公開日: 2020/02/13 (掲載号:No.356)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第85回】「政策目的からみる租税法(その1)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第85回】

「政策目的からみる租税法(その1)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

はじめに

自動車重量税は、自動車の走行が社会に多くの負担をもたらすこと及び道路整備財源の確保の必要性に鑑み、広く自動車の使用者に対して必要最低限の負担を求めることを目的として昭和46年に創設された租税である。これは、いわば、公害健康被害の補償等に係る費用を自動車の保有者に求める税制であるといってもよい。

さて、このように特定の政策目的を念頭においた租税制度には様々なものがあるが、特定の政策目的の実現のために創設された租税法の解釈は、かような政策目的の影響をどの程度受けるのであろうか。この連載では、とりわけ、自動車重量税を取り上げてこの点について考えてみたい。まずは、その検討の素材として、名古屋地裁平成14年4月19日判決(判タ1139号110頁)を取り上げることとしよう。

 

Ⅰ 素材とする事例

1 概観

本件は、自動車重量税を納付したと主張するX(原告)が、当該自動車重量税に係る自動車が平成12年9月11日のいわゆる東海豪雨によって被害を受けたため、当該自動車の抹消登録をした上、Y(被告)に対し納付済みの自動車重量税の還付請求をしたところ、Yが還付請求は理由がないとの通知処分(以下「本件処分」という。)をしたことから、その取消しを求めるとともに、上記自動車重量税相当額の支払を求めた事案である。

2 具体的事実

(1) 自動車の抹消登録

自動車登録番号「習志野××●××××」の小型乗用自動車(以下「本件自動車」という。)に係る自動車検査証の有効期間は、平成12年8月4日から平成14年8月3日までとされていたところ、本件自動車は、平成12年10月23日付けをもって抹消登録された。

(2) 自動車重量税の還付請求

Xは、Yに対し、平成13年1月25日付け書面をもって、本件自動車は平成12年9月11日の東海豪雨により被災して自動車検査証の有効期間が1か月経過して間もなく使用不能となったが、このような場合、納付済みの自動車重量税を還付すべきであるとして、本件自動車について同年7月28日に納付した自動車重量税の還付請求をした。

(3) 本件処分

Yは、Xに対し、平成13年2月22日付けで前記の還付請求は理由がないとの本件処分を行った。これを不服として、XはYを相手取り、異議申立て、審査請求を経て、提訴に及んだ。

3 当事者の主張

当事者の主張は概ね以下のとおりである。

(1) Yの主張

自動車重量税は、道路その他社会資本の充実の要請を考慮し、自動車に対してその重量に応じ自動車重量税を課税するとしたものであり、このような自動車重量税の創設の趣旨は、自動車の増加に伴って道路整備や交通渋滞に対する問題が生じ、自動車の利用者に負担を求めることによって交通政策上の施策のための財源を生み出すため受益者負担あるいは原因者負担という考え方を導入したことにある。

そして、自動車重量税は、自動車が検査を受け、又は届出を行うことによって、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であり、その後に生じた事情により自動車検査証を返還したとしても、当該権利を取得した事実がなくなるわけではないから、同税を納付した原因が消滅するものではない。この点において、他の自動車に対する課税と異なっている。

自動車重量税法上も、適正に納付した自動車重量税の還付が認められるのは、当該権利を取得していない場合に限られている(自動車重量16①一)。また、自動車重量税法16条の例外を定めた災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災免法」という。)8条は、検査証の交付等を受けたものの、現実に走行の用に供されておらず、いまだ自動車の販売業者又は自動車分解整備事業者のもとにとどまっている状態で、災害により使用が廃止された場合に限定して自動車重量税の還付を認めているところ、この場合は、使用者が、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得するに至っていないことから、自動車重量税の還付が受けられる旨を定めたものと解される。

本件自動車は、検査証の交付を受けた後に東海豪雨により被災したものであり、上記各法令が定める自動車重量税を還付する場合に該当しないことはもとより、そもそも、自動車重量税の法的性質が、当該自動車が道路運送車両法による検査を受け、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であることに鑑みれば、本件自動車の所有者又は使用者は、有効期間において道路を走行することができる法的地位を取得したのであるから、有効期間が満了する以前にその責によらない自然災害等により用途廃止したとしても、当該権利を取得した事実がなくなることはないから、本件自動車について納付した自動車重量税の還付を求めることはできない。

(2) Xの主張

自動車重量税は、自動車検査証の有効期間に合わせて税額が決定されるものであり、本件自動車について、平成12年7月28日に納付した自動車重量税はかかる有効期間に対応する税の前払である。

