酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第59回】
「日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その2)」
中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦
Ⅱ 税理士会等の建議権(承前)
前述のとおり、日本税理士会連合会(以下「日税連」ともいう)及び税理士会は、税理士法の定めにより、税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる(税理士法49の11)。
税理士法49条の11は、税理士会の建議、答申等について規定した条文である。
税理士は、税務に関する職業専門家として、税務行政及び税制について、広い知識と深い見識を有するものであることから、税理士の自治的団体である税理士会に、その意見をまとめ、権限ある官公署に建議し、又はその諮問に答申することが認められているのである。
ここにいう、税務行政及び税制についての権限のある官公署とは、国税庁及びその下にある国税局、税務署若しくは都道府県、市町村及びその下にある税務公署並びに財務省主税局、総務省税務局などである。
建議できる事項は、税務行政に関する事項その他国税及び地方税又は税理士に関する制度についての事項である。
かかる建議の対象については、関税、とん税及び特別とん税に関する事項以外の一切の国税及び地方税に関する制度及びその執行並びに税理士に関する制度について建議することができるとする見解がある(日本税理士会連合会『現行税理士法逐条解説』140頁(第一法規1970))。
これに対し、建議の対象となる租税については、税理士法2条《税理士の業務》に規定する税理士業務の対象となる税目のすべてをいうとする見解もある(日本税理士会連合会『新税理士法要説〔6訂版〕』168頁(税務経理協会1999)、同『新税理士法〔4訂版〕』251頁(税務経理協会2015)、鳥飼重和監修『税理士の業務・権限・責任』174頁(中央経済社2002))。
やはり、税理士の属する税理士会の権利として建議が設けられていることと併せ考えれば、後者による説明の方が税理士法内部における整合性を保つことができると考えられよう。そのように考えると、都道府県法定外地方税なども、建議の対象からは除かれることになろう(坂田純一『新版実践税理士法』392頁(中央経済社2015))。
建議とは、自ら希望を申し出て開陳することであるが、権限のある官公署が、税理士会に対して、その税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について諮問することもあり、税理士会は、その諮問について答申することもできるとされている。
このように税理士会に建議権があることは税理士法の定めるとおりであるが、税理士会の支部単位で建議をすることができるかについては疑義のあるところである。
この点、税理士法基本通達49の11-1は、「税理士会の支部は、税理士会内部の一機構にすぎず、税理士会の代表機関ではないから、支部限りで法第49条の11の規定による建議をすることはできない」とする。
(注) なお、平成14年の税理士法基本通達制定前の昭和31年8月27日付け官総6-187「改正税理士法の運用上の疑義について(建議等)」においては「官公署に対する建議は、だれに対しても禁止されてはいないから、税理士会支部が行った建議は、当該支部に所属する税理士会員有志の建議であると見ることはできると考える。」との注書きが付されていたが、上記通達では削除されている。
また、税理士会が会員となっている日税連が行った内容と異なる内容で、税理士会が建議できるか否かという問題もあるが、この点については、「日本税理士会連合会、すなわちすべての税理士会が決定した事項について、各税理士会はその決定に従って建議することが当然の事理である」と解説されているにとどまる(坂田・前掲書392頁)。
日税連では、税理士法49条の11に基づき、税制改正に関する建議書を毎年とりまとめている。税務に関する専門家として税制・税務行政の改善に努めることが税理士の社会的使命であり、責任であるとの認識の下で、同条に基づく立法提言を行っているのである。
具体的には、行政における立法提案担当者との懇談に加え、関係省庁との意見交換も踏まえて、建議書という形で立法提案を行っており、日税連では、「建議書の重要性や影響力が従来以上に増してきた」と認識されているようである(日税連は、「公平かつ合理的な税制の確立と申告納税制度の維持・発展に寄与することを希求」する立場から建議を行っていると説明している(日本税理士会連合会「平成29年度税制改正に関する建議書」1頁))。
Ⅲ 平成29年度税制改正に関する建議書
1 建議書における重要建議項目
ここからは、具体的な建議内容を確認してみよう。
例えば、日税連により、平成28年6月23日に発出された「平成29年度税制改正に関する建議書」では、「本建議書における重要建議項目」として、①「災害税制に関する基本法」の立法化について、②中小法人税制について、③消費税制について、④取引相場のない株式等の評価の適正化についての4項目を掲げ、これらを特に強く主張している。
そのうち、例えば、①「『災害税制に関する基本法』の立法化について」として、次のような建議を行っている。
