公開日: 2018/04/12 (掲載号:No.264)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第63回】「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その3)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第63回】

「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その3)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

Ⅰ 条文見出しの意義

1 条文見出しの意義・役割

2 条文見出しの沿革

3 条文見出しの改正

(1) 見出し改正の意義

《(その2)はこちら》

(2) 「実質所得者課税の原則」と「実質課税の原則」

(3) 実質課税の原則の2つの解釈

Ⅱ 条文見出しは条文解釈に影響を及ぼすか

1 法人税法34条の法的性質

2 法人税法65条

3 所得税法56条

4 地方税法72条の19

5 消費税法4条

 

Ⅲ 租税条約の解釈と見出し

法律の解釈に当たって、見出しが1つの参考情報になり得ることは上記のとおりである。

裁判所の判断や、訴訟における当事者の主張の中でもそうした点が散見される。

次に、租税条約の解釈に見出しが与える影響について、東京地裁平成22年12月3日判決(訟月57巻6号1972頁)を基に確認しておこう。

本件は、原告が、米国法人であるB社に対して平成16年7月23日に支払った同年1月ないし5月分の特許等使用料について、支払の際に所得税の源泉徴収義務があるとして、処分行政庁から源泉所得税に係る納税告知処分等を受けたことに対し、本件特許等使用料については「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(平成16年条約第2号。同年3月20日発効。以下「新日米租税条約」という。)12条1項が適用され、原告は源泉徴収義務を負わないにもかかわらず本件各処分がされたのは違法であるとして、その取消しを求める事案である。

ここで、前提として、簡潔に当時の日米租税条約の要約を確認しておきたい。

新日米租税条約12条1項
一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

新日米租税条約30条2項(a)(ⅰ)(aa)
この条約は、日本国においては、源泉徴収される租税に関しては、この条約がある年の3月31日以前に効力を生ずる場合には、その年の7月1日以後に租税を課される額について適用する。

旧日米租税条約14条1項
一方の締約国の居住者が他方の締約国内の源泉から取得する使用料に対しては、双方の締約国が租税を課することができる。

本件の争点は、新日米租税条約30条2項(以下「本件規定」という。)にいう「7月1日以後に租税を課される額」の意義である。

かかる意義について、課税庁側は、外国法人の課税要件が充足される時点、すなわち、所得税法178条《外国法人に係る所得税の課税標準》の「支払を受けるべき」時点が7月1日以後である金額をいうと主張したのに対し、原告は、「現実の支払時」が7月1日以後である金額をいうと反論した。

これら両者の主張について、東京地裁は次のように述べ、原告の主張を排斥し、本件各処分を適法なものと判断した。

新日米租税条約の通常の用語例上、「租税を課される」とは、納税義務を負担させられる(課税される)との意味であることが明白である。・・・
他方、所得税法171条には「所得税を課される」との文言があるところ、同条の規定に照らしてこれが「所得税を課する」ことの受身形の表現であることが明らかであり、また、「所得税を課する」とは、・・・所得税の納税義務を負担させる(課税する)ことを意味することが明らかである。

つまり、東京地裁は、本件規定の「租税を課される」とは、源泉徴収義務を負担することではなく、所得税の納税義務を負担させられることを意味するものというべきとし、「7月1日以後に租税を課される額」の意義について次のように示す。

そうすると、「7月1日以後に租税を課される額」とは、7月1日以後に所得税の納税義務を負担させられる(課税される)金額を意味し、より具体的には、7月1日以後に所得税の課税要件が充足される金額をいうものと解される。・・・
〔特許等の〕「使用料」につき、7月1日以後に所得税の納税義務を負担させられる(課税される。すなわち、課税要件が充足される。)金額とは、7月1日以後に「支払を受けるべき」使用料の金額を意味するものというべきである。原告は、受給者が源泉徴収の受忍義務を負う所得の支払時に納税義務が発生すると解すべきであるなどというが、到底採用することはできない。

要するに、東京地裁は、実際の特許権等使用料の支払時を基準にして、「7月1日以後に租税を課される額」を判断するのは妥当でないとして、納税者の主張を排斥したのである。

