公開日: 2025/02/13 (掲載号:No.606)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第137回】「消費税法における「課税仕入れの日」(その1)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第137回】

「消費税法における「課税仕入れの日」(その1)」

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

はじめに

消費税が「消費」に対する課税であるとするならば、消費の段階で課税がなされるべきことになろう。例えば、消費者が商品(アイスクリーム)を購入したとすると、それを食べた時に課税がなされるべきであるように思われる。

しかしながら、実際問題として、消費者がアイスクリームを購入してそれを持ち帰ったとしても、自宅の冷蔵庫の中に入れっぱなしにして賞味期限が切れてしまってゴミ箱行きになるかもしれないし、そもそも、購入してお店から出た時に袋の開け方をミスして中身が地面に落ちてしまって食べることができなくなってしまうかもしれない。

「消費」を食べることと理解するとすれば、結局上記の場合には消費はなされなかったということになるし、そもそも、口に入ることを消費というのではなく、胃の中で消化・吸収されたときに初めて消費というのかもしれない。もっとも、持ち帰ったことや冷蔵庫に入れたことや、ごみ箱行きになったことをもって「消費」という理解もあり得るが、いずれにしても、持ち帰ったタイミングや冷蔵庫に入れたタイミング、ごみ箱行きになったタイミング、胃の中で消化・吸収されたタイミングはどう捉えればよいのであろうか。例えば、商品は買ったものの、持ち帰るのを忘れて店内に置いてきてしまった場合はどのように考えるべきなのであろうか。さらにいえば、購入したことが既に「消費」であるという考え方はあり得るであろうか。

しかし、一般的にいえば支出は消費のために行われるのであるから、支出=消費と考えて、支出時に課税するというのは難しそうである。本当に消費に対する課税というのであれば、消費税法においても、いわば減価償却のような購入資産の効用に応じた課税が観念されてしかるべきである。むしろ、より現金主義に接近した考え方を消費税法は採用しているように思われる。

消費課税ではなく、消費支出課税であると捉えることもできそうであるが、そうであるとすると、「支出」に関心を寄せることになるが、支出というものが現金主義的なものとなると未払いや掛けによる購入の場合には支出のタイミングが遅れることになろう。そのような際には、即時払い決済の取引よりも課税のタイミングが遅れるということで問題ないのであろうか。

いずれにしても、消費税とはどうも「消費」のタイミングで課税されているようではなさそうである。単に、代金を支払ったときをいうのであろうか、あるいは商品なりの引渡しを受けたときをいうのであろうか。売買契約締結の日をもって、消費税の課税のタイミングを考えるべきなのであろうか。

他方、消費税額の計算において、税の累積を排除するために仕入税額控除が設けられているが、かかる税額控除のタイミングが議論されることもある。

そこで、これら消費税法におけるタイミングの問題を考えることとしたい。

まずは、仕入税額控除のタイミングの問題が争点となった事例(大阪地裁令和2年3月11日判決(税資270号順号13393)及びその控訴審大阪高裁令和2年11月26日判決(税資270号順号13485))を素材として、これらの論点に踏み込んでいくこととしよう。

 

Ⅰ 素材とする事案

1 概観

不動産賃貸業を営むX(原告・控訴人)は、本件建物の取得に係る支払対価の額について、本件建物及びその敷地である土地(以下、本件建物と併せて「本件不動産」という。)の売買契約の締結日である平成24年11月30日が課税仕入れを行った日であることを前提として、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の確定申告をし、また、平成24年11月期及び平成25年11月期の法人税の各確定申告をした。これに対して、所轄税務署長は、本件建物の取得に係る支払対価の額に係る課税仕入れを行った日は、本件建物の引渡しがあった平成24年12月21日である等として、本件課税期間について本件消費税等更正処分、本件各法人税更正処分等を行った。本件は、Xが国Y(被告・被控訴人)を相手取って、本件各処分が違法であるとして各取消しを求めて訴訟を提起した事例である。

2 事実関係

(1) 本件売買契約の締結

Xは、平成24年11月30日、株式会社D(以下「本件売主」という。)との間で、本件不動産を、代金2億円で購入する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約には、要旨、次のような定めがある。

ア Xは、本件売主に対し、手付金300万円を契約締結時に、残代金1億9,700万円を所有権移転・引渡し予定日である平成24年12月28日までに支払う(3条1項、4条)。

イ 手付金は、残代金支払のときに売買代金の一部に充当する。手付金には利息を付さず、本件売主及びXは、相手方が契約の履行に着手するまで、本件契約を解除することができる。本件売主がこの条項により契約を解除する場合には、本件売主は、受領した手付金をXに返還するとともに、これと同額の金員を支払わなければならず、Xがこの条項によって契約を解除する場合には、本件売主に支払った手付金を放棄しなければならない(3条2項~4項)。

ウ 本件売主は、売買代金全額の受領と同時に、本件不動産をX又はXの指定する者に引き渡す(5条)。

エ 本件不動産の所有権は、Xが本件売主に売買代金全額を支払ったときに、本件売主からXに移転する(6条)。

オ 本件売主は、売買代金全額の受領と同時に、本件不動産について、所有権移転登記の申請手続をしなければならない(7条)。

カ 本件不動産に対して賦課される公租公課は、引渡日の前日までの分を本件売主、引渡日以降の分をXの負担とし、引渡日において精算する(9条)。

キ 本件不動産から生ずる収益の帰属及び各種負担金の分担については、前記カを準用する(10条)。

ク 本件売主及びXは、本件建物につき、賃借人との間に建物賃貸借契約が締結されており、その賃借権の負担付きで売買することを確認し、Xは所有権の取得と同時に前記賃貸借契約における賃貸人の地位を継承するものとする(その他特約事項)。

(2) 本件売買契約締結後の経緯

ア Xは、平成24年11月30日、本件売主に対し、本件不動産の売買代金のうち手付金300万円を支払った。

イ Xは、本件売買契約の締結日である平成24年11月30日付けで、本件建物につき、いずれも建設仮勘定を相手科目として、建物勘定、建物付属設備勘定を計上する旨を仕訳帳に記帳した。Xは、本件不動産の購入費用を会計上費用として計上しなかった。

ウ Xは、本件売主に対し、平成24年12月21日、売買代金のうち手付金を除く1億9,700万円を支払った。

エ 本件不動産について、平成24年12月21日、同日売買を原因とする本件売主からXへの所有権移転登記及びXを債務者とする同日金銭消費貸借契約(債権額2億1,500万円)に係る抵当権設定登記がされた。

3 争点

本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」(消法30①一)が本件課税期間に属する日であるか否か。なお、本件更正通知書における理由付記に違法があるか否か、及び国税通則法65条⦅過少申告加算税⦆4項の「正当な理由」の有無についても争われているが、本稿においては省略する。

4 当事者の主張

(1) Xの主張の要旨

ア 消費税法30条⦅仕入れに係る消費税額の控除⦆1項1号にいう「課税仕入れを行った日」の定義規定はないが、課税仕入れが他の者における「課税資産の譲渡等」に該当するものであること(同法2条1項12号)、仕入税額控除が多段階取引における前段階までの消費税の課税部分を控除する税額控除の制度であることなどからすると、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」(同法2条1項8号)の時期と同様の基準により判断すべきである(消費税法基本通達11-3-1参照)。

