公開日: 2024/09/12 (掲載号:No.585)
文字サイズ

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第135回】「消費税の性質論(その3)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第135回】

「消費税の性質論(その3)」

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

1 事案の概要

(1) 概観

(2) Y1の責任

(3) Y2の責任

(4) 共同不法行為

2 Xの具体的な主張

(1) 消費税の問題点

(2) 消費税の違憲性

(3) Xらの損害

3 判決の要旨

《(その2)はこちら》

4 検討

(1) 「実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネ」

(2) 「転嫁」を予定する租税

(3) 「転嫁」が予定されている他の租税

 

4 検討(承前)

(4) 小括

すなわち、消費税は転嫁が予定されている租税であるということ、そのことと、実際に転嫁がなされるかどうかという点は別問題であることが判然とした。本件判決はその点を指摘したものと位置付けることができよう。

他方で、転嫁が予定されていることの根拠を探ってきたが、それが示されているのはあくまでも税制改革法であり、消費税転嫁対策特別措置法であった。別言すれば、消費税法そのものに転嫁が規定されているわけではないということも可能であろう。

このように考えると、いま、「消費税」の性質論を論じているのか、あるいは「消費税法」の性質論を論じているのかという点には注意をして論を進める必要がありそうである。また、あくまでも性質論は性質を論じるにとどまるのであって、消費税あるいは消費税法の性質論が直截、事実上の法的論点を明快に解決するものではないという見方も可能であるように思われる。

(5) 類似事例

ここで、消費税法の仕入税額控除が否認された事例として、名古屋地裁令和6年7月18日判決(判例集未登載)をみてみたい。

本件は、社会福祉法人である原告が、本件各課税期間の消費税等に係る確定申告について、原告が提供する本件各福祉サービスを利用して生産活動に従事する利用者に対し支払った本件工賃を消費税法上の課税仕入れに係る支払対価の額に計上すべきであるとして、本件各更正の請求をしたところ、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の本件各通知処分を受けたことから、被告を相手として、本件各通知処分の取消しを求める事案である。

この事件において、名古屋地裁判決は次のように論じている。

1 消費税の仕組み及び性格

消費税法は、事業を行う個人及び法人(事業者)が行った資産の譲渡等を消費税の課税対象とし(4条1項)、この資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいうものとしている(2条1項8号)。また、資産の譲渡等のうち同法6条1項の規定により消費税を課さないとされるもの以外のもの(課税資産の譲渡等)に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とし(28条2項)、ただし、事業者は、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けた者(課税仕入れ)については、課税標準額に対する消費税額から、当該課税仕入れに係る消費税額を控除することとしている(30条)。

以上のとおり、消費税等は、消費に広く薄く負担を求めるという観点から、ほとんどすべての国内取引や外国貨物を課税対象として、一定の税率で課税される間接税として設定され、事業者に負担を求めるのでなく、税金分は事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされて次々と転嫁され、最終的には消費者に負担を求めるものとされ、生産、流通の各過程で多重に課税されることを避けるため、売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除することにより、税が累積しないような仕組みがとられている。このような課税の仕組みは、消費税が消費そのものにではなく消費支出に担税力を求めて課税する、付加価値税の類型に属する多段階一般消費税として規定されていることを反映したものである。

2 「課税仕入れ」等の意義

(1)消費税法は、「課税仕入れ」について、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(他の者が事業として役務の提供等をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当するもの)と定める(2条1項12号)から、ある支払が課税仕入れに係る支払対価に該当するためには、当該支払を受ける者が事業として役務の提供等をしたとした場合に、当該支払が当該役務提供等の「対価」(同項8号)と認められる必要がある。

そして、上記説示した消費税の性格及び課税の仕組みからすれば、消費税法は、ある支払が転嫁が可能な程度に個別具体的な役務の提供等と結びついている場合に課税対象とする趣旨であり、同号の「対価を得て行われる・・・役務の提供」とは、具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するものと解される。

したがって、ある支払が課税仕入れに係る支払対価として仕入額控除の対象となるのは、当該支払が個別具体的な役務の提供を受けたことによって生じたという対応関係が認められることが必要となるというべきである。

(2)この点、原告は、収受される経済的利益が消費税の課税要件としての資産の譲渡等における「対価」に該当するためには、当該個別具体的な役務提供があることを条件として当該経済的利益が収受されるといい得る対応関係があれば足り、それ以上の要件は要求されていない旨主張する。しかしながら、上記説示した消費税の性格及び課税の仕組みに鑑みると、役務の提供の機会に収受される経済的利益と当該役務の提供との間に原告の主張するような条件関係が存するとしても、転嫁可能な程度に個別具体的な役務の提供と結びついていない場合には、これを課税仕入れに係る支払対価として税の累積を排除する必要はないから、当該経済的利益が当該役務の提供の反対給付としての性質を有しない場合には、当該経済的利益の収受は役務の提供の対価には該当しないというべきであり、原告の上記主張を採用することはできない。

