公開日: 2023/07/13 (掲載号:No.527)
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リース会計基準(案)を学ぶ 【第1回】「基本的な考え方と適用範囲」

筆者: 阿部 光成

リース会計基準(案)を学ぶ

【第1回】

「基本的な考え方と適用範囲」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年5月2日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下「リース会計基準(案)」という)等を公表し、意見募集を行っている。

意見募集期間は2023年8月4日までである。

リース会計基準(案)は、リースの識別をはじめ、これまでとは異なる実務上の対応を求めることとなる部分もあることから、実務への適用に際しては、十分な理解が必要となる。

本シリーズは、公開草案の段階ではあるものの、リース会計基準(案)について基本的な理解に資するように解説を行うものである。

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 基本的な考え方

1 開発にあたっての基本的な方針

借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(リース会計基準(案)BC12項、BC34項)。

(1) 借手の費用配分の方法

国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースを金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを提案している。

(2) IFRS第16号と整合性を図る程度

  • IFRS第16号のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れる。
  • 国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める、又は、経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討する。

(3) 会計基準の開発方法

「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)などの項番号を振り直し、新たな会計基準として開発する。

また、「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「リース適用指針(案)」という)では、「開発にあたっての基本的な方針」について次のように規定している(リース適用指針(案)BC4項、BC5項)。

 主要な定めの内容のみを取り入れる場合であっても、企業は、当該内容に基づいて判断を行い、企業の経済実態を表す会計処理を行うことができると考えられる。

 我が国の会計基準を適用するにあたって、取り入れた主要な定めの内容のみに基づいて判断を行うことで足りるため、IFRS第16号におけるガイダンスや解釈等を参照する実務上の負担が生じないと考えられる。

 各企業における判断が必要となることにより、財務諸表作成コスト及び監査コストは、相対的に大きくなる可能性がある。

 IFRS第16号の主要な定めの内容のみを取り入れる開発方針は、取り入れなかった項目についてもIFRS第16号と同じ適用結果となることを意図するものではなく、取り入れた主要な定めの内容に基づき判断が行われることを意図するものである。

したがって、適切な会計処理は、IFRS第16号における詳細な定めに基づき会計処理を行った結果に限定されないこととなる。

 会計基準の本文において主要な定めの内容として取り入れない項目については、設例についてもIFRS第16号の設例の内容を本適用指針に取り入れないこととした。

2 主な特徴

リース会計基準(案)は、次の特徴を持つものと考えられる。

(1) 主として借手の会計処理について改正を行うものであること(リース会計基準(案)BC33項)。

(2) 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)の定めを維持していること(リース会計基準(案)BC12項)。

  • 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)との整合性を図る点
  • リースの定義及びリースの識別

また、「開発にあたっての基本的な方針」に基づいて、リース会計基準(案)及びリース適用指針(案)は、次の内容から構成されていると考えられる。

 IFRS第16号「リース」と同様の規定

 現行の「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)と同様の規定

 米国会計基準(Topic842)を参考にしている規定(セール・アンド・リースバック取引に該当する場合の会計処理。リース適用指針(案)BC81項)

 国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲での代替的な取扱い又は経過的な措置

したがって、リース会計基準(案)の適用に際しては、規定の内容をよく検討する必要があると考えられる。

 

Ⅲ 適用範囲

リース会計基準(案)は、契約の名称などにかかわらず、本会計基準の範囲に定めるリースに適用する(リース会計基準(案)BC13項)。

リース会計基準(案)は、次の(1)から(4)に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(リース会計基準(案)3項)。

なお、地上権(リース適用指針(案)4項(3))の開示については「企業会計原則」に定めがあるが、当該地上権を含む借地権の設定に係る権利金等(リース適用指針(案)4項(9)、24項)に関する開示については、リース適用指針(案)を優先して適用する。

(1) 「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第35号)の範囲に含まれる運営権者による公共施設等運営権の取得

