免れるために法形式のみを法人とするケースが相当数見受けられるに至ったことが指摘されている(茂木繁一「税法における実質主義について―その総論的考察―」税大論叢6号61頁)。

併せて、当時の通達も確認しておこう。

所得税通達(昭29直所1-42通達9)

所得税法第3条の2《実質課税の原則》の規定は、所得の帰属又は種類等につき名義又は形式とその実質とが異なる場合には、その名義又は形式にかかわらず、実質にしたがって所得税を課するといういわゆる実質課税の原則を資産又は事業から生ずる所得の帰属者について明らかにした宣言的規定であるから留意すること。

また、当時の裁判例では、旧所得税法3条の2について次のような説示がなされている(広島高裁昭和36年4月28日判決・税資42号507頁。なお、上告審最高裁昭和39年6月30日第三小法廷判決・集刑151号547頁において上告棄却)。

実質課税の原則なるものは、租税制度における最も古くかつ重要な、公平負担の原則の一面として、法律上の明文の有無にかかわらず、何人の承認をも受くべき基本的な条理であるばかりでなく、既に・・・所得税法第4条により税法上の原則として承認されているところであって、所論所得税法第3条の2等の法条は、ただこれを一層明確にした、いわば確認的な規定に過ぎず、所論のような創設的な規定ではない。

ここでは、「実質課税の原則」を租税法上の基本的な条理であるとし、同条はそれを確認した規定にすぎないと説示されている。

そのほかにも、同様の見解を採用するものとして、京都地裁昭和30年7月19日判決(税資20号402頁)や山口地裁昭和31年4月12日判決(税資23号221頁)などがある。

(3) 実質課税の原則の2つの解釈

この規定については、2つの解釈が想定され得る(新井隆一『租税法の基礎理論〔第3版〕』87頁(日本評論社2001))。

まず、1つ目の解釈として、旧所得税法3条の2は、課税物件の帰属に関しての判断につき定めたものであると捉えることができよう。この解釈によれば、同条は、法の解釈適用についてまで実質主義の基本原理を採用したものではないということになる。

第2に、条文見出しに着目し、この見解に疑問を呈する考え方もあり得る。

なぜなら、旧所得税法3条の2は「実質所得者課税の原則」とはせずに、「実質課税の原則」としていたのであるから、所得税法が、課税物件すなわち所得の帰属の判断基準としてのみならず、法の解釈適用や事実認定など全般にわたって、実質主義の考えを採用していたことを表しているものと解すべきではないかとも考え得るのである。

いずれの解釈が妥当であるかについては議論があろうが、当時の裁判例や課税当局関係者の証言等に鑑みるに、後者の見解が採用されていたのではないかと推察される(高木・前掲稿87頁)。

その他、この点については、「戦後の実質主義に関する判決では、帰属に関するもののみならず、税法の解釈適用に関する実質主義に基づくものもかなりみられる・・・が、これはかかる意味での実質主義が法文上の明記はなくとも税法に内在する条理として解されているからであろう。」とする指摘もなされている(茂木・前掲稿62頁)。

昭和40年の所得税法全文改正により、かかる規定の見出しが「実質所得者課税の原則」に改められるわけであるが、何故当初からそのようにしなかったのかを考えると、上述のような整理こそ座りがよいことになろう。

このように、当時の条文見出しについては、「租税法の基本原理として、幅広く課税関係における実質主義の考え方を認知させる意図が立法当局にあったのではないかと推量される。」との見解がある(高木・前掲稿88頁)。

旧所得税法3条の2は、「資産又は事業から生づる収益」について定めているのであるから、その文理からすれば、所得の帰属について定めたものと解する方が素直な条文の理解かとも思われるが、しかしながら、当時の学説や裁判例が、おそらく所得の帰属以上のものまでも含め理解していたことを踏まえると、条文見出しが「実質課税の原則」としていたところの意味は大きいように思われるのである。

繰り返しになるが、その後、昭和40年改正において、かかる規定の見出しも、「実質課税の原則」から「実質所得者課税の原則」に変更されることとなった。

言うなれば、昭和40年改正を経て、条文見出しとその条文内容がようやく一致したともいえよう。

もちろん、改正前の当時においても、条文見出しの規定振りのみから、かかる条文の性格付けがなされていたわけではない。上述したとおり、学説や裁判例、当局関係者の証言等からその性格が決せられてきたわけであるが、「実質課税の原則」という、条文の内容とは必ずしも一致しているとはいえない(条文の内容よりも射程が広い)見出しが、そうした見解を支える1つの論拠となっていたことは否めないようにも思われるのである。