イ 「資産の譲渡等」の時期の判断基準について、消費税法に明文の規定はない。同法が、課税標準としての「対価の額」につき、「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」(28条1項本文)と定めていること、消費税法が帳簿方式を採用し、かつ、その帳簿は法人税や所得税における帳簿でも差し支えないこと、その他消費税法の立法過程等に照らすと、「資産の譲渡等」の時期は、法人税法における益金や所得税法における(総)収入金額の計上時期と同様の基準により判断すべきである。そして、Xは法人であるから、本件においては、法人税法22条2項の「資産の譲渡」に係る収益の額を益金の額に算入すべき時期と同様の基準により判断すべきである。

ウ 収益の認識の基準については、注文において個別具体的な取引形態等に応じて詳細に規定することは困難であるから、法人税基本通達においてその解釈が明らかにされており、法人税法22条2項及び4項の具体的な運用は、事実上同通達によってきたものであるところ、建物の譲渡による収益の計上時期について、法人税基本通達2-1-14⦅固定資産の譲渡による収益の帰属時期⦆は、引渡しがあった日と契約の効力発生の日(ただし、契約日をもって帳簿処理がされている場合)のいずれとするか選択することを認めている。

同通達の改正経緯をみても、昭和44年までは、原則として、「売買契約の効力発生の日」をもって益金の額への算入の時期とすることが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(法人税法22条4項)に該当するとされていたところ(昭和25年に制定された同年直法1-100の249)、昭和40年の同法の全面改正を受けた同44年の同通達の改正により、原則はいわゆる引渡基準によるものと変更されつつも、現在に至るまでなお、土地、建物等の固定資産の譲渡については、契約の効力の発生の日をもって収益計上日とすることを「認める」とされており(法人税基本通達2-1-14(昭和55年直法2-8により2-1-3から通達番号変更))、消費税法が制定された昭和63年当時も同様であった。

エ 以上によれば、建物等の固定資産の「課税仕入れを行った日」については、引渡しがあった日と、契約の効力発生の日すなわち契約書作成日のいずれとするか選択することが認められているものであり、消費税法基本通達9-1-13⦅固定資産の譲渡の時期⦆もこの解釈に沿うものである。

(2) Yの主張の要旨

ア(ア) 消費税法は、「課税仕入れを行った日」(30条1項1号)がいつであるかについて具体的な規定を設けていないものの、資産の譲渡人からみた場合に「課税資産の譲渡等」であるものをもって、当該資産の譲渡人からみた場合の「課税仕入れ」であるとしており、「課税資産の譲渡等」(資産の譲渡等のうち、消費税法6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のもの。同法2条1項9号)と「課税仕入れ」を正に表裏一体の関係にあるものとみている。

また、消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額が、課税資産の譲渡等の「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭」等の額(消費税法28条1項)とされていることからすると、課税資産の譲渡等の対価を収受していなくても、当該課税資産の譲渡等は課税の対象となると解される。ただし、課税資産の譲渡等の対価を収受する権利が確定していない時点において、その対価を課税標準として認識し、具体的な課税をするのは相当でないから、「課税資産の譲渡等」がされたものとしてこれを課税の対象とするためには、単にその対価を収受する権利が発生するのみでは足りず、当該権利が確定すること、すなわち、当該権利の実現可能性を客観的に認識することができ、かつ、権利の実現(行使)が可能な状態となることを要するものと解すべきである(権利確定主義)。そして、消費税が各取引段階において移転、付与される付加価値に着目して課される付加価値税の性質を有することに鑑みれば、課税資産の譲渡等の対価を収受する権利が確定した時とは、当該課税資産の譲渡等による付加価値が譲受人に確定的に移転した時、これを資産の譲渡についてみれば、当該資産の所有権が譲受人に確定的に移転した時、すなわち当該資産が譲受人に引き渡された時をいうものと解される。

したがって、課税資産の譲渡等があった日と表裏の関係にある「課税仕入れを行った日」とは、当該課税仕入れによる付加価値が譲受人に確定的に移転した時をいい、当該課税仕入れが資産の譲受けである場合には、当該資産の所有権が譲受人に確定的に移転した時、すなわち当該資産が譲受人に引き渡された時をいうものと解される。

(イ) 取引の対象となった資産の引渡しがあった日がいつであるかについては、当該資産の内容、性質、当該契約や取引の内容等に応じて個別具体的に検討すべきであり、固定資産の譲渡に関しては、代金の支払の有無、対抗要件である所有権移転登記の具備、当該資産の譲渡に係る契約内容の履行状況等から、引渡しの日として合理的であると認められる日をいうと解するのが相当である。

本件売買契約については、いずれも平成24年12月21日、手付金を除いた代金残額のXによる支払及びこれによる本件不動産の所有権の移転がされ、また、同日、Xは本件不動産へ債権金額2億1,500万円の抵当権を設定し、本件建物の公租公課については同日を基準に按分計算された。さらに、Xは、同日、管理会社と本件建物に係る管理委託契約を締結し、同月分以降の賃料(同月分については、同日以降分の日割り賃料額と考えられる。)を収受した。このように、Xが所有権を取得した日、Xのために本件不動産が用いられるようになった日、収益物件である本件建物について賃料等を収受し始めた日はいずれも同日であるから、本件建物が本件売主からXに対して引き渡され、その所有権が確定的にXに移転した日は、本件売買代金の残額が支払われた同日(同月21日)であることが明らかである。

したがって、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」は、本件課税期間に属さない。

5 判決の要旨

(1) 大阪地裁令和2年3月11日判決

(1)ア 消費税は、物品やサービスの消費に担税力を認めて課される租税であるところ、最終的な消費行為よりも前の段階で物品やサービスに対する課税が行われ、税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的に消費者に転嫁することが予定されており、また、原則として、小売段階等の一つの取引段階でのみ課税するのではなく、国内において事業者が行った資産の譲渡等を広く課税対象とすることにより、複数の取引段階で、各段階の売上金額(課税資産の譲渡等の対価の額。消費税法28条1項本文)を課税標準として課税することとされている。そのため、前記の原則を貫くと、税負担が累積されて価格に転嫁され、最終的に消費者がその累積した税を負担することとなってしまう。

そこで、消費税法30条1項は、仕入れの段階で転嫁された税額を売上げに係る税額から控除して、税負担の累計を防止するために、事業者が、国内において行う課税仕入れについて、当該「課税仕入れを行った日」の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨(仕入税額控除)を規定している。

以上のような、税負担の累積の防止という仕入税額控除(消費税法30条1項)の趣旨に鑑みると、「課税仕入れを行った日」は、当該事業者が仕入れの段階で価格に上乗せされる税額を負担することが確定的になったのはどの時点かという観点から定めるべきものであると解される。そして、資産の譲受けに係る課税仕入れについては、当該資産の所有権が当該課税仕入れを行った事業者に対して確定的に移転すれば、当該事業者が価格に上乗せされる消費税を負担することも確定的になったということができるから、当該資産の所有権が当該事業者に確定的に移転した日が「課税仕入れを行った日」に当たるものと解するのが相当である。

イ これに対して、Xは、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」(消費税法2条1項8号)の時期と同様の基準により判断すべきである旨主張する。