したがって、有効期間(終期平成14年8月3日)がわずか1か月経過した後に本件自動車が用途廃止されるに至った場合、自動車検査証の有効期間中の自動車重量税の支払義務は消滅したのであり、本件自動車について納付済みの自動車重量税は還付されるべきであって、これを返還しないことは社会正義に反し、憲法に規定する国民の財産権を不当に侵害するものである。したがって、還付の規定を欠く自動車重量税法は憲法に違反する。

4 裁判所の判断

名古屋地裁平成14年4月19日判決は以下のように判示し、Xの主張を排斥している。

自動車重量税が創設された趣旨や同税の納税手続に係る規定に照らすと、自動車重量税は、自動車が検査を受け、又は届出を行うことによって、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であると解するのが相当であ〔る〕。

名古屋地裁はこのように自動車重量税の趣旨を述べた上で、同法が還付を認める規定につき次のとおり確認する。

そうすると、自動車の使用者が検査証の交付等を受けて当該自動車が走行可能になるという法的地位あるいは利益を受ける権利をいったん取得した以上、その後に生じた事情により検査証を返還したとしても、当該法的地位あるいは権利を取得した事実自体が消滅することはあり得ないから、納付した自動車重量税の還付を認める根拠はないといわざるを得ない。自動車重量税法が、「重量税を納付した後自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けることをやめたとき」(16条1項1号)にのみ自動車重量税の還付するとしたのは、まさにこの趣旨によるものと考えられる。

そして、結論として、本件について還付請求は認められないと結論付けている。

本件自動車の場合、検査証の交付を受けた後に東海豪雨によって被災し、有効期間が経過しないうちに抹消登録されたというのであるから、前記の自動車重量税の還付を求められる場合に当たらないことは明らかである。

5 コメント

上記判決は、東海豪雨によって被災した自動車が、自動車検査証の有効期間が経過しないうちに抹消登録されたものであるとして、自動車重量税法が同税の還付を認める同法16条1項1号に規定するところの「重量税を納付した後自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けることをやめたとき」に該当しないとして、同税の還付請求は認められないとしたのである。

自動車の用途が廃止されたのにも関わらず、かかる自動車についての納税義務だけが残るのは疑問であるとするXの主張は、なぜ排斥されたのであろうか。裁判所では、自動車重量税法の性質論が持ち出されているので、次にこの点について、検討してみることにしよう。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第85回】

「政策目的からみる租税法(その1)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

はじめに

自動車重量税は、自動車の走行が社会に多くの負担をもたらすこと及び道路整備財源の確保の必要性に鑑み、広く自動車の使用者に対して必要最低限の負担を求めることを目的として昭和46年に創設された租税である。これは、いわば、公害健康被害の補償等に係る費用を自動車の保有者に求める税制であるといってもよい。

さて、このように特定の政策目的を念頭においた租税制度には様々なものがあるが、特定の政策目的の実現のために創設された租税法の解釈は、かような政策目的の影響をどの程度受けるのであろうか。この連載では、とりわけ、自動車重量税を取り上げてこの点について考えてみたい。まずは、その検討の素材として、名古屋地裁平成14年4月19日判決(判タ1139号110頁)を取り上げることとしよう。

 

Ⅰ 素材とする事例

1 概観

本件は、自動車重量税を納付したと主張するX(原告)が、当該自動車重量税に係る自動車が平成12年9月11日のいわゆる東海豪雨によって被害を受けたため、当該自動車の抹消登録をした上、Y(被告)に対し納付済みの自動車重量税の還付請求をしたところ、Yが還付請求は理由がないとの通知処分(以下「本件処分」という。)をしたことから、その取消しを求めるとともに、上記自動車重量税相当額の支払を求めた事案である。

2 具体的事実

(1) 自動車の抹消登録

自動車登録番号「習志野××●××××」の小型乗用自動車(以下「本件自動車」という。)に係る自動車検査証の有効期間は、平成12年8月4日から平成14年8月3日までとされていたところ、本件自動車は、平成12年10月23日付けをもって抹消登録された。

(2) 自動車重量税の還付請求

Xは、Yに対し、平成13年1月25日付け書面をもって、本件自動車は平成12年9月11日の東海豪雨により被災して自動車検査証の有効期間が1か月経過して間もなく使用不能となったが、このような場合、納付済みの自動車重量税を還付すべきであるとして、本件自動車について同年7月28日に納付した自動車重量税の還付請求をした。

(3) 本件処分

Yは、Xに対し、平成13年2月22日付けで前記の還付請求は理由がないとの本件処分を行った。これを不服として、XはYを相手取り、異議申立て、審査請求を経て、提訴に及んだ。