上記名古屋地裁判決は、❶消費税が取引段階において次々と価格に転嫁され、最終的には消費者に負担を求めるものとされていること、❷取引段階において多重に課税されることを避けるために仕入税額控除制度が採用されていること、❸消費税が消費そのものではなく消費支出に担税力を求めて課税するものであることを根拠とした上で、仕入税額控除を認めるためには役務提供と支払との関係に具体的な対応関係がなければならないと判示したのである。

消費税法2条《定義》8号は「資産の譲渡等」として、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供・・・をいう。〔下線筆者〕」とする。同法4条《課税の対象》5項は、「事業として対価を得て行われた資産の譲渡〔下線筆者〕」とみなすものを規定する。同法13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》1項は、「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。〔下線筆者〕」とする。同法28条《課税標準》は、「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。・・・)とする。ただし法人が資産を・・・役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。〔下線筆者〕」とする。

このように多くの「対価」概念が消費税法上使用されているが、同概念そのものの定義は示されていない。そうであるとすれば、その概念については解釈に委ねられているといえる。

さて、これら「対価」概念がいかなる意味を有するかについては、これまで目的的関係説と因果関係説の対立があったが、確定的な結論には至っていないと思われる。目的的関係説とは、反対給付を得るために、あるいは反対給付を得る目的で、ある役務を提供している場合にのみ役務の提供と反対給付との関係性が認定され得ると解する立場である。

これに対して、因果関係説とは、ある役務が提供されたために、あるいは提供されたことにより、反対給付がなされた場合に、役務の提供と反対給付との関連性が認定され得ると解する立場である。

消費税法基本通達5-5-3《会費、組合費等》は、役務の提供と反対給付との関係について、「明白な対価関係」が存在することが必要であるとする。すなわち、本件通達は、次のように示している〔下線筆者〕。

同業者団体、組合等がその構成員から受ける会費、組合費等については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するのであるが、その判定が困難なものについて、継続して、同業者団体、組合等が資産の譲渡等の対価に該当しないものとし、かつ、その会費等を支払う事業者側がその支払を課税仕入れに該当しないこととしている場合には、これを認める。

このように「明白な対価関係」の有無が、「資産の譲渡等」の「対価」該当性の要件であるかのように示達しているのであるが、これは目的的関係説の立場であるといえよう。

これらの対立のある中にあって、上記名古屋地裁判決は、消費税が取引段階において次々と価格に「転嫁」され、最終的には消費者に負担を求めるものとされている(❶)ことなどを理由に、目的的関係説の立場を採用しているようである。

ここに「転嫁」が前提とされた上で、目的的関係説が採用されている点に関心を寄せたい。本件東京地裁判決は、「転嫁」はあくまでも事実行為であって、消費税法上の概念ではないことを前提としていたはずである。すなわち、本件東京地裁は、明確に次のように説示していたところである。

消費税の転嫁について、税制改⾰法11条1項は「適正に転嫁するものとする」と抽象的に述べているだけであり、具体的な転嫁額については事業者の取引上の意思決定に任されている。そして、その対価の決定は、同業者との競争といった取引上の事情や商品内容に関する事情、その他諸般の事情を総合的に判断したうえで決定されるものである〔。〕

そうであるとすると、消費税額相当額を取引価額に転嫁するか否かは、取引当事者が自由に決し得る事柄であって、実際問題としては転嫁がなされるか否かは判然としないものであるはずなのである。そうであるのにもかかわらず、上記名古屋地裁判決においては、あたかも消費税が取引価額に「転嫁」されるのであるから、役務提供の価値と取引金額である「対価」との関係には個別具体的な対応関係が必要である旨の判示が展開されているのである。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第135回】

「消費税の性質論(その3)」

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

1 事案の概要

(1) 概観

(2) Y1の責任

(3) Y2の責任

(4) 共同不法行為

2 Xの具体的な主張

(1) 消費税の問題点

(2) 消費税の違憲性

(3) Xらの損害

3 判決の要旨

《(その2)はこちら》

4 検討

(1) 「実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネ」

(2) 「転嫁」を予定する租税

(3) 「転嫁」が予定されている他の租税

 

