公開日: 2015/11/12 (掲載号:No.144)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第35回】「公正処理基準の形成過程と税務通達(その2)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第35回】

「公正処理基準の形成過程と税務通達(その2)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

(その1)はこちら

Ⅰ 問題点の所在

Ⅱ 税務通達と公正処理基準

1 租税訴訟にみられる見解

2 公正処理基準と商法(会社法)

Ⅱ 税務通達と公正処理基準(承前)

2 公正処理基準と商法(会社法)(承前)

法人税法22条4項は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」ともいう。)に従って、法人所得の金額の計算を行う旨規定している。これは一般に企業会計準拠主義とも呼ばれているが、法人税法において、企業会計の処理として慣習化された基準に従うこととしているのは、私法が慣習法を法源として取り込むことと似ているように思われる。

しかしながら、租税法と商法はその目的を異にするものであるから、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについては疑義があるところである。この点は、この事件〔長銀配当損害賠償事件第一審東京地裁平成17年5月19日判決〕において、原告側から批判的主張が展開されたところでもあるが、東京地裁は、次のように判示し、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについて否定的な立場をとってはいない。

税法と商法が本来目的を異にする点は、原告ら主張のとおりであるが、銀行の経営の健全性及び適切性の観点から、適正な決算処理を監督する趣旨で、大蔵省検査に依拠し、不良債権償却証明制度を介して償却・引当を行うとする不良債権償却証明制度により補充される改正前決算経理基準自体もまた、適正な決算処理を確保する趣旨においては、正確な銀行の財務状態及び損益状態の反映という商法の目的にも反していなかったと考えられる。

なお、有税による償却・引当は、償却・引当のコストに加えて同額の納税コストが発生し、銀行の決算を悪化させ、かえって、銀行経営の健全性を揺るがす事態を生せしめると考えられており、このような観点からも、税法基準による不良債権の償却・引当は、銀行の会計実務として定着しており、その内容は合理性を有していた、すなわち『公正なる』ものであったというべきである。

このような判示からは、租税法上の取扱いや実務慣行が何らかの形で商法(会社法)上承認された会計慣行となり得る可能性があることをみてとることができる。

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中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

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Ⅰ 問題点の所在

Ⅱ 税務通達と公正処理基準

1 租税訴訟にみられる見解

2 公正処理基準と商法(会社法)

Ⅱ 税務通達と公正処理基準(承前)

2 公正処理基準と商法(会社法)(承前)

法人税法22条4項は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」ともいう。)に従って、法人所得の金額の計算を行う旨規定している。これは一般に企業会計準拠主義とも呼ばれているが、法人税法において、企業会計の処理として慣習化された基準に従うこととしているのは、私法が慣習法を法源として取り込むことと似ているように思われる。

しかしながら、租税法と商法はその目的を異にするものであるから、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについては疑義があるところである。この点は、この事件〔長銀配当損害賠償事件第一審東京地裁平成17年5月19日判決〕において、原告側から批判的主張が展開されたところでもあるが、東京地裁は、次のように判示し、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについて否定的な立場をとってはいない。

税法と商法が本来目的を異にする点は、原告ら主張のとおりであるが、銀行の経営の健全性及び適切性の観点から、適正な決算処理を監督する趣旨で、大蔵省検査に依拠し、不良債権償却証明制度を介して償却・引当を行うとする不良債権償却証明制度により補充される改正前決算経理基準自体もまた、適正な決算処理を確保する趣旨においては、正確な銀行の財務状態及び損益状態の反映という商法の目的にも反していなかったと考えられる。

なお、有税による償却・引当は、償却・引当のコストに加えて同額の納税コストが発生し、銀行の決算を悪化させ、かえって、銀行経営の健全性を揺るがす事態を生せしめると考えられており、このような観点からも、税法基準による不良債権の償却・引当は、銀行の会計実務として定着しており、その内容は合理性を有していた、すなわち『公正なる』ものであったというべきである。

このような判示からは、租税法上の取扱いや実務慣行が何らかの形で商法(会社法)上承認された会計慣行となり得る可能性があることをみてとることができる。

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連載目次

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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