災害が国民生活に与える影響は甚大である。東日本大震災や今般の平成28年熊本地震のような自然災害ばかりではない。原子力発電所の事故による被害、新型インフルエンザ・エボラ出血熱等の感染症やテロ等による被害も想定されなければならない。このような甚大な被害が発生した場合、いかに迅速に国家規模の災害危機管理体制を整備するかが問われている。
税制においてこのような対応を可能とするためには、恒久法として「災害税制に関する基本法」を立法化すべきである。この基本法においては、制定の趣旨及び対象となる「災害」の定義を明確にした上で、納税義務及び手続等に係る基本的な取扱いを規定する。災害が発生した場合、対象被災者や対象地域について、納税者が税制上の基本的な取扱いを判断できるための法整備が不可欠である。税務行政を執行する国及び地方公共団体の権限についても、基本法において一元化することで、枠組みについての緊急時のメルクマールとなる。また、この基本法は、震災等の災害に対応すべく各税目を横断的に統合し、災害発生後は直ちに災害税制として機能させるものとすべきである。
【災害対応税制】
わが国においては、東日本大震災や今般の平成28年熊本地震のような大規模震災等が今後も発生すると予測されている。現行のように大災害が発生してから災害特例法を立法化し対応するのでは迅速性に欠け、また税体系としての整合性に欠ける結果を招きかねない。国家規模の災害危機管理体制整備の一環として、税制においても恒久法として「災害税制に関する基本法」を立法化すべきである。また、この基本法は、震災等の災害に対応すべく各税目を横断的に統合し、災害発生後は直ちに災害税制として機能させるものとすべきである。
2 平成29年度税制改正
(1) 災害対応税制の創設とその趣旨
自由民主党・公明党が平成28年12月8日付けで公表した「平成29年度税制改正大綱」は、上記の日税連の建議書を受けて、以下のような「災害に関する税制上の措置」を提示している。
7 災害に関する税制上の措置
災害が発生した際の被災者や事業者への対応については、国税通則法、災害減免法や各税法において、申告、納付期限の延長や、税の減免などが措置されている。また、地方税については、地方公共団体による条例減免も行われてきた。その上で、阪神・淡路大震災及び東日本大震災の際には、特別立法等により、追加的な税制上の対応を行ってきた。
このように、きめ細やかに対応するとの考え方の下、被害の状況や規模などを踏まえ、これまで災害ごとに税制上の対応を検討してきたところである。しかしながら、近年災害が頻発していることを踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、災害への税制上の対応の規定を常設化する。
災害を受けられた方(被災者)に対しては、国税通則法、災害減免法や各税法において、申告、納付期限の延長や、税の減免など、災害一般に適用される様々な特例措置が講じられています。その上で、阪神・淡路大震災及び東日本大震災の際には、特別立法により、追加的な税制上の対応を行ってきました。このように、災害に関する税制上の措置については、災害一般に適用される様々な措置を講じた上で、被害に応じてきめ細やかに対応するとの考え方の下、被害の状況や規模などを踏まえ、災害ごとに税制上の対応を検討してきたところです。
近年、災害が頻発していることも踏まえ、被災者の不安を早期に解消するとともに、税制上の対応が復旧や復興の動きに遅れることがないようにする観点から、平成29年度税制改正において、これまで特別立法によって措置された災害関連の規定のうち、
① 被害の状況や規模などによらず、災害一般に適用することが適当なもの
② 被災者生活再建支援法などの下、他の支援施策が講じられている場合に適用することが適当なもの
について、あらかじめ規定を整備しておくこととされました。
このように、日税連の建議書における重要建議事項の4つのうちの1つが税制改正として実現しており、かくも高い確率で具体的な税制改正が実現している点をみれば、それだけ、日税連の建議が実効性の高いものであることを意味しているといってもよいと思われる。
(2) 災害対応税制の具体的内容
さて、災害対応税制の具体的内容について、代表的な取扱いを簡単に確認しておきたい。
(ア) 被災市街地復興土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の特例
上記の趣旨に則り、被災市街地復興土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合を特例の対象に追加している。
すなわち、災害関連規定の常設化に当たり、租税特別措置法31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》における「優良住宅地等のための譲渡」の範囲に、「土地開発公社に対する次に掲げる土地等の譲渡で、その譲渡に係る土地等が独立行政法人都市再生機構が施行するそれぞれ次に定める事業の用に供されるもの」が追加された(措法31の2②二の二)。
これは、東日本大震災の際、東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律、いわゆる「震災特例法」によって講じられた措置と同様のものである(震災特例法11の5 ⑤)。
この措置は、災害からの復興を支援する観点から規定されたものであることから、災害からの復興のための市街地の整備改善等を目的とした事業が行われる場合に適用できることとされたのである。