ところで、このような原告の主張の根拠は、所得税法212条《源泉徴収義務》が、非居住者又は外国法人に対し国内源泉所得の支払をする者に対し、その「支払の際」に、源泉徴収義務を課しているところにある。

これに対して、課税庁側の主張の根拠は、所得税法178条が、外国法人に対して課する所得税の課税標準について、その外国法人が「支払を受けるべき」国内源泉所得の金額としているところにある。

この両者の主張の対立について、東京地裁は次のように述べている。

所得税法は、外国法人に課する所得税の課税要件(課税標準や税率)について、外国法人の納税義務の節(第3編第3章第2節)に置かれた178条以下の規定において具体的に定めていることがその見出しや文言に照らしても明らかであり(これに対し、原告の主張する同法212条1項は、その文言に加え、これが「非居住者及び外国法人の所得に係る源泉徴収」の章(第4編第5章)に置かれていることに照らし、源泉徴収義務を定めた規定であることが明らかである。・・・)、・・・以上によれば、この「使用料」につき、7月1日以後に所得税の納税義務を負担させられる(課税される。すなわち、課税要件が充足される。)金額とは、7月1日以後に「支払を受けるべき」使用料の金額を意味するものというべきである。〔下線筆者〕

このように、被告が主張の根拠とする所得税法178条の「外国法人に係る所得税の課税標準」という見出しや、原告主張の根拠である同法212条の置かれた章が「非居住者及び外国法人の所得に係る源泉徴収」であることなども勘案し判断が下されていることに着目しておきたい。

 

Ⅳ 通達の解釈と通達見出し

続いて、法律の見出しではないが、通達の見出しも確認しておこう。
東京地裁平成29年1月19日判決(裁判所ウェブサイト)は、通達の見出しに関心を寄せている。

債権放棄の寄附金該当性が争点とされた同事件において、東京地裁は、法人税基本通達9-4-1《子会社等を整理する場合の損失負担等》について、次のように説示している。

基本通達9-4-1の見出しが「子会社等を整理する場合の損失負担等」とされてその本文も専ら子会社等の「解散、経営権の譲渡等」の場合が対象とされ、同9-4-2の見出しが「子会社等を再建する場合の無利息貸付け等」とされてその本文も専ら子会社等の「再建」(「合理的な再建計画」)の場合が対象とされていること等からすれば、本件子会社2社の解散後に行われた本件債権放棄については、既に本件子会社2社が解散により整理されている以上、専ら基本通達9-4-1がその適用対象となるものと解するのが相当であり、子会社等を再建する場合に関する基本通達9-4-2はその適用対象とならないものというべきである。

本件の判断結果の妥当性についてはひとまず措くとして、本件東京地裁が、法人税基本通達9-4-1及び9-4-2を法律のごとく扱っているように見受けられる点については議論のあるところであろう(例えば、東京地裁は、「本件債権放棄額については、基本通達9-4-1の適用を受けるものではなく、同通達9-4-1所定の基準により又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄附金の額に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。〔下線筆者〕」などとしているが、本来、法律に準ずるのが通達であることに鑑みれば、どこかその位置付けが逆転しているように見えなくもない。)。

東京地裁は、法人税基本通達9-4-1がその見出しで「整理」としており、同9-4-2の見出しが「再建」としていることに着目し、既に解散し整理された本件子会社については、法人税基本通達9-4-2の対象たり得ないとする。

このような通達の見出しに着目した判断は果たして妥当といえるであろうか。

最後に、それに対する答えとして法人税基本通達前文「法人税基本通達の制定について」を引用しておきたい。

この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。〔下線筆者〕

 

結びに代えて

条文見出しは、単なる「インデックス」であろうか。

条文見出しの改正も国会審議の対象とされている点を踏まえれば、条文見出しを軽視することは到底できないように思われる。

また、実質所得者課税の原則の改正経緯に照らして検討したように、法律が採用している考え方を端的に表しているものこそ条文見出しであるともいい得るのであって、条文見出しが租税法条文の解釈に与える影響は無視できないものであろう。

それを裏付けるように、多くの裁判例において、判断の1つの材料として条文見出しが用いられていることも本稿で確認したとおりであり、条文見出しを単なる便宜にすぎないインデックスと位置付けることは誤りであるといえよう。