〈留意点〉

  • 運営権の構成要素にリースが含まれるかどうかにかかわらず、本会計基準の範囲に含めない(リース会計基準(案)BC14項)。
  • これは、運営権を分割せずに一括して会計処理を行うこととしており(実務対応報告第35号、39-3項)、当該運営権の構成要素についてリースに該当するかどうかの検討を行わないこととするためである(リース会計基準(案)BC14項)。

(2) 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与

〈留意点〉

  • IFRS第16号と同様に、本会計基準の範囲に含めない(リース会計基準(案)BC15項)。
  • 「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)は、知的財産のライセンスには、ソフトウェアのライセンスが含まれるとしており(収益認識適用指針143項)、収益認識会計基準の範囲に含まれるソフトウェアのライセンスの付与には収益認識会計基準を適用する(リース会計基準(案)BC15項)。

(3) (2)を除く貸手による無形固定資産のリースについて、本会計基準を適用しないことを選択した場合

〈留意点〉

貸手によるその他の無形固定資産のリースについては、IFRS第16号ではその適用を任意とする定めはないものの、その他の無形固定資産のリースが広範に行われているようには見受けられなかったため、また、企業会計基準第13号における会計処理を変更する必要がないようにするため、本会計基準の適用は任意とした(リース会計基準(案)3項(3)、リース会計基準(案)BC15項)。

(4) 借手による無形固定資産のリースについて、本会計基準を適用しないことを選択した場合

〈留意点〉

借手によるリースのうち、無形固定資産のリースについては、借手によるソフトウェアのリースが企業会計基準第13号に基づいて会計処理されている実務を変更する必要がないようにするとともに、無形資産のリースに適用することを要求されていないIFRS第16号との整合性を図るため、本会計基準の適用を任意とした(リース会計基準(案)3項(4)、リース会計基準(案)BC16項)。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

リース会計基準(案)を学ぶ

【第1回】

「基本的な考え方と適用範囲」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年5月2日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下「リース会計基準(案)」という)等を公表し、意見募集を行っている。

意見募集期間は2023年8月4日までである。

リース会計基準(案)は、リースの識別をはじめ、これまでとは異なる実務上の対応を求めることとなる部分もあることから、実務への適用に際しては、十分な理解が必要となる。

本シリーズは、公開草案の段階ではあるものの、リース会計基準(案)について基本的な理解に資するように解説を行うものである。

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 基本的な考え方

1 開発にあたっての基本的な方針

借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(リース会計基準(案)BC12項、BC34項)。

(1) 借手の費用配分の方法

国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースを金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを提案している。

(2) IFRS第16号と整合性を図る程度

  • IFRS第16号のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れる。
  • 国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める、又は、経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討する。

(3) 会計基準の開発方法

「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)などの項番号を振り直し、新たな会計基準として開発する。

また、「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「リース適用指針(案)」という)では、「開発にあたっての基本的な方針」について次のように規定している(リース適用指針(案)BC4項、BC5項)。

 主要な定めの内容のみを取り入れる場合であっても、企業は、当該内容に基づいて判断を行い、企業の経済実態を表す会計処理を行うことができると考えられる。

 我が国の会計基準を適用するにあたって、取り入れた主要な定めの内容のみに基づいて判断を行うことで足りるため、IFRS第16号におけるガイダンスや解釈等を参照する実務上の負担が生じないと考えられる。

 各企業における判断が必要となることにより、財務諸表作成コスト及び監査コストは、相対的に大きくなる可能性がある。

 IFRS第16号の主要な定めの内容のみを取り入れる開発方針は、取り入れなかった項目についてもIFRS第16号と同じ適用結果となることを意図するものではなく、取り入れた主要な定めの内容に基づき判断が行われることを意図するものである。

