公開日: 2022/10/13 (掲載号:No.490)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第112回】「節税商品取引を巡る法律問題(その6)」

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第112回】

「節税商品取引を巡る法律問題(その6)」

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

Ⅰ 節税商品取引における「投資者保護」の必要性

1 一般的金融商品取引と投資者保護

2 節税商品取引と投資者保護

小括

《(その2)はこちら》

Ⅱ 節税商品取引を抽出する研究の試み

1 米国訴訟との比較による節税商品過誤訴訟の今後の趨勢

2 米国におけるタックスシェルター・マルプラクティス訴訟の状況

3 我が国の節税商品過誤訴訟の状況

4 節税商品取引を巡る環境の変化

5 タックスシェルター・マルプラクティス訴訟と節税商品過誤訴訟の相違点

《(その3)はこちら》

Ⅲ 節税商品の特殊構造と特有な説明義務の模索の必要性

1 節税商品の特殊構造

(1) 商品の二重構造性

(2) リスクの二重構造性

(3) 商品の新規性

《(その4)はこちら》

2 説明内容の二重構造性

3 説明義務者の専門的知識の欠如の問題(説明義務者の適合性の問題)

4 小括

《(その5)はこちら》

Ⅳ 説明義務者の適格性―説明者の専門的知識の欠如

1 問題点の所在

2 販売者の専門的知識の欠如が問題とされた事例

(1) 米国財務省証券事件(①事件)

(2) 等価交換によるマンション建設勧誘事件(②事件)

3 節税商品販売者の専門的知識の欠如

4 節税商品取引における税理士の役割

Ⅴ 消極的説明義務

1 税理士への説明行為の委任

節税商品は「節税」を売り物とするものであるから、商品内容の説明に当たっては本体契約の説明に加えて課税上の取扱いに係る説明もなされなければならないし、課税上のリスクに係る説明もなされなければならないと考える。ところが、先に述べたとおり、金融機関や保険会社の販売担当者などが税制上の説明を行うには専門的知識の欠如という問題が惹起されるし、また、個別具体的に課税上の取扱いに係る説明を行うことは、税理士法に抵触することにもなりかねない。

この点について、森田章同志社大学名誉教授は、「従来の保険業法では、銀行員が保険の募集を行うことを想定していなかったので、保険外務員であれば顧客に開示すべきことであっても、銀行員なら何も開示しなくてもよく、むしろ説明を行うと保険業法に違反するという考え方すら存在して、変額保険の販売による被害を増大させたともいえよう」と分析される(森田章「変額保険」民商114巻4=5号731頁(1996)、同「金融サービス法」法時70巻10号26頁(1998))。

税理士法違反や保険業法違反を理由として自らが販売する商品の説明や商品に係るリスク説明を放棄することが許されるのであろうか。

投資者の自己決定権侵害を招来するおそれを考慮に入れると、販売者による自己完結的な説明義務履行の不能をもって当該説明義務を免責することは妥当でない。また、銀行と顧客との間の投資勧誘契約の不存在を前提として、銀行の説明義務に否定的見解を展開する論者の反論があるのも事実である。

そこで、販売者が自らの義務履行を税理士に委任(代理権授与)することが考えられよう。つまり、販売者と税理士との委嘱契約の締結により、税理士が節税商品の課税上の取扱いに係る説明を投資者に対して行うことができれば、税理士による説明が販売者に法的に効果帰属するため、販売者の説明義務の履行完結が可能となろう。

2 消極的説明義務

ところで、販売者と税理士との委嘱契約の締結は販売者の選択的一方策を提示するにとどまるのか。ここで、いわゆる紀陽銀行事件として有名な大阪地裁堺支部平成7年9月8日判決(判時1559号63頁)及びその後のいくつかの変額保険訴訟において支持されている「消極的説明義務」を概観したい。

大阪地裁堺支部事案の概要は次のとおりである。

原告Xは、平成元年7月、Y1銀行の支店長代理、Y2保険会社の募集人の訪問を受け、変額保険の加入を勧誘され、これに加入したが、かかる保険解約に伴い損害を被った。Xは、Y1、Y2の従業員の変額保険加入についての説明義務違反を理由に、Y1、Y2の使用者責任を追及した。これに対して裁判所は、Y1、Y2双方の担当者に、変額保険の危険性についての説明義務違反を肯認した。すなわち、Y1銀行の支店長代理の勧誘が本件保険加入の動機になっている点を考慮して、Y1銀行の担当者としては、少なくとも、Y2保険会社の担当者の説明により顧客が損はしないと誤解しているのに、これを正す説明をしなかったとして、消極的説明義務違反があったと判示した。銀行の説明義務違反を肯定した大阪地裁堺支部は、保険業法により変額保険についての説明が制限されている銀行も、その内容について顧客が誤解している場合には、誤解を解くための説明を自らするか保険会社に説明を促すべき消極的説明義務があるとして、銀行の責任を肯定した。

