リース会計基準を学ぶ
【第1回】
「基本的な考え方と適用範囲」
公認会計士 阿部 光成
Ⅰ はじめに
2024年9月13日、企業会計基準委員会は、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号。以下「リース会計基準」という)、「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第33号。以下「リース適用指針」という)等を公表した。これにより、2023年5月2日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。
また、2024年9月26日には、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。
本シリ-ズは、リース会計基準について基本的な理解に資するように解説を行うものである。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。
Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針
1 借手の会計処理
借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(リース会計基準BC13項、BC39項、リース適用指針BC4項、BC35項)。
① 借手の費用配分の方法
IFRS第16号「リース」と同様に、リース会計基準等では、すべてのリースを使用権の取得として捉えて使用権資産を貸借対照表に計上するとともに、借手のリースの費用配分の方法については、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを採用する。
② IFRS第16号と整合性を図る程度
- IFRS第16号のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れる。
- 国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める、又は、経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討する。
2 貸手の会計処理
貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)の定めを踏襲している(リース会計基準BC13項、BC53項)。
① 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号。以下「収益認識会計基準」という)との整合性を図る点
② リースの定義及びリースの識別
3 主要な定め
リース適用指針は、「主要な定め」について次のように規定している(リース適用指針BC4項、BC5項)。
① 主要な定めの内容のみを取り入れる場合であっても、企業は、当該内容に基づいて判断を行い、企業の経済実態を表す会計処理を行うことができると考えられる。
② 我が国の会計基準を適用するにあたって、取り入れた主要な定めの内容のみに基づいて判断を行うことで足りるため、IFRS第16号におけるガイダンスや解釈等を参照する実務上の負担が生じないと考えられる。
③ 各企業における判断が必要となることにより、財務諸表作成コスト及び監査コストは、相対的に大きくなる可能性がある。
④ IFRS第16号の主要な定めの内容のみを取り入れる開発方針は、取り入れなかった項目についてもIFRS第16号と同じ適用結果となることを意図するものではなく、取り入れた主要な定めの内容に基づき判断が行われることを意図するものである。
したがって、適切な会計処理は、IFRS第16号における詳細な定めに基づき会計処理を行った結果に限定されないこととなる。
⑤ リース会計基準の本文において主要な定めの内容として取り入れない項目については、設例についてもIFRS第16号の設例の内容をリース適用指針に取り入れないこととした。
4 主な特徴
リース会計基準は、次の特徴を持つものと考えられる(リース会計基準BC13項)。
(1) 主として借手の会計処理について改正を行うものであること。
(2) 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)の定めを維持していること。
① 収益認識会計基準との整合性を図る点
② リースの定義及びリースの識別
また、「開発にあたっての基本的な方針」に基づいて、リース会計基準及びリース適用指針は、次の内容から構成されていると考えられる。
(a) IFRS第16号「リース」と同様の規定
(b) 現行の「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)と同様の規定
(c) 米国会計基準(Topic842)を参考にしている規定(セール・アンド・リースバック取引に該当する場合の会計処理。リース適用指針BC93項)
(d) 国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲での代替的な取扱い又は経過的な措置
したがって、リース会計基準の適用に際しては、規定の内容をよく検討する必要があると考えられる。
Ⅲ 適用範囲
1 範囲
リース会計基準は、契約の名称などにかかわらず、リース会計基準の範囲に定めるリースに適用する(リース会計基準BC14項)。
リース会計基準は、次の(1)から(3)に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(リース会計基準3項)。
なお、地上権(リース適用指針4項(3))の開示については「企業会計原則」に定めがあるが、当該地上権を含む借地権の設定に係る権利金等(リース適用指針4項(9))に関する開示については、リース適用指針を優先して適用する(リース適用指針1項)。
(1) 「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第35号)の範囲に含まれる運営権者による公共施設等運営権の取得
〈留意点〉
- 運営権の構成要素にリースが含まれるかどうかにかかわらず、リース会計基準の範囲に含めない(リース会計基準BC15項)。
- これは、実務対応報告第35号において、当該運営権を分割せずに一括して会計処理を行うこととしており(実務対応報告第35号29項)、当該運営権の構成要素についてリースに該当するかどうかの検討を行わないこととするためである(リース会計基準BC15項)。
(2) 収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与。
ただし、製造又は販売以外を事業とする貸手は、当該貸手による知的財産のライセンスの供与についてリース会計基準を適用することができる。
〈留意点〉
- 貸手によるリースのうち、収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与については、IFRS第16号と同様に、リース会計基準の範囲に含めない(リース会計基準BC16項)。
- 「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)は、知的財産のライセンスには、ソフトウェアのライセンスが含まれるとしており(収益認識適用指針143項)、収益認識会計基準の範囲に含まれるソフトウェアのライセンスの供与には収益認識会計基準を適用することとするためである(リース会計基準BC16項)。
- 公開草案に対するコメントを受けて、製造又は販売以外を事業とする貸手(リース適用指針71項(2))については、リース会計基準3項(2)の貸手による知的財産のライセンスの供与についてリース会計基準を適用することを認めている(リース会計基準BC17項。後述の「2 貸手による知的財産のライセンスの供与」を参照)。
(3) 鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用する権利の取得
〈留意点〉
- 借手の会計処理については、基本的に国際的な会計基準との整合性を図っているため、鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用する権利の取得については、リース会計基準の範囲から除いている(リース会計基準BC19項)。
- リース会計基準3項(3)には、探査にあたって土地等を使用する権利は含まれるが、資源を探査するために使用する機械装置等(例えば、掘削設備)の個々の資産は含まれず、当該個々の資産がリースに該当するか否かは、リースの定義(リース会計基準6項)及びリースの識別(リース会計基準25項から27項)の定めに従って判断することになる(リース会計基準BC19項)。
なお、リース会計基準3項の定めにかかわらず、無形固定資産のリースについては、リース会計基準を適用しないことができる(リース会計基準4項)。
次のことに留意する(リース会計基準BC18項)。
① 貸手によるその他の無形固定資産のリースについては、IFRS第16号ではその適用を任意とする定めはないものの、その他の無形固定資産のリースが広範に行われているようには見受けられなかったため、また、企業会計基準第13号における会計処理を変更する必要がないようにするため、リース会計基準の適用を任意としている。
② 借手によるリースのうち、無形固定資産のリースについては、借手によるソフトウェアのリースが企業会計基準第13号に基づいて会計処理されている実務を変更する必要がないようにするとともに、無形資産のリースに適用することを要求されていないIFRS第16号との整合性を図るため、リース会計基準の適用を任意としている。
2 貸手による知的財産のライセンスの供与
前述のとおり、リース会計基準では、収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与はリース会計基準の範囲から除かれているが、「ただし、製造又は販売以外を事業とする貸手は、当該貸手による知的財産のライセンスの供与について本会計基準を適用することができる」との規定が設けられている(リース会計基準3項(2))。
公開草案に対して、貸手のソフトウェアについてリース会計基準の適用範囲に含めるべきとのコメントが寄せられており、当該コメントに対して、企業会計基準委員会は次の考え方を示している(コメント対応No.26)。
リース業のように製造又は販売以外を事業とする貸手による知的財産のライセンスの供与について本会計基準を適用することを認めることとした(本会計基準第3 項(2)ただし書き)。
リース会計基準に合わせて、収益認識会計基準が改正されており、結論の背景(104-2項)において、その経緯が説明されている。
(了)
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