したがって、適切な会計処理は、IFRS第16号における詳細な定めに基づき会計処理を行った結果に限定されないこととなる。

 会計基準の本文において主要な定めの内容として取り入れない項目については、設例についてもIFRS第16号の設例の内容を本適用指針に取り入れないこととした。

2 主な特徴

リース会計基準(案)は、次の特徴を持つものと考えられる。

(1) 主として借手の会計処理について改正を行うものであること(リース会計基準(案)BC33項)。

(2) 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)の定めを維持していること(リース会計基準(案)BC12項)。

  • 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)との整合性を図る点
  • リースの定義及びリースの識別

また、「開発にあたっての基本的な方針」に基づいて、リース会計基準(案)及びリース適用指針(案)は、次の内容から構成されていると考えられる。

 IFRS第16号「リース」と同様の規定

 現行の「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)と同様の規定

 米国会計基準(Topic842)を参考にしている規定(セール・アンド・リースバック取引に該当する場合の会計処理。リース適用指針(案)BC81項)

 国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲での代替的な取扱い又は経過的な措置

したがって、リース会計基準(案)の適用に際しては、規定の内容をよく検討する必要があると考えられる。

 

Ⅲ 適用範囲

リース会計基準(案)は、契約の名称などにかかわらず、本会計基準の範囲に定めるリースに適用する(リース会計基準(案)BC13項)。

リース会計基準(案)は、次の(1)から(4)に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(リース会計基準(案)3項)。

なお、地上権(リース適用指針(案)4項(3))の開示については「企業会計原則」に定めがあるが、当該地上権を含む借地権の設定に係る権利金等(リース適用指針(案)4項(9)、24項)に関する開示については、リース適用指針(案)を優先して適用する。

(1) 「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第35号)の範囲に含まれる運営権者による公共施設等運営権の取得

〈留意点〉

  • 運営権の構成要素にリースが含まれるかどうかにかかわらず、本会計基準の範囲に含めない(リース会計基準(案)BC14項)。
  • これは、運営権を分割せずに一括して会計処理を行うこととしており(実務対応報告第35号、39-3項)、当該運営権の構成要素についてリースに該当するかどうかの検討を行わないこととするためである(リース会計基準(案)BC14項)。

(2) 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与

〈留意点〉

  • IFRS第16号と同様に、本会計基準の範囲に含めない(リース会計基準(案)BC15項)。
  • 「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)は、知的財産のライセンスには、ソフトウェアのライセンスが含まれるとしており(収益認識適用指針143項)、収益認識会計基準の範囲に含まれるソフトウェアのライセンスの付与には収益認識会計基準を適用する(リース会計基準(案)BC15項)。

(3) (2)を除く貸手による無形固定資産のリースについて、本会計基準を適用しないことを選択した場合

〈留意点〉

貸手によるその他の無形固定資産のリースについては、IFRS第16号ではその適用を任意とする定めはないものの、その他の無形固定資産のリースが広範に行われているようには見受けられなかったため、また、企業会計基準第13号における会計処理を変更する必要がないようにするため、本会計基準の適用は任意とした(リース会計基準(案)3項(3)、リース会計基準(案)BC15項)。

(4) 借手による無形固定資産のリースについて、本会計基準を適用しないことを選択した場合

〈留意点〉

借手によるリースのうち、無形固定資産のリースについては、借手によるソフトウェアのリースが企業会計基準第13号に基づいて会計処理されている実務を変更する必要がないようにするとともに、無形資産のリースに適用することを要求されていないIFRS第16号との整合性を図るため、本会計基準の適用を任意とした(リース会計基準(案)3項(4)、リース会計基準(案)BC16項)。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

【参考記事】
「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準を学ぶ」(全4回)

【参考記事】
「税効果会計を学ぶ」(全22回)

【参考記事】
「企業結合会計を学ぶ」(全37回)

【参考記事】
「連結会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
「金融商品会計を学ぶ」(全29回)

【参考記事】
「減損会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
※旧連載「税効果会計を学ぶ」(全24回)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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