ところで、金子宏教授がその著書の中で、「著者は、本書の古い版では、ストック・オプションの行使益は雑所得にあたる旨を述べたことがあるが、租特第2章第3節のタイトルにかんがみ、現在は給与所得にあたると考えている。」と説明される箇所がある(金子『租税法〔第22版〕』237頁(弘文堂2017))。

ここにいう租税特別措置法第2章第3節の見出しは「給与所得及び退職所得」であるが、金子教授は、こうした見出しなどから、「法の考え方」を探られているのかもしれない。

もっとも、条文見出しを法解釈に利用するに当たって気を付けなければならない点として、その見出しが「正式な見出し」であるか否かの確認が必要なことを最後に指摘しておこう。

六法全書では、利用者の立場や便宜を考えて、正式には見出しの付いていない法令にも出版社(編集者)の方で見出しを付けている例がある。一番分かりやすい例が憲法である(憲法の条文に見出しは無い。)。

条文の解釈においては、このような見出しと、本来法令に付されている見出しとを混同しないようにしなければならない(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』157頁(日本評論社2007))。

以下は、憲法第7章「財政」に関する各六法全書の出版社別の見出しの例である(平野敏彦「憲法の条文見出し」広島法科大学院論集10号92頁)。

なお、憲法30条はすべての六法全書において「納税の義務」とされている(平野・前掲稿82頁)。

さて、編集者が条文見出しをすべての収録法令に付け、そのことを当該六法の特色として主張した最初は、有斐閣『六法全書』昭和23年版といわれている(平野・前掲稿71頁)。この六法は戦後初の六法であるが、編集責任者である我妻栄博士らの「はしがき」によると、ここでは検索の便宜が意識されていたという(平野・前掲稿71頁)。

最後に余談ではあるが、有斐閣が現在発行する六法の凡例によると、正式な条文見出しは「(〇〇〇)」とされ、編集者が便宜上付けたものは「【〇〇〇】」で表記されている旨が説明されている。

法令を調べるときには、「正式な条文見出し」と「便宜上の条文見出し」を混同しないように気を付けなければならないが、正式な条文見出は、法令の解釈に当たって重要な参考情報と位置付けるべきであろう。

(了)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第63回】

「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その3)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

Ⅰ 条文見出しの意義

1 条文見出しの意義・役割

2 条文見出しの沿革

3 条文見出しの改正

(1) 見出し改正の意義

《(その2)はこちら》

(2) 「実質所得者課税の原則」と「実質課税の原則」

(3) 実質課税の原則の2つの解釈

Ⅱ 条文見出しは条文解釈に影響を及ぼすか

1 法人税法34条の法的性質

2 法人税法65条

3 所得税法56条

4 地方税法72条の19

5 消費税法4条

 

Ⅲ 租税条約の解釈と見出し

法律の解釈に当たって、見出しが1つの参考情報になり得ることは上記のとおりである。

裁判所の判断や、訴訟における当事者の主張の中でもそうした点が散見される。

次に、租税条約の解釈に見出しが与える影響について、東京地裁平成22年12月3日判決(訟月57巻6号1972頁)を基に確認しておこう。

本件は、原告が、米国法人であるB社に対して平成16年7月23日に支払った同年1月ないし5月分の特許等使用料について、支払の際に所得税の源泉徴収義務があるとして、処分行政庁から源泉所得税に係る納税告知処分等を受けたことに対し、本件特許等使用料については「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(平成16年条約第2号。同年3月20日発効。以下「新日米租税条約」という。)12条1項が適用され、原告は源泉徴収義務を負わないにもかかわらず本件各処分がされたのは違法であるとして、その取消しを求める事案である。

ここで、前提として、簡潔に当時の日米租税条約の要約を確認しておきたい。

新日米租税条約12条1項
一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

新日米租税条約30条2項(a)(ⅰ)(aa)
この条約は、日本国においては、源泉徴収される租税に関しては、この条約がある年の3月31日以前に効力を生ずる場合には、その年の7月1日以後に租税を課される額について適用する。