具体的には、東日本大震災の際と同様に、災害が発生し、被災市街地復興特別措置法の枠組みである被災市街地復興土地区画整理事業又は住宅被災市町村における第二種市街地再開発事業が行われる場合に特例の適用ができることとされている。
(イ) 特定非常災害の場合の確定優良住宅地等予定地のための譲渡の予定期間の延長の特例
また、特定非常災害の場合の確定優良住宅地等予定地のための譲渡の予定期間の延長の特例にも改正がなされた。
この措置は、災害により、予定期間内に優良住宅地等のための譲渡に該当することが困難となった場合にその期限の延長を行うものであり、特定非常災害の指定により「被害者の権利利益の保全等を図るため、行政上の権利利益に係る満了日の延長」が行われることと同様に被災者の権利利益に係る期限の延長を行うものである。
すなわち、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の枠組みである「特定非常災害に基因するやむを得ない事情」により、予定期間内に優良住宅地等のための譲渡に該当することが困難となった場合を期限延長の対象とすることとされたのである。
具体的には、確定優良住宅地等予定地のための譲渡に該当するものとして特例の適用を受けた土地等の譲渡につき、特定非常災害に基因するやむを得ない事情により、予定期間内における譲渡が困難となった一定の場合において、その予定期間の初日からその予定期間の末日後2年以内の一定の日までの期間内にその譲渡が優良住宅地等のための譲渡に該当することが確実であると認められることについて証明がされたときは、「予定期間の末日」を「予定期間の末日後2年以内の日であって税務署長が承認の際に認定した日の属する年の12月31日」まで延長することができることとされた(措法31の2⑦、措令20の2)。
なお、ここにいう「特定非常災害」とは、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、その非常災害の被害者の行政上の権利利益の保全等を図ること等が特に必要と認められるものが発生した場合に指定されるものをいう(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律2①)。
(ウ) 住宅ローン税額控除の継続適用及び重複適用
さらに、租税特別措置法41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》に規定する住宅借入金等特別控除(以下「住宅ローン控除」という)に関して、災害により居住の用に供することができなくなった場合の同控除の継続適用及び重複適用に係る改正がなされた。これは、非常にインパクトのあるものであるといえよう。
住宅ローン税額控除は、自己の居住用家屋の取得を促進する観点から措置されている租税特別措置であり、家屋を住宅の新築取得等の日から6月以内に自己の居住の用に供し、居住日以後その年の年末(その者が死亡した日の属する年又は家屋が災害により居住の用に供することができなくなった日の属する年にあっては、これらの日)まで引き続き居住の用に供している年に限り、その適用を受けることができることとされていた。
つまり、住宅ローン税額控除の適用を受けていた者が、災害により、その家屋を居住の用に供することができなくなった場合には、その居住の用に供することができなくなった日の属する年においては住宅ローン税額控除の適用を受けることができるが、その翌年以降は、住宅ローン税額控除の適用を受けることができないとされていたのである。
そこで、災害関連規定の常設化に当たり、災害の規模にかかわらず、一般的な災害により家屋を居住の用に供することができなくなった場合において、災害がなければその控除の適用を受けることができた期間については、継続して住宅ローン税額控除の適用を受けることができることとされたのである。
災害により家屋を居住の用に供することができなくなったような場合は、本人の責めに帰するところではない。
そうした場合にまで、「居住の用に供していない」ことをもって、住宅ローン税額控除の適用を認めないとすることは、要件として厳格すぎると考えられることを踏まえ、住宅ローン税額控除の残存期間について控除の適用を受けることができるという期待権に配慮する観点から、措置されたと説明されている(田名後正範=篠田和哉「租税特別措置法(所得税関係の住宅・土地税制関係)の改正」藤山智博ほか『改正税法のすべて〔平成29年版〕』188頁(大蔵財務協会2017))。
すなわち、従前家屋(住宅の新築取得等をして引き続きその個人の居住の用に供していた家屋をいう)が災害により居住の用に供することができなくなった場合において、居住年以後の控除期間の各年のうち、その居住の用に供することができなくなった日の属する年以後の各年につき、適用年とみなして、住宅ローン税額控除の適用を受けることができることとされたのである(措法41)。
(3) 小括
地震大国であり、また、毎年のように台風の被害等を受ける我が国において、これまで恒久的な災害対策税制が十分に整備されていなかったことの方がむしろ不思議であったといってもよかろう。
日税連の建議を基礎とした上記改正によって、住宅ローン税額控除をはじめ、災害に関連する多くの税制上の取扱いが恒久化されることになったのは、大きな前進であったといえよう。
(続く)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。






















