公開日: 2020/11/12 (掲載号:No.394)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第93回】「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その3)」~後法優位の原則~

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第93回】

「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その3)」

~後法優位の原則~

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

Ⅰ 所管事項の原則

1 概観

2 所得税法157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》の適用

3 対応的調整と所管事項の原則

《(その2)はこちら》

Ⅱ 形式的効力の原則

1 概観

2 遡及課税事案

3 添付要件を付した施行令及び施行規則

4 政令が規定するプロラタ計算

5 小括

Ⅲ 後法優位の原則

1 概観

「後法は前法に勝る」とか、「後法は前法を破る」という法諺がある。

これは、その効力が同等である2つ以上の法令の矛盾抵触がある場合において、法令の所管事項の原則(本連載「その1」)によっても、法令の形式的効力の原則(本連載「その2」)によっても、特別法優先の原則によっても解決できない場合に時間的に後から制定されたものが前に制定されたものよりも優越するということを表す考え方である(伊藤義一『税法の読み方 判例の見方〔改訂版〕』84頁(TKC出版2007))。

そもそも、社会の変容に応じて法律はその時代に即応するように制定される。そうであるとすれば、古い時代の社会に適用すべく設けられた法律が、時代の変容についてこれなくなることは当然にあり得る。

法律の適用は、社会通念等をも斟酌しながら行われるものであり、その社会における共通認識が織り込まれるのが常ではあるものの、法律は建築物と似たところがあって、いったん出来上がり適用されることになると、これを廃止したり、改正したりすることがさほど自由に柔軟にできるわけではない。

そのような硬直性を乗り超えるべく、新しい法律が制定されることがあるが、この場合、旧来の法律の規定と新しく設けられた法律の規定が抵触することも生じ得る。

そのような場合には、社会の変容に即応して設けられた新しい法律を優先的に適用する方が、新しい法律を承認した国民の意識(自己同意)にも合致することは明らかである。かような観点から、旧法と新法との間での抵触関係が生じた場合には、上記に示した「後法優位の原則」が適用されることになるのである。

2 ヤフー事件-法人税法132条と同法132条の2-

後法優位の原則を考えるに当たっては、いわゆるヤフー事件が参考になるように思われる。

ヤフー事件最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(民集70巻2号242頁)は、法人税法132条の2《組織再編成に係る行為又は計算の否認》に規定する「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の意義が争われた極めて有名かつ重要な事例であるが、かかる概念の意義について、最高裁の考え方が初めて明らかにされたという点で注目されたのである。

同最高裁は、同条にいう「不当に」の意義を「組織再編成に関する税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用すること」と判示したのである。

組織再編成は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものである。

最高裁は、このように法人税法132条の2の性格を捉えた上で、以下のように判示した。

このような同条の趣旨及び目的からすれば、同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、〈1〉当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、〈2〉税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

上記のとおり、最高裁は、法人税法132条の2にいう「不当に」の意義を「濫用」という観点から論じるとともに、その該当性の判断基準を示したのである。

ここでは、いわば個別規定の要件を仮に充足していたとしても、組織再編税制を濫用して適用しているような場合には、個別規定の要件の充足には拘泥せず、組織再編税制の趣旨に基づいて法人税法132条の2が適用されることがあり得ることを示したもので、同条は、個別規定をオーバーライドすることができるものと位置付けられたのである。

いわば、「租税回避否認規定」としての意味に、「包括的租税回避否認規定」としての意味を付与したものともいい得るのである。

そもそも、従来の裁判例は、法人税法132条《同族会社等の行為又は計算の否認》1項に規定する「不当性」については、純経済人の行為として不合理あるいは不自然かどうかという経済合理性基準で判断すると判示してきた。

例えば、札幌高裁昭和51年1月13日判決(訟月22巻3号756頁)は次のように判示している(かかる判断は、上告審最高裁昭和53年4月21日第二小法廷判決(訟月24巻8号1694頁)においても維持されている。)。

法人税法第132条は「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるとき」同族会社等の行為計算を否認しうる権限を税務署長に付与しているのであるが、右行為計算否認の規定が、納税者の選択した行為計算が実在し私法上有効なものであっても、いわゆる租税負担公平の原則の見地からこれを否定し、通常あるべき姿を想定し、その想定された別の法律関係に税法を適用しようとするものであることにかんがみれば、右の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かは、もっぱら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定すべきものと解される〔。〕