 

Ⅱ 条文見出しは条文解釈に影響を及ぼすか

訴訟において、各当事者が条文見出しを根拠に主張を展開したり、裁判所が条文見出しの規定振りを判断材料の1つとしていると見受けられるものも多数存在する。以下では、そうした具体的事例をいくつか挙げることとしたい。

1 法人税法34条の法的性質

東京地裁平成24年10月9日判決(訟月59巻12号3182頁)において、原告は、役員給与は原則的に損金算入が許されると主張する中で次のように論じる。

法人税法34条は、「役員給与の損金不算入」という見出しを置いた上で、定期同額給与等に該当しないものの額は損金の額に算入しない旨規定する。しかし、このような規定が存在することによったとしても、役員給与の額が原則的に損金の額に算入されないと考えられているものではない。つまり、同条1項が各号に規定する役員給与以外は損金算入を許さない規定であるとすると、同項が規定しない役員給与は全て損金算入が許されないこととなるが、そのように考えられてはいない。むしろ、役員給与は、役員の職務執行の対価であり、法人税法22条3項2号の費用であるから、原則は損金である。役員給与は原則として損金算入が許されるものであり、本件は、このような基本的な考え方に立脚して検討すべきである。〔下線筆者〕

もっとも、かかる原告の主張について、同地裁は「役員給与が企業会計上は費用とされるからといって、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、原則として損金算入が許されるものであるということはできない。」として、排斥している。

2 法人税法65条

使用人賞与の損金算入時期を定める法人税法施行令72条の5(平成22年政令第51号による改正前。以下「本件政令」という。)は、法人税法65条《各事業年度の所得の金額の計算の細目》の委任に基づいて制定されたものであり、同法22条《各事業年度の所得の金額の計算》3項2号にも反せず、租税法律主義に反しないとされた事例として、東京地裁平成24年7月5日判決(税資262号順号11987)がある。

同地裁が、本件政令について述べるところを確認しておこう。

法人税法は、同法第2編第1章第1節第3款(23条)ないし第10款(現行の64条の4・・・。以下、単に「64条」という。)において、個別具体的な経済事象ごとに、各事業年度の益金又は損金の額への算入の可否、範囲及びその帰属年度等について詳細に規定し、同法65条において、「各事業年度の所得の金額の計算の細目」との見出しの下に、法第2編第1節第2款から前款まで《所得の金額の計算》に定めるもののほか、各事業年度の所得の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める旨規定している。

このように、法人税法の構成を確認した上で、次のように説示している。

以上のように、法人税法は、同法22条1項において、課税標準である各事業年度の所得の金額が当該事業年度の益金の額と損金の額から算定されることを定めて、益金及び損金の各額が課税標準の基礎となることを定めた上で、このように課税標準の要素を成す益金と損金については、同法22条2項及び3項においてその内容及び帰属年度についての基本原則を定め、同法23条ないし64条において、各経済事象に応じた益金及び損金の内容及び帰属年度について個別に詳細に定めている。同法65条は、その見出しが「各事業年度の所得の金額の計算の細目」とされていることなども併せ考えると、同法第2編第1章第1節第2款ないし第10款(22条ないし64条)が規定する内容について、その技術的、細目的事項を定めることを政令に委任した規定であると解するのが相当である。したがって、本件政令は、同法22条3項の技術的、細目的事項を定めることを目的として、同法65条の委任に基づいて制定されたものと認められる。〔下線筆者〕

「その見出しが『各事業年度の所得の金額の計算の細目』とされていることなども併せ考えると」とされているように、条文見出しが1つの判断材料とされた事例ということができよう。

3 所得税法56条

所得税法56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》及び同法57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》の規定は憲法14条1項に違反せず、また、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者とは別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に所得税法56条の適用を否定することはできないから、各過少申告加算税賦課決定及び各事業税賦課決定は憲法14条1項に違反しないとした事例として最高裁平成17年7月5日第三小法廷判決(税資255号順号10070)がある。