4 検討(承前)

(4) 小括

すなわち、消費税は転嫁が予定されている租税であるということ、そのことと、実際に転嫁がなされるかどうかという点は別問題であることが判然とした。本件判決はその点を指摘したものと位置付けることができよう。

他方で、転嫁が予定されていることの根拠を探ってきたが、それが示されているのはあくまでも税制改革法であり、消費税転嫁対策特別措置法であった。別言すれば、消費税法そのものに転嫁が規定されているわけではないということも可能であろう。

このように考えると、いま、「消費税」の性質論を論じているのか、あるいは「消費税法」の性質論を論じているのかという点には注意をして論を進める必要がありそうである。また、あくまでも性質論は性質を論じるにとどまるのであって、消費税あるいは消費税法の性質論が直截、事実上の法的論点を明快に解決するものではないという見方も可能であるように思われる。

(5) 類似事例

ここで、消費税法の仕入税額控除が否認された事例として、名古屋地裁令和6年7月18日判決(判例集未登載)をみてみたい。

本件は、社会福祉法人である原告が、本件各課税期間の消費税等に係る確定申告について、原告が提供する本件各福祉サービスを利用して生産活動に従事する利用者に対し支払った本件工賃を消費税法上の課税仕入れに係る支払対価の額に計上すべきであるとして、本件各更正の請求をしたところ、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の本件各通知処分を受けたことから、被告を相手として、本件各通知処分の取消しを求める事案である。

この事件において、名古屋地裁判決は次のように論じている。

1 消費税の仕組み及び性格

消費税法は、事業を行う個人及び法人(事業者)が行った資産の譲渡等を消費税の課税対象とし(4条1項)、この資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいうものとしている(2条1項8号)。また、資産の譲渡等のうち同法6条1項の規定により消費税を課さないとされるもの以外のもの(課税資産の譲渡等)に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とし(28条2項)、ただし、事業者は、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けた者(課税仕入れ)については、課税標準額に対する消費税額から、当該課税仕入れに係る消費税額を控除することとしている(30条)。

以上のとおり、消費税等は、消費に広く薄く負担を求めるという観点から、ほとんどすべての国内取引や外国貨物を課税対象として、一定の税率で課税される間接税として設定され、事業者に負担を求めるのでなく、税金分は事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされて次々と転嫁され、最終的には消費者に負担を求めるものとされ、生産、流通の各過程で多重に課税されることを避けるため、売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除することにより、税が累積しないような仕組みがとられている。このような課税の仕組みは、消費税が消費そのものにではなく消費支出に担税力を求めて課税する、付加価値税の類型に属する多段階一般消費税として規定されていることを反映したものである。

2 「課税仕入れ」等の意義

(1)消費税法は、「課税仕入れ」について、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(他の者が事業として役務の提供等をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当するもの)と定める(2条1項12号)から、ある支払が課税仕入れに係る支払対価に該当するためには、当該支払を受ける者が事業として役務の提供等をしたとした場合に、当該支払が当該役務提供等の「対価」(同項8号)と認められる必要がある。

そして、上記説示した消費税の性格及び課税の仕組みからすれば、消費税法は、ある支払が転嫁が可能な程度に個別具体的な役務の提供等と結びついている場合に課税対象とする趣旨であり、同号の「対価を得て行われる・・・役務の提供」とは、具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するものと解される。

したがって、ある支払が課税仕入れに係る支払対価として仕入額控除の対象となるのは、当該支払が個別具体的な役務の提供を受けたことによって生じたという対応関係が認められることが必要となるというべきである。

(2)この点、原告は、収受される経済的利益が消費税の課税要件としての資産の譲渡等における「対価」に該当するためには、当該個別具体的な役務提供があることを条件として当該経済的利益が収受されるといい得る対応関係があれば足り、それ以上の要件は要求されていない旨主張する。しかしながら、上記説示した消費税の性格及び課税の仕組みに鑑みると、役務の提供の機会に収受される経済的利益と当該役務の提供との間に原告の主張するような条件関係が存するとしても、転嫁可能な程度に個別具体的な役務の提供と結びついていない場合には、これを課税仕入れに係る支払対価として税の累積を排除する必要はないから、当該経済的利益が当該役務の提供の反対給付としての性質を有しない場合には、当該経済的利益の収受は役務の提供の対価には該当しないというべきであり、原告の上記主張を採用することはできない。