しかしながら、「資産の譲渡等」の時期の問題は、消費税の課税対象となる「資産の譲渡等」について、譲渡人との関係で、どの課税期間に行われたものとして課税するかという問題であるのに対して、「課税仕入れを行った日」の時期の問題は、前記アで説示したとおり、税負担の累積の防止という観点から、譲受人との関係で、どの課税期間において消費税額の負担が確定的になったものとして仕入税額控除をするかという問題であるから、両者の時期が当然に同様の基準により判断されるべきものとは解されない。そして、「課税仕入れを行った日」は、前記アで説示したとおり、税負担の累積の防止という仕入税額控除の趣旨に照らして判断すべきものであり、「資産の譲渡等」の時期と必然的に一致するものということはできないのであって、Xの前記主張は採用することができない。

(2)ア 前記(1)アの観点から、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」について検討する。

本件売買契約においては、代金2億円のうち契約締結日(平成24年11月30日)に支払われるのは手付金300万円のみであり、その余の1億9,700万円は、契約締結日の約1箇月後である同年12月28日までに支払われることとされ、本件不動産の所有権が本件売主からXに移転するのは、代金金額が支払われた時点とされ、本件売主は、これと同時に本件不動産の引渡し及び所有権移転登記手続をすることとされていた・・・。また、本件売主及びXは、手付金によって留保された約定解除権を行使することができることとされていた・・・。そして、Xは、同月21日、本件売買契約に基づく代金全額を支払い、本件不動産について引渡しを受け、所有権移転登記を経由したものである・・・。

そうすると、本件建物の所有権がXに確定的に移転したのは、本件売買契約の締結日(平成24年11月30日)ではなく、Xが本件売買契約に基づく代金を全額支払って本件建物の所有権を取得し、その引渡しを受けた日(同年12月21日)であり、同日が、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」に当たるものというべきである。

以上の次第であるから、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」は、平成24年12月21日であり、本件課税期間に属しない。

(2) 大阪高裁令和2年11月26日判決

(1) 消費税法30条1項1号の定める仕入税額控除の仕組みは、事業者が、国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除するというものであるところ、その趣旨は、各取引段階において消費税の負担が累積するのを防止することにある。そして、「課税仕入れ」とは、消費税法2条1項12号において定められているとおり、事業者が資産の譲受け等をした場合のうち、相手方がそれを事業として行った場合に課税資産の譲渡等に該当するものに限定されている。このように、事業者間において、「資産の譲渡等」と「課税仕入れ」が連鎖的に繋がることを前提に、消費税の負担の累積を防止する仕入税額控除の仕組みが定められていることに照らせば、譲受人事業者(以下、単に「譲受人」という。)の「課税仕入れ」と譲渡人事業者(以下、単に「譲渡人」という。)の「資産の譲渡等」は、表裏一体的な関係にあるというべきである(これを取引の流れに即していえば、譲受人は、課税仕入れに伴って消費税等を含めた対価を譲渡人に支払い、他方、譲渡人は、資産の譲渡等に伴って消費税等を含めた対価を譲受人から受け取るところ、このままでは消費税の負担が累積されることから、それを防止すべく、譲受人に対する仕入税額控除の仕組みが設けられたということになる。)。このような関係からすると、譲受人が「課税仕入れを行った日」と、譲渡人が「資産の譲渡等を行った日」は、同じ日をいうものと解するのが相当である。

(2) もっとも、そうであるからといって、「資産の譲渡等を行った日」が、当然に、「資産の譲渡等に係る契約の締結日」(これを譲受人から見た場合、「資産の譲受けに係る契約の締結日」である。以下、単に「契約の締結日」という。)と同じ日であると解されるものではない。
 そもそも、消費税は、対価を得て資産の譲渡等が行われた場合に、その消費支出に担税力を認めて課税するものであり、各取引段階において付加価値が生じ、それが移転することに着目して課される付加価値税としての性質を有するところ、さらに、消費税法28条1項本文において、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準を、「課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税等相当額を含まないものとする。)」として、現実に収受した金銭等のみならず、収受すべき金銭等も含めていることからすると、「資産の譲渡等を行った」というには、資産の譲渡等に伴って必ずしも対価が現実に収受されなければならないものではないとしても、対価を現実に収受すべき状態にあること、具体的には、引渡しや登記の移転等の現実的な債務の履行により、対価を収受することに何ら法的な支障のない状態、すなわち、対価を収受する権利が客観的に見て法的障害のない権利として確定したものと評価できる状態に至っていることが必要というべきであり、単に当該資産の譲渡等に係る契約を締結すれば足りるというものではないと解すべきである(なお、この場合、当該資産が所有権の対象であるとしても、所有権が確定的に移転することまでは必要でないと解される。譲渡人は、当該資産について、本旨的な債務[引渡し等]を履行することにより、その対価を受け取ることに法的な支障が生じない状態になれば、当該対価を取得するのが通常であり、課税処分としての性質上、統一的、画一的な運用が求められることを考えると、何らかの個別的な特殊事情によりあえて対価を取得しないことがあったとしても、それによって消費税の負担を免れる[あるいは遅らせる]ことができるというのは相当ではなく、また、上記のような消費税の性質、趣旨を考えれば、資産の引渡し等により、当該資産の付加価値が実質的に移転しているにもかかわらず、当事者の合意によって所有権の移転が確定していないという理由で、消費税の負担を免れる[あるいは遅らせる]ことができるというのも不合理である。)。

(3) そうすると、「契約の締結日」が「資産の譲渡等を行った日」となり、その結果、「契約の締結日」が「課税仕入れを行った日」となるためには、「契約の締結日」において、当該契約の締結行為のみならず、譲渡人から譲受人に対して現実的な債務の履行がなされたことが必要というべきである。これを譲受人から見た場合、単に譲渡人との間で課税資産を譲り受ける契約を締結したことをもって、直ちに課税仕入れを行ったことになるのではなく、同契約に伴い、譲渡人に対し、譲受人の債務である消費税相当額を含めた対価を現実に支払ったか、あるいは、譲渡人からの債務の履行により現実に対価を支払うべき状態にある(対価を支払うべきことが債務として確定した状態に至った)ことをもって、課税仕入れを行ったことになるというべきであり、そうであるからこそ、後日、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する(仕入税額控除を受ける)ことができるというべきである。
 なお、Xは、「資産の譲渡等を行った日」と「課税仕入れを行った日」は同じ日であるという解釈を前提としながらも、消費税法30条1項1号において仕入れ税額控除の仕組みが定められていることからすると、「課税仕入れを行った日」とは、譲受人が、譲渡人に対し、消費税を負担することになる日と解すべきであるところ、譲受人が、譲渡人に対し、消費税を負担するのは、譲渡契約を締結するからであるとして、「契約の締結日」をもって「課税仕入れを行った日」と解すべきである旨主張する。しかしながら、消費税等の納税義務を負うのは譲渡人であって、譲渡人が課税資産の譲渡等をした時に消費税等の納税義務が生じる(国税通則法15条2項7号参照)ことからすると、「消費税を負担することとなる日」という観点から「資産の譲渡等を行った日」あるいは「課税仕入れを行った日」について検討するとしても、消費税の納税義務を負う譲渡人の視点に立って解釈すべきである。そして、譲渡人に消費税の納税義務を負わせるには、単に契約の締結により譲受人が譲渡人に対して当該資産に係る消費税の支払義務を負うことになるというにとどまらず、当該資産の付加価値が譲受人に対して現実に移転することにより、譲受人から当該消費税が実際に支払われたか、あるいは実質的に支払われたものと評価できる客観的事実が存在することが必要というべきである(すなわち、譲渡人が譲受人から消費税を受け取り、あるいは現実に受け取るべき権利状態であるからこそ、それを納める義務を負うものと解される。)。そうすると、譲渡人が消費税の納税義務を負うことになるのは、譲渡人が引渡し等の本旨的債務を履行することにより、譲受人からその対価を現実に収受すべき権利が確定した時点であると解するのが合理的であって、Xが主張するような「契約の締結日」と解すべきものではない。Xの上記主張は、譲渡人ではなく、譲受人の視点に立って「資産の譲渡等を行った日」あるいは「課税仕入れを行った日」を解釈しようというものであり、そのような解釈は、消費税の性質、趣旨から外れ、消費税法の誤った解釈に繋がりかねないものであって、相当ではないというべきである。

