公開日: 2015/10/08 (掲載号:No.139)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第34回】「公正処理基準の形成過程と税務通達(その1)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第34回】

「公正処理基準の形成過程と税務通達(その1)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

法人税法は、益金に算入する金額や損金に算入する金額の計算について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(以下「公正処理基準」ともいう。)に従うこととしている(法法22④。企業会計準拠主義)。

法人税法22条《各事業年度の所得の金額の計算》

内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。

2  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

3  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

一  当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

二  前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

三  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。〔下線筆者〕

こうした法人税法の構造がいかなる意味を持つのかを解明することは、同法を理解するにあたり極めて重要な意味を有するといえるだろう。

他方、この企業会計準拠主義が租税法律主義に反するのではないのかという問題も従来から議論されてきた。

もっとも、この点は、商法(会社法)にいう「一般に公正妥当と認められる(企業)会計の慣行」に準拠したものであると考えれば、租税法律主義に反するものではないといえるだろう。すなわち、法人税法は商法(会社法)に準拠しているのであって、その商法(会社法)が企業会計に委任をしているとの理解である。法人税法22条4項は企業会計に白紙委任をしたものではなく法的根拠を有する基準であると論じることができるだろう(中里実「租税法と企業会計(商法会計学)」商事1432号26頁)。

しかし、それでも、企業会計準拠主義には租税法律主義を脅かす問題が伏在しているのではないだろうか。以下では、この点について、組合課税における通達の機能と商法(会社法)における「一般に公正妥当と認められる(企業)会計の慣行」を素材として、これまでの議論とはやや異なる角度から検討を加えてみたい。

 

Ⅰ 問題点の所在

企業会計準拠主義を採用する法人税法22条4項における公正処理基準にかかる問題点について以下の2点に着目してみたい(金子宏『租税法〔第20版〕』318頁参照(弘文堂2015))。

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〈深読み◆租税法〉

【第34回】

「公正処理基準の形成過程と税務通達(その1)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

法人税法は、益金に算入する金額や損金に算入する金額の計算について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(以下「公正処理基準」ともいう。)に従うこととしている(法法22④。企業会計準拠主義)。

法人税法22条《各事業年度の所得の金額の計算》

内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。

2  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

3  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

一  当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

二  前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

三  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。〔下線筆者〕

こうした法人税法の構造がいかなる意味を持つのかを解明することは、同法を理解するにあたり極めて重要な意味を有するといえるだろう。

他方、この企業会計準拠主義が租税法律主義に反するのではないのかという問題も従来から議論されてきた。

もっとも、この点は、商法(会社法)にいう「一般に公正妥当と認められる(企業)会計の慣行」に準拠したものであると考えれば、租税法律主義に反するものではないといえるだろう。すなわち、法人税法は商法(会社法)に準拠しているのであって、その商法(会社法)が企業会計に委任をしているとの理解である。法人税法22条4項は企業会計に白紙委任をしたものではなく法的根拠を有する基準であると論じることができるだろう(中里実「租税法と企業会計(商法会計学)」商事1432号26頁)。

しかし、それでも、企業会計準拠主義には租税法律主義を脅かす問題が伏在しているのではないだろうか。以下では、この点について、組合課税における通達の機能と商法(会社法)における「一般に公正妥当と認められる(企業)会計の慣行」を素材として、これまでの議論とはやや異なる角度から検討を加えてみたい。

 

Ⅰ 問題点の所在

企業会計準拠主義を採用する法人税法22条4項における公正処理基準にかかる問題点について以下の2点に着目してみたい(金子宏『租税法〔第20版〕』318頁参照(弘文堂2015))。

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連載目次

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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