旧日米租税条約14条1項
一方の締約国の居住者が他方の締約国内の源泉から取得する使用料に対しては、双方の締約国が租税を課することができる。

本件の争点は、新日米租税条約30条2項(以下「本件規定」という。)にいう「7月1日以後に租税を課される額」の意義である。

かかる意義について、課税庁側は、外国法人の課税要件が充足される時点、すなわち、所得税法178条《外国法人に係る所得税の課税標準》の「支払を受けるべき」時点が7月1日以後である金額をいうと主張したのに対し、原告は、「現実の支払時」が7月1日以後である金額をいうと反論した。

これら両者の主張について、東京地裁は次のように述べ、原告の主張を排斥し、本件各処分を適法なものと判断した。

新日米租税条約の通常の用語例上、「租税を課される」とは、納税義務を負担させられる(課税される)との意味であることが明白である。・・・
他方、所得税法171条には「所得税を課される」との文言があるところ、同条の規定に照らしてこれが「所得税を課する」ことの受身形の表現であることが明らかであり、また、「所得税を課する」とは、・・・所得税の納税義務を負担させる(課税する)ことを意味することが明らかである。

つまり、東京地裁は、本件規定の「租税を課される」とは、源泉徴収義務を負担することではなく、所得税の納税義務を負担させられることを意味するものというべきとし、「7月1日以後に租税を課される額」の意義について次のように示す。

そうすると、「7月1日以後に租税を課される額」とは、7月1日以後に所得税の納税義務を負担させられる(課税される)金額を意味し、より具体的には、7月1日以後に所得税の課税要件が充足される金額をいうものと解される。・・・
〔特許等の〕「使用料」につき、7月1日以後に所得税の納税義務を負担させられる(課税される。すなわち、課税要件が充足される。)金額とは、7月1日以後に「支払を受けるべき」使用料の金額を意味するものというべきである。原告は、受給者が源泉徴収の受忍義務を負う所得の支払時に納税義務が発生すると解すべきであるなどというが、到底採用することはできない。

要するに、東京地裁は、実際の特許権等使用料の支払時を基準にして、「7月1日以後に租税を課される額」を判断するのは妥当でないとして、納税者の主張を排斥したのである。

ところで、このような原告の主張の根拠は、所得税法212条《源泉徴収義務》が、非居住者又は外国法人に対し国内源泉所得の支払をする者に対し、その「支払の際」に、源泉徴収義務を課しているところにある。

これに対して、課税庁側の主張の根拠は、所得税法178条が、外国法人に対して課する所得税の課税標準について、その外国法人が「支払を受けるべき」国内源泉所得の金額としているところにある。

この両者の主張の対立について、東京地裁は次のように述べている。

所得税法は、外国法人に課する所得税の課税要件(課税標準や税率)について、外国法人の納税義務の節(第3編第3章第2節)に置かれた178条以下の規定において具体的に定めていることがその見出しや文言に照らしても明らかであり(これに対し、原告の主張する同法212条1項は、その文言に加え、これが「非居住者及び外国法人の所得に係る源泉徴収」の章(第4編第5章)に置かれていることに照らし、源泉徴収義務を定めた規定であることが明らかである。・・・)、・・・以上によれば、この「使用料」につき、7月1日以後に所得税の納税義務を負担させられる(課税される。すなわち、課税要件が充足される。)金額とは、7月1日以後に「支払を受けるべき」使用料の金額を意味するものというべきである。〔下線筆者〕

このように、被告が主張の根拠とする所得税法178条の「外国法人に係る所得税の課税標準」という見出しや、原告主張の根拠である同法212条の置かれた章が「非居住者及び外国法人の所得に係る源泉徴収」であることなども勘案し判断が下されていることに着目しておきたい。

 

Ⅳ 通達の解釈と通達見出し

続いて、法律の見出しではないが、通達の見出しも確認しておこう。
東京地裁平成29年1月19日判決(裁判所ウェブサイト)は、通達の見出しに関心を寄せている。

債権放棄の寄附金該当性が争点とされた同事件において、東京地裁は、法人税基本通達9-4-1《子会社等を整理する場合の損失負担等》について、次のように説示している。

基本通達9-4-1の見出しが「子会社等を整理する場合の損失負担等」とされてその本文も専ら子会社等の「解散、経営権の譲渡等」の場合が対象とされ、同9-4-2の見出しが「子会社等を再建する場合の無利息貸付け等」とされてその本文も専ら子会社等の「再建」(「合理的な再建計画」)の場合が対象とされていること等からすれば、本件子会社2社の解散後に行われた本件債権放棄については、既に本件子会社2社が解散により整理されている以上、専ら基本通達9-4-1がその適用対象となるものと解するのが相当であり、子会社等を再建する場合に関する基本通達9-4-2はその適用対象とならないものというべきである。

