公開日: 2019/11/21 (掲載号:No.345)
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企業結合会計を学ぶ 【第30回】「①同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)と②同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理」

筆者: 阿部 光成

企業結合会計学ぶ

【第30回】

「①同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理
(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)と
②同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。

 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

 同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

1 個別財務諸表上の会計処理

同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産)の場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針250項~252項)。

子会社(吸収合併消滅会社)

吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準41項)。

子会社(吸収合併存続会社)

【資産及び負債の会計処理】

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である他の子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

【増加すべき株主資本の会計処理(企業結合会計基準42項)】

《吸収合併消滅会社の株主資本の額がプラスの場合》

  • 吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額から、合併の対価として支払った現金等の財産(結合分離適用指針95項。いわゆる三角合併のケースを含む)の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該金額を控除する)を控除した額がプラスとなる場合には、当該差額を払込資本とする。
  • 当該差額がマイナスとなる場合には、払込資本はゼロとし、のれんを計上する。
  • のれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項から78項並びに資本連結実務指針40項に準じて会計処理する(結合分離適用指針448項)。

《吸収合併消滅会社の株主資本の額がマイナスの場合》

  • 合併の対価として支払った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該適正な帳簿価額を控除する)と等しい金額をのれんに計上する(結合分離適用指針448項)。
  • 吸収合併存続会社の増加すべき株主資本については払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

 いずれの場合においても、評価・換算差額及び新株予約権の適正な帳簿価額は、吸収合併存続会社にそのまま引き継ぐ。

【企業結合に要した支出額の会計処理】

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

親会社(結合当事企業の株主)

  • 事業分離等会計基準45 項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が吸収合併存続会社から受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。
  • 当該価額が吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価はゼロとする)し、下回る場合には、当該差額を受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価とする。
  • ただし、いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と自社(吸収合併存続会社である子会社)の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け入れる自己株式の取得原価は、吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額のうち引き換えられた部分に相当する額により算定する。
     この結果、吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額から当該自己株式の取得原価を控除した額が、受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価となる。

2 連結財務諸表上の会計処理

連結財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針253項)。

 吸収合併消滅会社の株主(親会社)が個別財務諸表上認識した交換利益は、親会社の連結財務諸表上、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。

 吸収合併存続会社に係る株主(親会社)の持分の増加額(吸収合併消滅会社の株主としての持分比率が増加する場合は、吸収合併消滅会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額)と吸収合併消滅会社に係る株主(親会社)の持分の減少額(吸収合併存続会社の株主としての持分比率が減少する場合は、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の減少額)との間に生じる差額を、資本剰余金に計上する。

 いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と吸収合併存続会社である子会社の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合は、連結財務諸表上、親会社株式を対価とした部分について資本取引として扱う。

 

Ⅲ 同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理

同一の株主により支配されている企業同士の吸収合併は、共通支配下の取引に該当し、吸収合併存続会社は次のように会計処理する(結合分離適用指針201項、254項)。

【資産及び負債の会計処理】

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41 項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

【増加すべき株主資本の会計処理】

  • 合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(結合分離適用指針185項)に準じて処理する(結合分離適用指針408項)。
  • ただし、合併の対価に当該子会社株式以外の財産が含まれるときは、結合分離適用指針251項に準じて処理する。

【抱合せ株式の会計処理】

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合には、結合分離適用指針247項(3)に準じて処理する。

(了)

【参考】 ASBJホームページ

「企業結合会計を学ぶ」は、隔週で掲載されます。

企業結合会計学ぶ

【第30回】

「①同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理
(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)と
②同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。

 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

 同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

連載目次

「企業結合会計を学ぶ」(全37回)

【参考記事】
「連結会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
「金融商品会計を学ぶ」(全29回)

【参考記事】
「減損会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
「税効果会計を学ぶ」(全24回)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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