同支部は、保険契約と融資契約は法律上別個であり、保険募集の取締に関する法律(当時)で銀行が保険の募集をすることは業法上できないから、銀行員には、変額保険の内容について積極的な説明をする義務はないとしたものの、「少なくとも、保険会社担当者Aの説明によって、原告Xが変額保険の内容について誤解している時は、誤解を解くための説明を自らするか、Aに再度の正確な説明を促すべきであるという消極的な説明義務が生じうるというべきである」と判示したのである。

3 専門的知識の欠如した者及び税理士でない者に係る消極的説明義務

消極的説明義務を肯定する論旨は、投資顧問契約やそれに類似した契約を前提とした法的構成ではなく、保険募集を特定の者に限定する保険業法の下で、保険会社の説明を促す間接的な義務として銀行の法的責任を認める。税理士法も保険業法と同様の一種の業法であるが、個別具体的な課税上の取扱いの説明を税理士に限定する税理士法の下で、税理士の説明を促す間接的な義務を措定する根拠として、節税商品取引における説明義務者の法的責任論にこの議論を援用することは不可能ではないと思われる。

上記大阪地裁堺支部の判示内容に沿って考えると、専門的知識の欠如や税理士法抵触の問題があるため、販売者が「誤解を解くための説明を自らする」ことが不可能であるとすると、「(専門家に)正確な説明を促すべきであるという消極的説明義務」の履行のみが販売者の採り得る説明義務の履行手段となる。

説明義務者の説明が未完結のままであるとすると、この放置は投資者の自己決定権侵害に繋がることとなるため、この危難を漫然と傍観することは違法となるとする法的構成の採用は十分にあり得る。

松本恒雄一橋大学名誉教授は、「消極的説明義務」の本質を不作為の違法性論において論じられる「先行行為に基づく作為義務」の一種であるとし、自己の積極的行為によって相手方を危難に陥れた者は、漫然とそれを傍観していると違法になる場合があるとする法的構成を採用する判決として大阪地裁堺支部判決を支持される(松本恒雄「融資金の使途先に関する融資者の責任」自正47巻10号27頁(1996))。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第112回】

「節税商品取引を巡る法律問題(その6)」

 

中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら》

はじめに

Ⅰ 節税商品取引における「投資者保護」の必要性

1 一般的金融商品取引と投資者保護

2 節税商品取引と投資者保護

小括

《(その2)はこちら》

Ⅱ 節税商品取引を抽出する研究の試み

1 米国訴訟との比較による節税商品過誤訴訟の今後の趨勢

2 米国におけるタックスシェルター・マルプラクティス訴訟の状況

3 我が国の節税商品過誤訴訟の状況

4 節税商品取引を巡る環境の変化

5 タックスシェルター・マルプラクティス訴訟と節税商品過誤訴訟の相違点

《(その3)はこちら》

Ⅲ 節税商品の特殊構造と特有な説明義務の模索の必要性

1 節税商品の特殊構造

(1) 商品の二重構造性

(2) リスクの二重構造性

(3) 商品の新規性

《(その4)はこちら》

2 説明内容の二重構造性

3 説明義務者の専門的知識の欠如の問題(説明義務者の適合性の問題)

4 小括

《(その5)はこちら》

Ⅳ 説明義務者の適格性―説明者の専門的知識の欠如

1 問題点の所在

2 販売者の専門的知識の欠如が問題とされた事例

(1) 米国財務省証券事件(①事件)

(2) 等価交換によるマンション建設勧誘事件(②事件)

3 節税商品販売者の専門的知識の欠如

4 節税商品取引における税理士の役割

Ⅴ 消極的説明義務

1 税理士への説明行為の委任

節税商品は「節税」を売り物とするものであるから、商品内容の説明に当たっては本体契約の説明に加えて課税上の取扱いに係る説明もなされなければならないし、課税上のリスクに係る説明もなされなければならないと考える。ところが、先に述べたとおり、金融機関や保険会社の販売担当者などが税制上の説明を行うには専門的知識の欠如という問題が惹起されるし、また、個別具体的に課税上の取扱いに係る説明を行うことは、税理士法に抵触することにもなりかねない。

この点について、森田章同志社大学名誉教授は、「従来の保険業法では、銀行員が保険の募集を行うことを想定していなかったので、保険外務員であれば顧客に開示すべきことであっても、銀行員なら何も開示しなくてもよく、むしろ説明を行うと保険業法に違反するという考え方すら存在して、変額保険の販売による被害を増大させたともいえよう」と分析される(森田章「変額保険」民商114巻4=5号731頁(1996)、同「金融サービス法」法時70巻10号26頁(1998))。