本件の判断結果の妥当性についてはひとまず措くとして、本件東京地裁が、法人税基本通達9-4-1及び9-4-2を法律のごとく扱っているように見受けられる点については議論のあるところであろう(例えば、東京地裁は、「本件債権放棄額については、基本通達9-4-1の適用を受けるものではなく、同通達9-4-1所定の基準により又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄附金の額に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。〔下線筆者〕」などとしているが、本来、法律に準ずるのが通達であることに鑑みれば、どこかその位置付けが逆転しているように見えなくもない。)。

東京地裁は、法人税基本通達9-4-1がその見出しで「整理」としており、同9-4-2の見出しが「再建」としていることに着目し、既に解散し整理された本件子会社については、法人税基本通達9-4-2の対象たり得ないとする。

このような通達の見出しに着目した判断は果たして妥当といえるであろうか。

最後に、それに対する答えとして法人税基本通達前文「法人税基本通達の制定について」を引用しておきたい。

この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。〔下線筆者〕

 

結びに代えて

条文見出しは、単なる「インデックス」であろうか。

条文見出しの改正も国会審議の対象とされている点を踏まえれば、条文見出しを軽視することは到底できないように思われる。

また、実質所得者課税の原則の改正経緯に照らして検討したように、法律が採用している考え方を端的に表しているものこそ条文見出しであるともいい得るのであって、条文見出しが租税法条文の解釈に与える影響は無視できないものであろう。

それを裏付けるように、多くの裁判例において、判断の1つの材料として条文見出しが用いられていることも本稿で確認したとおりであり、条文見出しを単なる便宜にすぎないインデックスと位置付けることは誤りであるといえよう。

ところで、金子宏教授がその著書の中で、「著者は、本書の古い版では、ストック・オプションの行使益は雑所得にあたる旨を述べたことがあるが、租特第2章第3節のタイトルにかんがみ、現在は給与所得にあたると考えている。」と説明される箇所がある(金子『租税法〔第22版〕』237頁(弘文堂2017))。

ここにいう租税特別措置法第2章第3節の見出しは「給与所得及び退職所得」であるが、金子教授は、こうした見出しなどから、「法の考え方」を探られているのかもしれない。

もっとも、条文見出しを法解釈に利用するに当たって気を付けなければならない点として、その見出しが「正式な見出し」であるか否かの確認が必要なことを最後に指摘しておこう。

六法全書では、利用者の立場や便宜を考えて、正式には見出しの付いていない法令にも出版社(編集者)の方で見出しを付けている例がある。一番分かりやすい例が憲法である(憲法の条文に見出しは無い。)。

条文の解釈においては、このような見出しと、本来法令に付されている見出しとを混同しないようにしなければならない(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』157頁(日本評論社2007))。

以下は、憲法第7章「財政」に関する各六法全書の出版社別の見出しの例である(平野敏彦「憲法の条文見出し」広島法科大学院論集10号92頁)。

なお、憲法30条はすべての六法全書において「納税の義務」とされている(平野・前掲稿82頁)。

さて、編集者が条文見出しをすべての収録法令に付け、そのことを当該六法の特色として主張した最初は、有斐閣『六法全書』昭和23年版といわれている(平野・前掲稿71頁)。この六法は戦後初の六法であるが、編集責任者である我妻栄博士らの「はしがき」によると、ここでは検索の便宜が意識されていたという(平野・前掲稿71頁)。

最後に余談ではあるが、有斐閣が現在発行する六法の凡例によると、正式な条文見出しは「(〇〇〇)」とされ、編集者が便宜上付けたものは「【〇〇〇】」で表記されている旨が説明されている。

法令を調べるときには、「正式な条文見出し」と「便宜上の条文見出し」を混同しないように気を付けなければならないが、正式な条文見出は、法令の解釈に当たって重要な参考情報と位置付けるべきであろう。

(了)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。2025年5月13日、逝去。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
『「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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