上記名古屋地裁判決は、❶消費税が取引段階において次々と価格に転嫁され、最終的には消費者に負担を求めるものとされていること、❷取引段階において多重に課税されることを避けるために仕入税額控除制度が採用されていること、❸消費税が消費そのものではなく消費支出に担税力を求めて課税するものであることを根拠とした上で、仕入税額控除を認めるためには役務提供と支払との関係に具体的な対応関係がなければならないと判示したのである。

消費税法2条《定義》8号は「資産の譲渡等」として、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供・・・をいう。〔下線筆者〕」とする。同法4条《課税の対象》5項は、「事業として対価を得て行われた資産の譲渡〔下線筆者〕」とみなすものを規定する。同法13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》1項は、「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。〔下線筆者〕」とする。同法28条《課税標準》は、「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。・・・)とする。ただし法人が資産を・・・役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。〔下線筆者〕」とする。

このように多くの「対価」概念が消費税法上使用されているが、同概念そのものの定義は示されていない。そうであるとすれば、その概念については解釈に委ねられているといえる。

さて、これら「対価」概念がいかなる意味を有するかについては、これまで目的的関係説と因果関係説の対立があったが、確定的な結論には至っていないと思われる。目的的関係説とは、反対給付を得るために、あるいは反対給付を得る目的で、ある役務を提供している場合にのみ役務の提供と反対給付との関係性が認定され得ると解する立場である。

これに対して、因果関係説とは、ある役務が提供されたために、あるいは提供されたことにより、反対給付がなされた場合に、役務の提供と反対給付との関連性が認定され得ると解する立場である。

消費税法基本通達5-5-3《会費、組合費等》は、役務の提供と反対給付との関係について、「明白な対価関係」が存在することが必要であるとする。すなわち、本件通達は、次のように示している〔下線筆者〕。

同業者団体、組合等がその構成員から受ける会費、組合費等については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するのであるが、その判定が困難なものについて、継続して、同業者団体、組合等が資産の譲渡等の対価に該当しないものとし、かつ、その会費等を支払う事業者側がその支払を課税仕入れに該当しないこととしている場合には、これを認める。

このように「明白な対価関係」の有無が、「資産の譲渡等」の「対価」該当性の要件であるかのように示達しているのであるが、これは目的的関係説の立場であるといえよう。

これらの対立のある中にあって、上記名古屋地裁判決は、消費税が取引段階において次々と価格に「転嫁」され、最終的には消費者に負担を求めるものとされている(❶)ことなどを理由に、目的的関係説の立場を採用しているようである。

ここに「転嫁」が前提とされた上で、目的的関係説が採用されている点に関心を寄せたい。本件東京地裁判決は、「転嫁」はあくまでも事実行為であって、消費税法上の概念ではないことを前提としていたはずである。すなわち、本件東京地裁は、明確に次のように説示していたところである。

消費税の転嫁について、税制改⾰法11条1項は「適正に転嫁するものとする」と抽象的に述べているだけであり、具体的な転嫁額については事業者の取引上の意思決定に任されている。そして、その対価の決定は、同業者との競争といった取引上の事情や商品内容に関する事情、その他諸般の事情を総合的に判断したうえで決定されるものである〔。〕

そうであるとすると、消費税額相当額を取引価額に転嫁するか否かは、取引当事者が自由に決し得る事柄であって、実際問題としては転嫁がなされるか否かは判然としないものであるはずなのである。そうであるのにもかかわらず、上記名古屋地裁判決においては、あたかも消費税が取引価額に「転嫁」されるのであるから、役務提供の価値と取引金額である「対価」との関係には個別具体的な対応関係が必要である旨の判示が展開されているのである。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

連載目次

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

◆最新テーマ

◆これまでに取り上げたテーマ

(※) タイトルをクリックするとご覧いただけます。

筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。2025年5月13日、逝去。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
『「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

関連書籍

STEP式 消費税申告書の作成手順

税理士 石原健次 監修 税理士 田部純一 共著 税理士 三野友行 共著 税理士 田中信大 共著 税理士 平安孝至 共著 税理士 船橋 充 共著

クマオーの基礎からわかる消費税

税理士 熊王征秀 著

消費税実務問答集

的塲幹雄 編

現代税法入門塾

石村耕治 編

演習消費税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編 税理士 金井恵美子 著

入門税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

図解 租税法ノート

八ッ尾順一 著

実務必須の重要税務判例100

弁護士 菊田雅裕 著

小さな会社の消費税Q&A

税理士 石川幸恵 著

インボイス制度の仕入税額控除

税理士 金井恵美子 著

法人税の損金経理

税理士 安部和彦 著

はじめてのインボイス登録と消費税の申告

税理士 小谷羊太 監修 税理士 森本耕平 著
#