(4) 以上のような解釈に基づき、これを本件についてみると、本件売買契約の締結日である平成24年11月30日の時点では、本件売買契約の締結行為がなされたにすぎず、同時点では、譲渡人である本件売主は、〈1〉Xから、本件建物の売買代金の支払を受けたものでもなければ、〈2〉Xに対し、本件建物の引渡しも登記名義の移転も行っていない以上、Xから本件建物の代金の支払を受けることができる状態が確定しているものではないから、この日を「資産の譲渡等を行った日」ということはできない。そして、上記〈1〉ないし〈2〉のいずれかがなされた日は、本件売主が、Xに対し、売買代金の支払と引換えに本件建物の引渡し及び登記名義を移転した同年12月21日であるから、この日が「資産の譲渡等を行った日」であり、かつ、「課税仕入れを行った日」に該当するということになる。
 したがって、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」とは、平成24年12月21日であり、この日が本件課税期間(同年11月15日から同月30日)に属しないことは明らかである。

(5) 次に、Xは、「課税仕入れ」と「資産の譲渡等」が表裏の関係にあることを前提にしながらも、消費税法の立法当時、消費税法にいう「資産の譲渡等」は、法人税法における「収益の帰属時期」と同様の基準により判断するものとされていた事実があるとした上で、法人税基本通達2-1-14では、固定資産の譲渡による「収益の帰属時期」について、「資産の引渡日」あるいは「契約の効力発生日」(契約の締結日)のいずれも選択することができるところ、本件通達においても同様の選択可能な定めとなっていることからすると、固定資産に限れば、「課税仕入れを行った日」については、「資産の引渡日」と「契約の効力発生日」(契約締結日)のいずれも選択することができる旨主張する。
 しかしながら、租税徴収において、納税者の恣意的な申告を防止し、公平な課税を図るべき見地からは、納税者に課税時期の選択権を付与すること自体が直ちに採用し難いものであるが、それはともかくとしても、前記説示のとおりの消費税の性質、趣旨を考えれば、資産の譲渡等により、当該資産の付加価値が現実に移転したものと認められるからこそ、消費税を課すべき実質的な根拠となるのであって、単に契約が締結されたにとどまり、当該資産及びその付加価値が現実に移転されていない、言い換えれば、債務の履行よりその対価を収受することが実現可能な状況に至っていない時点において、消費税を課すのは相当ではない。また、仮に、消費税の納税義務者に上記選択権を付与することがあり得るとしても、本件事案において、本件建物の売買により消費税の納税義務を負うのは、譲渡人である本件売主であり、譲受人であるXではないから、そのようなXに「課税仕入れを行った日」として「契約の効力発生日」すなわち「本件売買契約の締結日」を選択する権利があるとは解し難い。したがって、Xの主張は、その前提において失当である上、本件事案についてみても、譲渡人である本件売主が、本件建物の売買代金も受け取っておらず、本件建物の引渡しも登記名義の移転等も行っていない本件売買契約の締結日の時点をもって、収益を計上したような事実も窺われない(もっとも、仮に、本件売主が、本件建物の譲渡に基づく収益の計上に関し、本件建物の引渡等の履行を行っていないのに売買代金の支払を受ける権利が確定したものとしてその収益を計上したとしても、そのような会計処理が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するかについては、疑問がある。最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)ことを考えると、いずれにしても、本件通達ただし書の適用、準用を検討する余地はなく、本件通達本文が定める原則に従い、本件建物の引渡しがなされた日である平成24年12月21日をもって、「資産譲渡等を行った日」と認めるのが相当である。そして、前記認定説示のとおり、「課税仕入れを行った日」と「資産譲渡等を行った日」は同じ日と解するのが相当であるから、本件事案において、「課税仕入れを行った日」も、同じく平成24年12月21日であり、Xの主張する「本件売買契約の締結日」とすべきではない。〔下線筆者〕

6 検討

(1) 「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」

本件地裁判決は、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張が、「資産の譲渡等」の時期の問題は、消費税の課税対象となる「資産の譲渡等」について、譲渡人との関係で、どの課税期間に行われたものとして課税するかという問題であるのに対して、「課税仕入れを行った日」の時期の問題は、租税負担の累積の防止という観点から、譲受人との関係で、どの課税期間において消費税額の負担が確定的になったものとして仕入税額控除をするかという問題であるから、両者の時期が当然に同様の基準により判断されるべきものとは解されないとした。すなわち、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張は排斥された。

これに対して、本件高裁判決は、事業者間において、「資産の譲渡等」と「課税仕入れ」が連鎖的に繋がることを前提に、消費税の負担の累積を防止する仕入税額控除の仕組みが定められていることに照らせば、譲受人事業者の「課税仕入れ」と譲渡人事業者の「資産の譲渡等」は、表裏一体的な関係にあるというべきであるとし、譲受人が「課税仕入れを行った日」と、譲渡人が「資産の譲渡等を行った日」は、同じ日をいうものと解するのが相当であるとした。

本件地裁判決が、「課税仕入れを行った日」が「資産の譲渡等」の時期と必然的に一致するものということはできないとしたのに対して、本件高裁判決はそれとは異なる判断をしたのである。

このように本件事案では、原審と控訴審との間に消費税法の「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」の時期の一致・不一致を巡る見解の対立があるのである。

その上で、本件高裁判決は、消費税等の納税義務を負うのは譲渡人であって、譲渡人が課税資産の譲渡等をした時に消費税等の納税義務が生じることからすると、譲渡人に消費税の納税義務を負わせるには、単に契約の締結により譲受人が譲渡人に対して当該資産に係る消費税の支払義務を負うことになるというにとどまらず、当該資産の付加価値が譲受人に対して現実に移転することにより、譲受人から当該消費税が実際に支払われたか、あるいは実質的に支払われたものと評価できる客観的事実が存在することが必要というべきであるから、譲渡人が消費税の納税義務を負うことになるのは、譲渡人が引渡し等の本旨的債務を履行することにより、譲受人からその対価を現実に収受すべき権利が確定した時点であると解するのが合理的であるとするのである。