3 当事者の主張

当事者の主張は概ね以下のとおりである。

(1) Yの主張

自動車重量税は、道路その他社会資本の充実の要請を考慮し、自動車に対してその重量に応じ自動車重量税を課税するとしたものであり、このような自動車重量税の創設の趣旨は、自動車の増加に伴って道路整備や交通渋滞に対する問題が生じ、自動車の利用者に負担を求めることによって交通政策上の施策のための財源を生み出すため受益者負担あるいは原因者負担という考え方を導入したことにある。

そして、自動車重量税は、自動車が検査を受け、又は届出を行うことによって、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であり、その後に生じた事情により自動車検査証を返還したとしても、当該権利を取得した事実がなくなるわけではないから、同税を納付した原因が消滅するものではない。この点において、他の自動車に対する課税と異なっている。

自動車重量税法上も、適正に納付した自動車重量税の還付が認められるのは、当該権利を取得していない場合に限られている(自動車重量16①一)。また、自動車重量税法16条の例外を定めた災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災免法」という。)8条は、検査証の交付等を受けたものの、現実に走行の用に供されておらず、いまだ自動車の販売業者又は自動車分解整備事業者のもとにとどまっている状態で、災害により使用が廃止された場合に限定して自動車重量税の還付を認めているところ、この場合は、使用者が、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得するに至っていないことから、自動車重量税の還付が受けられる旨を定めたものと解される。

本件自動車は、検査証の交付を受けた後に東海豪雨により被災したものであり、上記各法令が定める自動車重量税を還付する場合に該当しないことはもとより、そもそも、自動車重量税の法的性質が、当該自動車が道路運送車両法による検査を受け、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であることに鑑みれば、本件自動車の所有者又は使用者は、有効期間において道路を走行することができる法的地位を取得したのであるから、有効期間が満了する以前にその責によらない自然災害等により用途廃止したとしても、当該権利を取得した事実がなくなることはないから、本件自動車について納付した自動車重量税の還付を求めることはできない。

(2) Xの主張

自動車重量税は、自動車検査証の有効期間に合わせて税額が決定されるものであり、本件自動車について、平成12年7月28日に納付した自動車重量税はかかる有効期間に対応する税の前払である。

したがって、有効期間(終期平成14年8月3日)がわずか1か月経過した後に本件自動車が用途廃止されるに至った場合、自動車検査証の有効期間中の自動車重量税の支払義務は消滅したのであり、本件自動車について納付済みの自動車重量税は還付されるべきであって、これを返還しないことは社会正義に反し、憲法に規定する国民の財産権を不当に侵害するものである。したがって、還付の規定を欠く自動車重量税法は憲法に違反する。

4 裁判所の判断

名古屋地裁平成14年4月19日判決は以下のように判示し、Xの主張を排斥している。

自動車重量税が創設された趣旨や同税の納税手続に係る規定に照らすと、自動車重量税は、自動車が検査を受け、又は届出を行うことによって、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であると解するのが相当であ〔る〕。

名古屋地裁はこのように自動車重量税の趣旨を述べた上で、同法が還付を認める規定につき次のとおり確認する。

そうすると、自動車の使用者が検査証の交付等を受けて当該自動車が走行可能になるという法的地位あるいは利益を受ける権利をいったん取得した以上、その後に生じた事情により検査証を返還したとしても、当該法的地位あるいは権利を取得した事実自体が消滅することはあり得ないから、納付した自動車重量税の還付を認める根拠はないといわざるを得ない。自動車重量税法が、「重量税を納付した後自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けることをやめたとき」(16条1項1号)にのみ自動車重量税の還付するとしたのは、まさにこの趣旨によるものと考えられる。

そして、結論として、本件について還付請求は認められないと結論付けている。

本件自動車の場合、検査証の交付を受けた後に東海豪雨によって被災し、有効期間が経過しないうちに抹消登録されたというのであるから、前記の自動車重量税の還付を求められる場合に当たらないことは明らかである。

5 コメント

上記判決は、東海豪雨によって被災した自動車が、自動車検査証の有効期間が経過しないうちに抹消登録されたものであるとして、自動車重量税法が同税の還付を認める同法16条1項1号に規定するところの「重量税を納付した後自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けることをやめたとき」に該当しないとして、同税の還付請求は認められないとしたのである。

自動車の用途が廃止されたのにも関わらず、かかる自動車についての納税義務だけが残るのは疑問であるとするXの主張は、なぜ排斥されたのであろうか。裁判所では、自動車重量税法の性質論が持ち出されているので、次にこの点について、検討してみることにしよう。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。2025年5月13日、逝去。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
『「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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