税理士法違反や保険業法違反を理由として自らが販売する商品の説明や商品に係るリスク説明を放棄することが許されるのであろうか。

投資者の自己決定権侵害を招来するおそれを考慮に入れると、販売者による自己完結的な説明義務履行の不能をもって当該説明義務を免責することは妥当でない。また、銀行と顧客との間の投資勧誘契約の不存在を前提として、銀行の説明義務に否定的見解を展開する論者の反論があるのも事実である。

そこで、販売者が自らの義務履行を税理士に委任(代理権授与)することが考えられよう。つまり、販売者と税理士との委嘱契約の締結により、税理士が節税商品の課税上の取扱いに係る説明を投資者に対して行うことができれば、税理士による説明が販売者に法的に効果帰属するため、販売者の説明義務の履行完結が可能となろう。

2 消極的説明義務

ところで、販売者と税理士との委嘱契約の締結は販売者の選択的一方策を提示するにとどまるのか。ここで、いわゆる紀陽銀行事件として有名な大阪地裁堺支部平成7年9月8日判決(判時1559号63頁)及びその後のいくつかの変額保険訴訟において支持されている「消極的説明義務」を概観したい。

大阪地裁堺支部事案の概要は次のとおりである。

原告Xは、平成元年7月、Y1銀行の支店長代理、Y2保険会社の募集人の訪問を受け、変額保険の加入を勧誘され、これに加入したが、かかる保険解約に伴い損害を被った。Xは、Y1、Y2の従業員の変額保険加入についての説明義務違反を理由に、Y1、Y2の使用者責任を追及した。これに対して裁判所は、Y1、Y2双方の担当者に、変額保険の危険性についての説明義務違反を肯認した。すなわち、Y1銀行の支店長代理の勧誘が本件保険加入の動機になっている点を考慮して、Y1銀行の担当者としては、少なくとも、Y2保険会社の担当者の説明により顧客が損はしないと誤解しているのに、これを正す説明をしなかったとして、消極的説明義務違反があったと判示した。銀行の説明義務違反を肯定した大阪地裁堺支部は、保険業法により変額保険についての説明が制限されている銀行も、その内容について顧客が誤解している場合には、誤解を解くための説明を自らするか保険会社に説明を促すべき消極的説明義務があるとして、銀行の責任を肯定した。

同支部は、保険契約と融資契約は法律上別個であり、保険募集の取締に関する法律(当時)で銀行が保険の募集をすることは業法上できないから、銀行員には、変額保険の内容について積極的な説明をする義務はないとしたものの、「少なくとも、保険会社担当者Aの説明によって、原告Xが変額保険の内容について誤解している時は、誤解を解くための説明を自らするか、Aに再度の正確な説明を促すべきであるという消極的な説明義務が生じうるというべきである」と判示したのである。

3 専門的知識の欠如した者及び税理士でない者に係る消極的説明義務

消極的説明義務を肯定する論旨は、投資顧問契約やそれに類似した契約を前提とした法的構成ではなく、保険募集を特定の者に限定する保険業法の下で、保険会社の説明を促す間接的な義務として銀行の法的責任を認める。税理士法も保険業法と同様の一種の業法であるが、個別具体的な課税上の取扱いの説明を税理士に限定する税理士法の下で、税理士の説明を促す間接的な義務を措定する根拠として、節税商品取引における説明義務者の法的責任論にこの議論を援用することは不可能ではないと思われる。

上記大阪地裁堺支部の判示内容に沿って考えると、専門的知識の欠如や税理士法抵触の問題があるため、販売者が「誤解を解くための説明を自らする」ことが不可能であるとすると、「(専門家に)正確な説明を促すべきであるという消極的説明義務」の履行のみが販売者の採り得る説明義務の履行手段となる。

説明義務者の説明が未完結のままであるとすると、この放置は投資者の自己決定権侵害に繋がることとなるため、この危難を漫然と傍観することは違法となるとする法的構成の採用は十分にあり得る。

松本恒雄一橋大学名誉教授は、「消極的説明義務」の本質を不作為の違法性論において論じられる「先行行為に基づく作為義務」の一種であるとし、自己の積極的行為によって相手方を危難に陥れた者は、漫然とそれを傍観していると違法になる場合があるとする法的構成を採用する判決として大阪地裁堺支部判決を支持される(松本恒雄「融資金の使途先に関する融資者の責任」自正47巻10号27頁(1996))。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

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筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。2025年5月13日、逝去。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
『「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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