いずれの見方が妥当なのであろうか。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第137回】

「消費税法における「課税仕入れの日」(その1)」

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

はじめに

消費税が「消費」に対する課税であるとするならば、消費の段階で課税がなされるべきことになろう。例えば、消費者が商品(アイスクリーム)を購入したとすると、それを食べた時に課税がなされるべきであるように思われる。

しかしながら、実際問題として、消費者がアイスクリームを購入してそれを持ち帰ったとしても、自宅の冷蔵庫の中に入れっぱなしにして賞味期限が切れてしまってゴミ箱行きになるかもしれないし、そもそも、購入してお店から出た時に袋の開け方をミスして中身が地面に落ちてしまって食べることができなくなってしまうかもしれない。

「消費」を食べることと理解するとすれば、結局上記の場合には消費はなされなかったということになるし、そもそも、口に入ることを消費というのではなく、胃の中で消化・吸収されたときに初めて消費というのかもしれない。もっとも、持ち帰ったことや冷蔵庫に入れたことや、ごみ箱行きになったことをもって「消費」という理解もあり得るが、いずれにしても、持ち帰ったタイミングや冷蔵庫に入れたタイミング、ごみ箱行きになったタイミング、胃の中で消化・吸収されたタイミングはどう捉えればよいのであろうか。例えば、商品は買ったものの、持ち帰るのを忘れて店内に置いてきてしまった場合はどのように考えるべきなのであろうか。さらにいえば、購入したことが既に「消費」であるという考え方はあり得るであろうか。

しかし、一般的にいえば支出は消費のために行われるのであるから、支出=消費と考えて、支出時に課税するというのは難しそうである。本当に消費に対する課税というのであれば、消費税法においても、いわば減価償却のような購入資産の効用に応じた課税が観念されてしかるべきである。むしろ、より現金主義に接近した考え方を消費税法は採用しているように思われる。

消費課税ではなく、消費支出課税であると捉えることもできそうであるが、そうであるとすると、「支出」に関心を寄せることになるが、支出というものが現金主義的なものとなると未払いや掛けによる購入の場合には支出のタイミングが遅れることになろう。そのような際には、即時払い決済の取引よりも課税のタイミングが遅れるということで問題ないのであろうか。

いずれにしても、消費税とはどうも「消費」のタイミングで課税されているようではなさそうである。単に、代金を支払ったときをいうのであろうか、あるいは商品なりの引渡しを受けたときをいうのであろうか。売買契約締結の日をもって、消費税の課税のタイミングを考えるべきなのであろうか。

他方、消費税額の計算において、税の累積を排除するために仕入税額控除が設けられているが、かかる税額控除のタイミングが議論されることもある。

そこで、これら消費税法におけるタイミングの問題を考えることとしたい。

まずは、仕入税額控除のタイミングの問題が争点となった事例(大阪地裁令和2年3月11日判決(税資270号順号13393)及びその控訴審大阪高裁令和2年11月26日判決(税資270号順号13485))を素材として、これらの論点に踏み込んでいくこととしよう。

 

Ⅰ 素材とする事案

1 概観

不動産賃貸業を営むX(原告・控訴人)は、本件建物の取得に係る支払対価の額について、本件建物及びその敷地である土地(以下、本件建物と併せて「本件不動産」という。)の売買契約の締結日である平成24年11月30日が課税仕入れを行った日であることを前提として、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の確定申告をし、また、平成24年11月期及び平成25年11月期の法人税の各確定申告をした。これに対して、所轄税務署長は、本件建物の取得に係る支払対価の額に係る課税仕入れを行った日は、本件建物の引渡しがあった平成24年12月21日である等として、本件課税期間について本件消費税等更正処分、本件各法人税更正処分等を行った。本件は、Xが国Y(被告・被控訴人)を相手取って、本件各処分が違法であるとして各取消しを求めて訴訟を提起した事例である。

2 事実関係

(1) 本件売買契約の締結

Xは、平成24年11月30日、株式会社D(以下「本件売主」という。)との間で、本件不動産を、代金2億円で購入する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約には、要旨、次のような定めがある。

ア Xは、本件売主に対し、手付金300万円を契約締結時に、残代金1億9,700万円を所有権移転・引渡し予定日である平成24年12月28日までに支払う(3条1項、4条)。

イ 手付金は、残代金支払のときに売買代金の一部に充当する。手付金には利息を付さず、本件売主及びXは、相手方が契約の履行に着手するまで、本件契約を解除することができる。本件売主がこの条項により契約を解除する場合には、本件売主は、受領した手付金をXに返還するとともに、これと同額の金員を支払わなければならず、Xがこの条項によって契約を解除する場合には、本件売主に支払った手付金を放棄しなければならない(3条2項~4項)。

ウ 本件売主は、売買代金全額の受領と同時に、本件不動産をX又はXの指定する者に引き渡す(5条)。

エ 本件不動産の所有権は、Xが本件売主に売買代金全額を支払ったときに、本件売主からXに移転する(6条)。

オ 本件売主は、売買代金全額の受領と同時に、本件不動産について、所有権移転登記の申請手続をしなければならない(7条)。

カ 本件不動産に対して賦課される公租公課は、引渡日の前日までの分を本件売主、引渡日以降の分をXの負担とし、引渡日において精算する(9条)。

キ 本件不動産から生ずる収益の帰属及び各種負担金の分担については、前記カを準用する(10条)。

ク 本件売主及びXは、本件建物につき、賃借人との間に建物賃貸借契約が締結されており、その賃借権の負担付きで売買することを確認し、Xは所有権の取得と同時に前記賃貸借契約における賃貸人の地位を継承するものとする(その他特約事項)。

(2) 本件売買契約締結後の経緯

ア Xは、平成24年11月30日、本件売主に対し、本件不動産の売買代金のうち手付金300万円を支払った。

イ Xは、本件売買契約の締結日である平成24年11月30日付けで、本件建物につき、いずれも建設仮勘定を相手科目として、建物勘定、建物付属設備勘定を計上する旨を仕訳帳に記帳した。Xは、本件不動産の購入費用を会計上費用として計上しなかった。

ウ Xは、本件売主に対し、平成24年12月21日、売買代金のうち手付金を除く1億9,700万円を支払った。

エ 本件不動産について、平成24年12月21日、同日売買を原因とする本件売主からXへの所有権移転登記及びXを債務者とする同日金銭消費貸借契約(債権額2億1,500万円)に係る抵当権設定登記がされた。

3 争点

本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」(消法30①一)が本件課税期間に属する日であるか否か。なお、本件更正通知書における理由付記に違法があるか否か、及び国税通則法65条⦅過少申告加算税⦆4項の「正当な理由」の有無についても争われているが、本稿においては省略する。

4 当事者の主張

(1) Xの主張の要旨

ア 消費税法30条⦅仕入れに係る消費税額の控除⦆1項1号にいう「課税仕入れを行った日」の定義規定はないが、課税仕入れが他の者における「課税資産の譲渡等」に該当するものであること(同法2条1項12号)、仕入税額控除が多段階取引における前段階までの消費税の課税部分を控除する税額控除の制度であることなどからすると、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」(同法2条1項8号)の時期と同様の基準により判断すべきである(消費税法基本通達11-3-1参照)。