こうした考え方は、いわゆる明治物産事件控訴審東京高裁昭和26年12月20日判決(民集12巻8号1271頁)などでも採用されているが、学説の通説もこれを支持していると解される(金子宏『租税法〔第23版〕』532頁(弘文堂2019)も参照)。

法人税法132条の2は、同法132条のいわば枝番としての条項であるし、不当性はいずれの条文も共通に求める要件であることからすれば、132条の2にいう不当性も純経済人の行為として不合理あるいは不自然かどうかという経済合理性基準で判断すべきとの解釈論には説得力もあるといえよう。

しかしながら、前述のとおり、最高裁は、これまでの法人税法132条の解釈を前提とせずに、同法132条の2にいう「不当性」に別の意味を付与したものと整理することもできよう。

法人税法132条の後に創設された同条132条の2につき、前法の解釈に拘束されずに新法としての解釈論が展開されており、これなども、後法優位の原則の適用例の一例であるとみることができそうである。

3 配当異議事件

次に、いわゆる配当異議事件最高裁昭和35年12月21日大法廷判決(民集14巻14号3140頁)をみてみよう。

この事件では、競売手続が開始された場合において、国(被告・被控訴人・被上告人)が過年度の国税について交付を求め、優先徴収権を行使したため、競売申立人(原告・控訴人・上告人)に対する配当が皆無になったことについて、優先徴収権の行使が権利濫用に当たるか否かなどが争われた。

この事例の控訴審において、控訴人は、控訴人の債権が民法306条《一般の先取特権》のいわゆる共益費用に該当するとし、この共益費用は第一順位において他の債権に優先すべきことを主張したところ、東京高裁昭和30年8月9日判決(民集14巻14号3152頁)は、次のように判示して、かかる主張を排斥している。

控訴人の前記共益債権の主張については、仮りにその主張の事実が存在するとしても、同費用が国税徴収法第2条第6項〔筆者注:当時〕にいわゆる強制執行費用に該当するものでないことは、その主張自体に徴し明白であり、かつ被控訴人の交付要求に係る債権が、控訴人主張の金23万円の債権(同債権が控訴人主張の事由により発生したとしても)に優先するものであることは、国税徴収法第2条に於て明定するところであるから、控訴人のこの点の主張は到底採用し難い。

これに対して、控訴人は上告し、「国税徴収法は明治30年7月1日から施行せられ民法は明治31年7月16日の施行であるから後法は前法に優るの法諺によっても後法即ち民法の規定により優劣を定むべきであったに拘わらずこの点を顧慮しなかった原判決は法律の解釈を誤ったものである。」と主張した。すなわち、民法が後法に当たり、民法の規定が優先されるというのである。

しかし、これについては、最高裁が次のように排斥している。

たとえ、所論共益費用につき民法上一般の先取特権が認められているものであったとしても、それは私法上の債権相互の先後の問題であって、被上告人の交付要求に係わる債権が右共益費用の債権に優先するものであることは前記国税徴収法2条1項の法文上明らかであり、なお、同条の規定が、何ら違憲でないことは、第一点に対する説示において述べたとおりである。そしてこの理は、国自ら滞納処分をした場合であると否とにより異なるところはなく、また本件に適用された国税徴収法2条1項は、前記のごとく、昭和25年法律69号、同26年法律78号により改正されたものであって、民法が国税徴収法施行後に施行されたものであることを理由とする論旨は、前提を欠くものである。それ故、所論は採るを得ない。〔下線筆者〕

最高裁としては、「本件に適用された国税徴収法2条1項の規定は、新憲法施行後、昭和25年法律69号、同26年法律78号により改正されたものであって、・・・憲法30条、84条に基づく法律であると解すべき」であるから、そもそも民法が後法に位置するわけではないということであろう。

なお、民法と国税徴収法との関係が、前者が一般法で後者が特別法の関係にあることからすれば、かかる法令間の抵触関係は、特別法優先の原則によって適用関係が整理されるべきであって、後法優位の原則を適用しての主張は、法令間の解釈原理の観点からも無理があったといわざるを得ないと解される。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第93回】

