酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第9回】
「武富士事件(その3)」
~租税回避の意図と「住所」の認定~
国士舘大学法学部教授・法学博士
酒井 克彦
1 検討―承前
以上のように、納税者Xの主張を認めた最高裁判決は、住所判断において「居住意思」を重視しない態度をとる。すなわち、最高裁は、いかなる理由によって作出された外形であっても、それが客観的判断基準を表わしている限り、それに従うという態度を表明しているとみることができる。
そして、このような態度が、「租税回避の意図」によって操作され得る滞在日数の多寡を住所の判断基準とすることを否定しないという結論にも結び付いているようである。
この点が、東京高裁が客観的事実に加えて客観的に認識可能な居住意思をも併せて判断すべきとしている点との大きな差異であるといえよう。
最高裁が判断の参考とした判例は、
① 最高裁昭和29年10月20日大法廷判決
② 最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決
③ 最高裁昭和35年3月22日第三小法廷判決
であり、東京高裁が判断の参考としたのは、①と③のほか、
④ 最高裁昭和27年4月15日第三小法廷判決
であった。
ところで、東京高裁が引用しなかった②は公職選挙法上の「住所」が争点となった事例であるが、最高裁はどのように住所について説示しているのであろうか。
②の最高裁は、
一定の場所を住所と認定するについては、その者の住所とする意思だけでは足りず客観的に生活の本拠たる実体を必要とするものと解すべき
としている。
すなわち、住所の認定に当たっては、居住意思だけでは判断せずに、客観的な実体があることが必要であるとしているのである。このような考え方は、本件の東京高裁の判断と抵触するものではない。したがって、②の判例が東京高裁と最高裁の判断を分けたとみることは難しいように思われる。
では、東京高裁が参考としながら、最高裁が参考としなかった④の判例はどうであろうか。
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