イ 「資産の譲渡等」の時期の判断基準について、消費税法に明文の規定はない。同法が、課税標準としての「対価の額」につき、「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」(28条1項本文)と定めていること、消費税法が帳簿方式を採用し、かつ、その帳簿は法人税や所得税における帳簿でも差し支えないこと、その他消費税法の立法過程等に照らすと、「資産の譲渡等」の時期は、法人税法における益金や所得税法における(総)収入金額の計上時期と同様の基準により判断すべきである。そして、Xは法人であるから、本件においては、法人税法22条2項の「資産の譲渡」に係る収益の額を益金の額に算入すべき時期と同様の基準により判断すべきである。

ウ 収益の認識の基準については、注文において個別具体的な取引形態等に応じて詳細に規定することは困難であるから、法人税基本通達においてその解釈が明らかにされており、法人税法22条2項及び4項の具体的な運用は、事実上同通達によってきたものであるところ、建物の譲渡による収益の計上時期について、法人税基本通達2-1-14⦅固定資産の譲渡による収益の帰属時期⦆は、引渡しがあった日と契約の効力発生の日(ただし、契約日をもって帳簿処理がされている場合)のいずれとするか選択することを認めている。

同通達の改正経緯をみても、昭和44年までは、原則として、「売買契約の効力発生の日」をもって益金の額への算入の時期とすることが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(法人税法22条4項)に該当するとされていたところ(昭和25年に制定された同年直法1-100の249)、昭和40年の同法の全面改正を受けた同44年の同通達の改正により、原則はいわゆる引渡基準によるものと変更されつつも、現在に至るまでなお、土地、建物等の固定資産の譲渡については、契約の効力の発生の日をもって収益計上日とすることを「認める」とされており(法人税基本通達2-1-14(昭和55年直法2-8により2-1-3から通達番号変更))、消費税法が制定された昭和63年当時も同様であった。

エ 以上によれば、建物等の固定資産の「課税仕入れを行った日」については、引渡しがあった日と、契約の効力発生の日すなわち契約書作成日のいずれとするか選択することが認められているものであり、消費税法基本通達9-1-13⦅固定資産の譲渡の時期⦆もこの解釈に沿うものである。

(2) Yの主張の要旨

ア(ア) 消費税法は、「課税仕入れを行った日」(30条1項1号)がいつであるかについて具体的な規定を設けていないものの、資産の譲渡人からみた場合に「課税資産の譲渡等」であるものをもって、当該資産の譲渡人からみた場合の「課税仕入れ」であるとしており、「課税資産の譲渡等」(資産の譲渡等のうち、消費税法6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のもの。同法2条1項9号)と「課税仕入れ」を正に表裏一体の関係にあるものとみている。

また、消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額が、課税資産の譲渡等の「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭」等の額(消費税法28条1項)とされていることからすると、課税資産の譲渡等の対価を収受していなくても、当該課税資産の譲渡等は課税の対象となると解される。ただし、課税資産の譲渡等の対価を収受する権利が確定していない時点において、その対価を課税標準として認識し、具体的な課税をするのは相当でないから、「課税資産の譲渡等」がされたものとしてこれを課税の対象とするためには、単にその対価を収受する権利が発生するのみでは足りず、当該権利が確定すること、すなわち、当該権利の実現可能性を客観的に認識することができ、かつ、権利の実現(行使)が可能な状態となることを要するものと解すべきである(権利確定主義)。そして、消費税が各取引段階において移転、付与される付加価値に着目して課される付加価値税の性質を有することに鑑みれば、課税資産の譲渡等の対価を収受する権利が確定した時とは、当該課税資産の譲渡等による付加価値が譲受人に確定的に移転した時、これを資産の譲渡についてみれば、当該資産の所有権が譲受人に確定的に移転した時、すなわち当該資産が譲受人に引き渡された時をいうものと解される。

したがって、課税資産の譲渡等があった日と表裏の関係にある「課税仕入れを行った日」とは、当該課税仕入れによる付加価値が譲受人に確定的に移転した時をいい、当該課税仕入れが資産の譲受けである場合には、当該資産の所有権が譲受人に確定的に移転した時、すなわち当該資産が譲受人に引き渡された時をいうものと解される。

(イ) 取引の対象となった資産の引渡しがあった日がいつであるかについては、当該資産の内容、性質、当該契約や取引の内容等に応じて個別具体的に検討すべきであり、固定資産の譲渡に関しては、代金の支払の有無、対抗要件である所有権移転登記の具備、当該資産の譲渡に係る契約内容の履行状況等から、引渡しの日として合理的であると認められる日をいうと解するのが相当である。

本件売買契約については、いずれも平成24年12月21日、手付金を除いた代金残額のXによる支払及びこれによる本件不動産の所有権の移転がされ、また、同日、Xは本件不動産へ債権金額2億1,500万円の抵当権を設定し、本件建物の公租公課については同日を基準に按分計算された。さらに、Xは、同日、管理会社と本件建物に係る管理委託契約を締結し、同月分以降の賃料(同月分については、同日以降分の日割り賃料額と考えられる。)を収受した。このように、Xが所有権を取得した日、Xのために本件不動産が用いられるようになった日、収益物件である本件建物について賃料等を収受し始めた日はいずれも同日であるから、本件建物が本件売主からXに対して引き渡され、その所有権が確定的にXに移転した日は、本件売買代金の残額が支払われた同日(同月21日)であることが明らかである。

したがって、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」は、本件課税期間に属さない。

5 判決の要旨

(1) 大阪地裁令和2年3月11日判決

(1)ア 消費税は、物品やサービスの消費に担税力を認めて課される租税であるところ、最終的な消費行為よりも前の段階で物品やサービスに対する課税が行われ、税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的に消費者に転嫁することが予定されており、また、原則として、小売段階等の一つの取引段階でのみ課税するのではなく、国内において事業者が行った資産の譲渡等を広く課税対象とすることにより、複数の取引段階で、各段階の売上金額(課税資産の譲渡等の対価の額。消費税法28条1項本文)を課税標準として課税することとされている。そのため、前記の原則を貫くと、税負担が累積されて価格に転嫁され、最終的に消費者がその累積した税を負担することとなってしまう。

そこで、消費税法30条1項は、仕入れの段階で転嫁された税額を売上げに係る税額から控除して、税負担の累計を防止するために、事業者が、国内において行う課税仕入れについて、当該「課税仕入れを行った日」の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨(仕入税額控除)を規定している。

以上のような、税負担の累積の防止という仕入税額控除(消費税法30条1項)の趣旨に鑑みると、「課税仕入れを行った日」は、当該事業者が仕入れの段階で価格に上乗せされる税額を負担することが確定的になったのはどの時点かという観点から定めるべきものであると解される。そして、資産の譲受けに係る課税仕入れについては、当該資産の所有権が当該課税仕入れを行った事業者に対して確定的に移転すれば、当該事業者が価格に上乗せされる消費税を負担することも確定的になったということができるから、当該資産の所有権が当該事業者に確定的に移転した日が「課税仕入れを行った日」に当たるものと解するのが相当である。

イ これに対して、Xは、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」(消費税法2条1項8号)の時期と同様の基準により判断すべきである旨主張する。