「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その3)」

~後法優位の原則~

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

Ⅰ 所管事項の原則

1 概観

2 所得税法157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》の適用

3 対応的調整と所管事項の原則

《(その2)はこちら》

Ⅱ 形式的効力の原則

1 概観

2 遡及課税事案

3 添付要件を付した施行令及び施行規則

4 政令が規定するプロラタ計算

5 小括

Ⅲ 後法優位の原則

1 概観

「後法は前法に勝る」とか、「後法は前法を破る」という法諺がある。

これは、その効力が同等である2つ以上の法令の矛盾抵触がある場合において、法令の所管事項の原則(本連載「その1」)によっても、法令の形式的効力の原則(本連載「その2」)によっても、特別法優先の原則によっても解決できない場合に時間的に後から制定されたものが前に制定されたものよりも優越するということを表す考え方である(伊藤義一『税法の読み方 判例の見方〔改訂版〕』84頁(TKC出版2007))。

そもそも、社会の変容に応じて法律はその時代に即応するように制定される。そうであるとすれば、古い時代の社会に適用すべく設けられた法律が、時代の変容についてこれなくなることは当然にあり得る。

法律の適用は、社会通念等をも斟酌しながら行われるものであり、その社会における共通認識が織り込まれるのが常ではあるものの、法律は建築物と似たところがあって、いったん出来上がり適用されることになると、これを廃止したり、改正したりすることがさほど自由に柔軟にできるわけではない。

そのような硬直性を乗り超えるべく、新しい法律が制定されることがあるが、この場合、旧来の法律の規定と新しく設けられた法律の規定が抵触することも生じ得る。

そのような場合には、社会の変容に即応して設けられた新しい法律を優先的に適用する方が、新しい法律を承認した国民の意識(自己同意)にも合致することは明らかである。かような観点から、旧法と新法との間での抵触関係が生じた場合には、上記に示した「後法優位の原則」が適用されることになるのである。

2 ヤフー事件-法人税法132条と同法132条の2-

後法優位の原則を考えるに当たっては、いわゆるヤフー事件が参考になるように思われる。

ヤフー事件最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(民集70巻2号242頁)は、法人税法132条の2《組織再編成に係る行為又は計算の否認》に規定する「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の意義が争われた極めて有名かつ重要な事例であるが、かかる概念の意義について、最高裁の考え方が初めて明らかにされたという点で注目されたのである。

同最高裁は、同条にいう「不当に」の意義を「組織再編成に関する税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用すること」と判示したのである。

組織再編成は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものである。

最高裁は、このように法人税法132条の2の性格を捉えた上で、以下のように判示した。

このような同条の趣旨及び目的からすれば、同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、〈1〉当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、〈2〉税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

上記のとおり、最高裁は、法人税法132条の2にいう「不当に」の意義を「濫用」という観点から論じるとともに、その該当性の判断基準を示したのである。

ここでは、いわば個別規定の要件を仮に充足していたとしても、組織再編税制を濫用して適用しているような場合には、個別規定の要件の充足には拘泥せず、組織再編税制の趣旨に基づいて法人税法132条の2が適用されることがあり得ることを示したもので、同条は、個別規定をオーバーライドすることができるものと位置付けられたのである。

いわば、「租税回避否認規定」としての意味に、「包括的租税回避否認規定」としての意味を付与したものともいい得るのである。

そもそも、従来の裁判例は、法人税法132条《同族会社等の行為又は計算の否認》1項に規定する「不当性」については、純経済人の行為として不合理あるいは不自然かどうかという経済合理性基準で判断すると判示してきた。

例えば、札幌高裁昭和51年1月13日判決(訟月22巻3号756頁)は次のように判示している(かかる判断は、上告審最高裁昭和53年4月21日第二小法廷判決(訟月24巻8号1694頁)においても維持されている。)。

法人税法第132条は「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるとき」同族会社等の行為計算を否認しうる権限を税務署長に付与しているのであるが、右行為計算否認の規定が、納税者の選択した行為計算が実在し私法上有効なものであっても、いわゆる租税負担公平の原則の見地からこれを否定し、通常あるべき姿を想定し、その想定された別の法律関係に税法を適用しようとするものであることにかんがみれば、右の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かは、もっぱら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定すべきものと解される〔。〕