この事件において、納税者である上告人は次のように主張している。

そもそも、この規定〔筆者注:所得税法56条の原型である旧所得税法11条の2〕の見出しをみれば、《親族たる従業員が事業から所得を受ける場合の事業所得計算の特例》となっている。見出しは条文の内容を表現するために付されているのであり、立法者はシャウプ勧告と同一の要件を想定して、この規定を置いたことは明らかである。〔下線筆者〕

上告人は、条文見出しの表現振りも含めて原審東京高裁平成16年6月9日判決(判時1891号18頁)の判断を批判したが、かかる主張は最高裁において排斥されている。

4 地方税法72条の19

次に、事業税の課税標準の特例について定めた旧地方税法72条の19(現行72条の24の4)に関して論じられた判決を確認しておこう。

東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例(平成12年東京都条例第145号)は、課税標準の特例規定を用いて事業税を課する場合における税率について、所得を課税標準とする場合の所定の税率による事業税の負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならない旨規定する旧地方税法72条の22第9項(現行72条の24の7第8項)に違反し、同規定の歯止め的な機能からみて、上記条例は、地方税法上与えられた条例制定権を超えて制定されたものであるから、無効であるとされた事件として、東京高裁平成15年1月30日判決(判時1814号44頁)がある。すなわち、同高裁は次のように説示している。

地方税法72条の19は、「(事業税の課税標準の特例)」という条見出しの下に、例外4業種以外の事業についての外形標準課税について規定している。
 この「特例」という表現から見る限りは、事業税の地方税法上における原則的な課税標準は、「所得」・・・であるといわざるを得ない。・・・立案担当者においても、応益的な考え方が望ましいとはいっても、実際上適用される課税標準としては、所得の場合が圧倒的であることは、自認していたところであるし、現に、例外4業種の東京都の事業税額総額に占める割合は、3.39%にとどまること・・・から見て、現行地方税法においては、外形標準課税は例外的なものと位置付けられる。〔下線筆者〕

条文見出しに「特例」とあることをもって、事業税の原則的な課税標準を解釈しているとおり、この判決も、条文見出しを1つの判断の指針とした事例といえるであろう。

5 消費税法4条

消費税法9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》1項は、同法5条《納税義務者》の規定により消費税を納める義務があるとされた者のうち、免税事業者に該当する者について同条1項の規定にかかわらず消費税を納める義務を免除するものであって、同条又は同法4条《課税の対象》によって発生した消費税を免除するものではないと示された事例として東京高裁平成12年1月13日判決(民集59巻2号307頁)がある。

東京高裁は次のように示し、納税者である控訴人の主張を棄却している。

法4条1項《課税の対象》の文言は「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。」であり、5条1項《納税義務者》の文言は「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。」であり、また、9条1項《小規模事業者に係る納税義務の免除》の文言は、「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3千万円以下である者については、第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。」である。
 法4条1項は、その文言及び見出しからみて、納税義務者を定めた規定ではなく、課税の対象(課税物件)を定めた規定である。納税義務者については、別途、法5条1項が定めている。したがって、法4条1項が特に限定をせずに「事業者」・・・という用語を使っているからといって、法4条1項が免税事業者も納税義務を負うことの根拠となるものではない。控訴人の主張は、先ずこの点で採用することができない。〔下線筆者〕

この判示は、裁判所の判断のうち、「1 文理解釈」として述べられているところであるが、条文の文言はもとより、消費税法4条及び5条の見出しの文言にも直接言及しているものとして注目しておきたい。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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筆者紹介

  • 酒井 克彦

    (さかい・かつひこ)

    法学博士(中央大学)。
    国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学商学部教授として、学部のほか大学院やロースクール等でも教鞭をとる。
    一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

    一般社団法人ファルクラム http://fulcrumtax.net/
    一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

    【著書】
    「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
    「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
    『スタートアップ租税法〔第3版〕』(2015年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
    『裁判例からみる所得税法』(2016年、大蔵財務協会)
    『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(2017年、大蔵財務協会)
    『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
    『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕』(2018年、中央経済社)
    『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -所得税裁判事例精選20』(2018年、第一法規)
    『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年、ぎょうせい)
    その他書籍・論文多数

     

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