しかしながら、「資産の譲渡等」の時期の問題は、消費税の課税対象となる「資産の譲渡等」について、譲渡人との関係で、どの課税期間に行われたものとして課税するかという問題であるのに対して、「課税仕入れを行った日」の時期の問題は、前記アで説示したとおり、税負担の累積の防止という観点から、譲受人との関係で、どの課税期間において消費税額の負担が確定的になったものとして仕入税額控除をするかという問題であるから、両者の時期が当然に同様の基準により判断されるべきものとは解されない。そして、「課税仕入れを行った日」は、前記アで説示したとおり、税負担の累積の防止という仕入税額控除の趣旨に照らして判断すべきものであり、「資産の譲渡等」の時期と必然的に一致するものということはできないのであって、Xの前記主張は採用することができない。

(2)ア 前記(1)アの観点から、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」について検討する。

本件売買契約においては、代金2億円のうち契約締結日(平成24年11月30日)に支払われるのは手付金300万円のみであり、その余の1億9,700万円は、契約締結日の約1箇月後である同年12月28日までに支払われることとされ、本件不動産の所有権が本件売主からXに移転するのは、代金金額が支払われた時点とされ、本件売主は、これと同時に本件不動産の引渡し及び所有権移転登記手続をすることとされていた・・・。また、本件売主及びXは、手付金によって留保された約定解除権を行使することができることとされていた・・・。そして、Xは、同月21日、本件売買契約に基づく代金全額を支払い、本件不動産について引渡しを受け、所有権移転登記を経由したものである・・・。

そうすると、本件建物の所有権がXに確定的に移転したのは、本件売買契約の締結日(平成24年11月30日)ではなく、Xが本件売買契約に基づく代金を全額支払って本件建物の所有権を取得し、その引渡しを受けた日(同年12月21日)であり、同日が、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」に当たるものというべきである。

以上の次第であるから、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」は、平成24年12月21日であり、本件課税期間に属しない。

(2) 大阪高裁令和2年11月26日判決

(1) 消費税法30条1項1号の定める仕入税額控除の仕組みは、事業者が、国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除するというものであるところ、その趣旨は、各取引段階において消費税の負担が累積するのを防止することにある。そして、「課税仕入れ」とは、消費税法2条1項12号において定められているとおり、事業者が資産の譲受け等をした場合のうち、相手方がそれを事業として行った場合に課税資産の譲渡等に該当するものに限定されている。このように、事業者間において、「資産の譲渡等」と「課税仕入れ」が連鎖的に繋がることを前提に、消費税の負担の累積を防止する仕入税額控除の仕組みが定められていることに照らせば、譲受人事業者(以下、単に「譲受人」という。)の「課税仕入れ」と譲渡人事業者(以下、単に「譲渡人」という。)の「資産の譲渡等」は、表裏一体的な関係にあるというべきである(これを取引の流れに即していえば、譲受人は、課税仕入れに伴って消費税等を含めた対価を譲渡人に支払い、他方、譲渡人は、資産の譲渡等に伴って消費税等を含めた対価を譲受人から受け取るところ、このままでは消費税の負担が累積されることから、それを防止すべく、譲受人に対する仕入税額控除の仕組みが設けられたということになる。)。このような関係からすると、譲受人が「課税仕入れを行った日」と、譲渡人が「資産の譲渡等を行った日」は、同じ日をいうものと解するのが相当である。

(2) もっとも、そうであるからといって、「資産の譲渡等を行った日」が、当然に、「資産の譲渡等に係る契約の締結日」(これを譲受人から見た場合、「資産の譲受けに係る契約の締結日」である。以下、単に「契約の締結日」という。)と同じ日であると解されるものではない。
 そもそも、消費税は、対価を得て資産の譲渡等が行われた場合に、その消費支出に担税力を認めて課税するものであり、各取引段階において付加価値が生じ、それが移転することに着目して課される付加価値税としての性質を有するところ、さらに、消費税法28条1項本文において、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準を、「課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税等相当額を含まないものとする。)」として、現実に収受した金銭等のみならず、収受すべき金銭等も含めていることからすると、「資産の譲渡等を行った」というには、資産の譲渡等に伴って必ずしも対価が現実に収受されなければならないものではないとしても、対価を現実に収受すべき状態にあること、具体的には、引渡しや登記の移転等の現実的な債務の履行により、対価を収受することに何ら法的な支障のない状態、すなわち、対価を収受する権利が客観的に見て法的障害のない権利として確定したものと評価できる状態に至っていることが必要というべきであり、単に当該資産の譲渡等に係る契約を締結すれば足りるというものではないと解すべきである(なお、この場合、当該資産が所有権の対象であるとしても、所有権が確定的に移転することまでは必要でないと解される。譲渡人は、当該資産について、本旨的な債務[引渡し等]を履行することにより、その対価を受け取ることに法的な支障が生じない状態になれば、当該対価を取得するのが通常であり、課税処分としての性質上、統一的、画一的な運用が求められることを考えると、何らかの個別的な特殊事情によりあえて対価を取得しないことがあったとしても、それによって消費税の負担を免れる[あるいは遅らせる]ことができるというのは相当ではなく、また、上記のような消費税の性質、趣旨を考えれば、資産の引渡し等により、当該資産の付加価値が実質的に移転しているにもかかわらず、当事者の合意によって所有権の移転が確定していないという理由で、消費税の負担を免れる[あるいは遅らせる]ことができるというのも不合理である。)。

(3) そうすると、「契約の締結日」が「資産の譲渡等を行った日」となり、その結果、「契約の締結日」が「課税仕入れを行った日」となるためには、「契約の締結日」において、当該契約の締結行為のみならず、譲渡人から譲受人に対して現実的な債務の履行がなされたことが必要というべきである。これを譲受人から見た場合、単に譲渡人との間で課税資産を譲り受ける契約を締結したことをもって、直ちに課税仕入れを行ったことになるのではなく、同契約に伴い、譲渡人に対し、譲受人の債務である消費税相当額を含めた対価を現実に支払ったか、あるいは、譲渡人からの債務の履行により現実に対価を支払うべき状態にある(対価を支払うべきことが債務として確定した状態に至った)ことをもって、課税仕入れを行ったことになるというべきであり、そうであるからこそ、後日、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する(仕入税額控除を受ける)ことができるというべきである。
 なお、Xは、「資産の譲渡等を行った日」と「課税仕入れを行った日」は同じ日であるという解釈を前提としながらも、消費税法30条1項1号において仕入れ税額控除の仕組みが定められていることからすると、「課税仕入れを行った日」とは、譲受人が、譲渡人に対し、消費税を負担することになる日と解すべきであるところ、譲受人が、譲渡人に対し、消費税を負担するのは、譲渡契約を締結するからであるとして、「契約の締結日」をもって「課税仕入れを行った日」と解すべきである旨主張する。しかしながら、消費税等の納税義務を負うのは譲渡人であって、譲渡人が課税資産の譲渡等をした時に消費税等の納税義務が生じる(国税通則法15条2項7号参照)ことからすると、「消費税を負担することとなる日」という観点から「資産の譲渡等を行った日」あるいは「課税仕入れを行った日」について検討するとしても、消費税の納税義務を負う譲渡人の視点に立って解釈すべきである。そして、譲渡人に消費税の納税義務を負わせるには、単に契約の締結により譲受人が譲渡人に対して当該資産に係る消費税の支払義務を負うことになるというにとどまらず、当該資産の付加価値が譲受人に対して現実に移転することにより、譲受人から当該消費税が実際に支払われたか、あるいは実質的に支払われたものと評価できる客観的事実が存在することが必要というべきである(すなわち、譲渡人が譲受人から消費税を受け取り、あるいは現実に受け取るべき権利状態であるからこそ、それを納める義務を負うものと解される。)。そうすると、譲渡人が消費税の納税義務を負うことになるのは、譲渡人が引渡し等の本旨的債務を履行することにより、譲受人からその対価を現実に収受すべき権利が確定した時点であると解するのが合理的であって、Xが主張するような「契約の締結日」と解すべきものではない。Xの上記主張は、譲渡人ではなく、譲受人の視点に立って「資産の譲渡等を行った日」あるいは「課税仕入れを行った日」を解釈しようというものであり、そのような解釈は、消費税の性質、趣旨から外れ、消費税法の誤った解釈に繋がりかねないものであって、相当ではないというべきである。