こうした考え方は、いわゆる明治物産事件控訴審東京高裁昭和26年12月20日判決(民集12巻8号1271頁)などでも採用されているが、学説の通説もこれを支持していると解される(金子宏『租税法〔第23版〕』532頁(弘文堂2019)も参照)。

法人税法132条の2は、同法132条のいわば枝番としての条項であるし、不当性はいずれの条文も共通に求める要件であることからすれば、132条の2にいう不当性も純経済人の行為として不合理あるいは不自然かどうかという経済合理性基準で判断すべきとの解釈論には説得力もあるといえよう。

しかしながら、前述のとおり、最高裁は、これまでの法人税法132条の解釈を前提とせずに、同法132条の2にいう「不当性」に別の意味を付与したものと整理することもできよう。

法人税法132条の後に創設された同条132条の2につき、前法の解釈に拘束されずに新法としての解釈論が展開されており、これなども、後法優位の原則の適用例の一例であるとみることができそうである。

3 配当異議事件

次に、いわゆる配当異議事件最高裁昭和35年12月21日大法廷判決(民集14巻14号3140頁)をみてみよう。

この事件では、競売手続が開始された場合において、国(被告・被控訴人・被上告人)が過年度の国税について交付を求め、優先徴収権を行使したため、競売申立人(原告・控訴人・上告人)に対する配当が皆無になったことについて、優先徴収権の行使が権利濫用に当たるか否かなどが争われた。

この事例の控訴審において、控訴人は、控訴人の債権が民法306条《一般の先取特権》のいわゆる共益費用に該当するとし、この共益費用は第一順位において他の債権に優先すべきことを主張したところ、東京高裁昭和30年8月9日判決(民集14巻14号3152頁)は、次のように判示して、かかる主張を排斥している。

控訴人の前記共益債権の主張については、仮りにその主張の事実が存在するとしても、同費用が国税徴収法第2条第6項〔筆者注:当時〕にいわゆる強制執行費用に該当するものでないことは、その主張自体に徴し明白であり、かつ被控訴人の交付要求に係る債権が、控訴人主張の金23万円の債権(同債権が控訴人主張の事由により発生したとしても)に優先するものであることは、国税徴収法第2条に於て明定するところであるから、控訴人のこの点の主張は到底採用し難い。

これに対して、控訴人は上告し、「国税徴収法は明治30年7月1日から施行せられ民法は明治31年7月16日の施行であるから後法は前法に優るの法諺によっても後法即ち民法の規定により優劣を定むべきであったに拘わらずこの点を顧慮しなかった原判決は法律の解釈を誤ったものである。」と主張した。すなわち、民法が後法に当たり、民法の規定が優先されるというのである。

しかし、これについては、最高裁が次のように排斥している。

たとえ、所論共益費用につき民法上一般の先取特権が認められているものであったとしても、それは私法上の債権相互の先後の問題であって、被上告人の交付要求に係わる債権が右共益費用の債権に優先するものであることは前記国税徴収法2条1項の法文上明らかであり、なお、同条の規定が、何ら違憲でないことは、第一点に対する説示において述べたとおりである。そしてこの理は、国自ら滞納処分をした場合であると否とにより異なるところはなく、また本件に適用された国税徴収法2条1項は、前記のごとく、昭和25年法律69号、同26年法律78号により改正されたものであって、民法が国税徴収法施行後に施行されたものであることを理由とする論旨は、前提を欠くものである。それ故、所論は採るを得ない。〔下線筆者〕

最高裁としては、「本件に適用された国税徴収法2条1項の規定は、新憲法施行後、昭和25年法律69号、同26年法律78号により改正されたものであって、・・・憲法30条、84条に基づく法律であると解すべき」であるから、そもそも民法が後法に位置するわけではないということであろう。

なお、民法と国税徴収法との関係が、前者が一般法で後者が特別法の関係にあることからすれば、かかる法令間の抵触関係は、特別法優先の原則によって適用関係が整理されるべきであって、後法優位の原則を適用しての主張は、法令間の解釈原理の観点からも無理があったといわざるを得ないと解される。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。2025年5月13日、逝去。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
『「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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