(4) 以上のような解釈に基づき、これを本件についてみると、本件売買契約の締結日である平成24年11月30日の時点では、本件売買契約の締結行為がなされたにすぎず、同時点では、譲渡人である本件売主は、〈1〉Xから、本件建物の売買代金の支払を受けたものでもなければ、〈2〉Xに対し、本件建物の引渡しも登記名義の移転も行っていない以上、Xから本件建物の代金の支払を受けることができる状態が確定しているものではないから、この日を「資産の譲渡等を行った日」ということはできない。そして、上記〈1〉ないし〈2〉のいずれかがなされた日は、本件売主が、Xに対し、売買代金の支払と引換えに本件建物の引渡し及び登記名義を移転した同年12月21日であるから、この日が「資産の譲渡等を行った日」であり、かつ、「課税仕入れを行った日」に該当するということになる。
 したがって、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」とは、平成24年12月21日であり、この日が本件課税期間(同年11月15日から同月30日)に属しないことは明らかである。

(5) 次に、Xは、「課税仕入れ」と「資産の譲渡等」が表裏の関係にあることを前提にしながらも、消費税法の立法当時、消費税法にいう「資産の譲渡等」は、法人税法における「収益の帰属時期」と同様の基準により判断するものとされていた事実があるとした上で、法人税基本通達2-1-14では、固定資産の譲渡による「収益の帰属時期」について、「資産の引渡日」あるいは「契約の効力発生日」(契約の締結日)のいずれも選択することができるところ、本件通達においても同様の選択可能な定めとなっていることからすると、固定資産に限れば、「課税仕入れを行った日」については、「資産の引渡日」と「契約の効力発生日」(契約締結日)のいずれも選択することができる旨主張する。
 しかしながら、租税徴収において、納税者の恣意的な申告を防止し、公平な課税を図るべき見地からは、納税者に課税時期の選択権を付与すること自体が直ちに採用し難いものであるが、それはともかくとしても、前記説示のとおりの消費税の性質、趣旨を考えれば、資産の譲渡等により、当該資産の付加価値が現実に移転したものと認められるからこそ、消費税を課すべき実質的な根拠となるのであって、単に契約が締結されたにとどまり、当該資産及びその付加価値が現実に移転されていない、言い換えれば、債務の履行よりその対価を収受することが実現可能な状況に至っていない時点において、消費税を課すのは相当ではない。また、仮に、消費税の納税義務者に上記選択権を付与することがあり得るとしても、本件事案において、本件建物の売買により消費税の納税義務を負うのは、譲渡人である本件売主であり、譲受人であるXではないから、そのようなXに「課税仕入れを行った日」として「契約の効力発生日」すなわち「本件売買契約の締結日」を選択する権利があるとは解し難い。したがって、Xの主張は、その前提において失当である上、本件事案についてみても、譲渡人である本件売主が、本件建物の売買代金も受け取っておらず、本件建物の引渡しも登記名義の移転等も行っていない本件売買契約の締結日の時点をもって、収益を計上したような事実も窺われない(もっとも、仮に、本件売主が、本件建物の譲渡に基づく収益の計上に関し、本件建物の引渡等の履行を行っていないのに売買代金の支払を受ける権利が確定したものとしてその収益を計上したとしても、そのような会計処理が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するかについては、疑問がある。最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)ことを考えると、いずれにしても、本件通達ただし書の適用、準用を検討する余地はなく、本件通達本文が定める原則に従い、本件建物の引渡しがなされた日である平成24年12月21日をもって、「資産譲渡等を行った日」と認めるのが相当である。そして、前記認定説示のとおり、「課税仕入れを行った日」と「資産譲渡等を行った日」は同じ日と解するのが相当であるから、本件事案において、「課税仕入れを行った日」も、同じく平成24年12月21日であり、Xの主張する「本件売買契約の締結日」とすべきではない。〔下線筆者〕

6 検討

(1) 「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」

本件地裁判決は、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張が、「資産の譲渡等」の時期の問題は、消費税の課税対象となる「資産の譲渡等」について、譲渡人との関係で、どの課税期間に行われたものとして課税するかという問題であるのに対して、「課税仕入れを行った日」の時期の問題は、租税負担の累積の防止という観点から、譲受人との関係で、どの課税期間において消費税額の負担が確定的になったものとして仕入税額控除をするかという問題であるから、両者の時期が当然に同様の基準により判断されるべきものとは解されないとした。すなわち、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張は排斥された。

これに対して、本件高裁判決は、事業者間において、「資産の譲渡等」と「課税仕入れ」が連鎖的に繋がることを前提に、消費税の負担の累積を防止する仕入税額控除の仕組みが定められていることに照らせば、譲受人事業者の「課税仕入れ」と譲渡人事業者の「資産の譲渡等」は、表裏一体的な関係にあるというべきであるとし、譲受人が「課税仕入れを行った日」と、譲渡人が「資産の譲渡等を行った日」は、同じ日をいうものと解するのが相当であるとした。

本件地裁判決が、「課税仕入れを行った日」が「資産の譲渡等」の時期と必然的に一致するものということはできないとしたのに対して、本件高裁判決はそれとは異なる判断をしたのである。

このように本件事案では、原審と控訴審との間に消費税法の「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」の時期の一致・不一致を巡る見解の対立があるのである。

その上で、本件高裁判決は、消費税等の納税義務を負うのは譲渡人であって、譲渡人が課税資産の譲渡等をした時に消費税等の納税義務が生じることからすると、譲渡人に消費税の納税義務を負わせるには、単に契約の締結により譲受人が譲渡人に対して当該資産に係る消費税の支払義務を負うことになるというにとどまらず、当該資産の付加価値が譲受人に対して現実に移転することにより、譲受人から当該消費税が実際に支払われたか、あるいは実質的に支払われたものと評価できる客観的事実が存在することが必要というべきであるから、譲渡人が消費税の納税義務を負うことになるのは、譲渡人が引渡し等の本旨的債務を履行することにより、譲受人からその対価を現実に収受すべき権利が確定した時点であると解するのが合理的であるとするのである。

いずれの見方が妥当なのであろうか。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。2025年5月13日、逝去。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
『「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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