公開日: 2025/11/27 (掲載号:No.646)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第177回】いわき信用組合「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年10月31日付)」

筆者: 米澤 勝

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第177回】

いわき信用組合

「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年10月31日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【いわき信用組合特別調査委員会の概要】

【適時開示】

【特別調査委員会の構成】

【委員長】

貞弘賢太郎(弁護士 シティユーワ法律事務所)

【委 員】

井上寅喜(公認会計士 株式会社アカウンティング・アドバイザリー)

平井 太(弁護士 株式会社アカウンティング・アドバイザリー)

【調査補助者】

シティユーワ法律事務所所属の弁護士 4名

株式会社アカウンティング・アドバイザリー所属の公認会計士 4名

〔調査期間〕

2025年6月30日から10月30日まで

〔特別調査委員会の目的〕

(1) 不正融資事案(いわゆる「甲事案」)の追加調査

(2) その他の不正行為の追加調査

(3) (1)及び(2)の調査結果による当組合計算書類への影響額の算定

(4) その他特別調査委員会が必要と認めた事項

(5) (1)ないし(4)を踏まえた,追加的な原因分析及び再発防止策の提言

〔調査結果〕

 

【いわき信用組合の概要】

いわき信用組合は、1948(昭和23)年7月31日設立。設立時の名称は江名町信用組合。

1966(昭和41)年9月、いわき信用組合に名称変更。自己資本22,976百万円、預金残高204,164百万円、貸出残高121,586百万円。組合員数は41,810名で、その出資金は15,864万円である。経常収益は3,495百万円、経常利益は230百万円。

福島県いわき市内に14店舗、福島県双葉郡双葉町に1店舗を有している。常勤役職員数は185名。本店所在地は福島県いわき市(令和6年3月31日現在)。

会計監査人は、2019年6月まではEY新日本有限責任監査法人、同年7月以降は鈴木和郎公認会計士事務所及び公認会計士鈴木一徳会計事務所。

いわき信用組合が2024(令和6)年11月15日に設置した第三者委員会(以下、単に「第三者委員会」と略称する)は、調査報告書において、いわき信用組合で発覚した不祥事について、次のように事実認定を行った。

甲事案

いわき信用組合が、遅くとも2004年3月頃から2011年3月頃にかけて、X1社グループに対して、迂回融資及び無断借名融資の手法を用いて極めて多額の融資金を不正に資金提供し、かつ、当該資金提供の事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案

乙事案

元職員のY氏が、いわき信用組合α支店及びβ支店に在籍中の2010年3月頃から2014年8月頃にかけて、上記各支店の顧客名義を無断で借用して、預金担保融資、保証付融資及び個人ローン等の無断借名融資を実行し当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の総合口座貸越を利用して当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の定期預金を無断解約して解約金を着服する方法、β支店の諸勘定(個別貸倒引当金勘定)を不正操作する方法によって多額の金員を業務上横領又は詐取し、かつ、当該横領が二度にわたり発覚した後も当該事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案

丙事案

元職員のZ氏が、いわき信用組合α支店に在籍中の2009年5月下旬から同年6月7日までの間に、同支店の金庫内に保管されていた100万円の帯封現金から1万円札20枚を抜き取る方法によって、現金20万円を業務上横領又は窃取し、かつ、当該事実が当組合本部に報告された後もその事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案

 

【特別調査委員会による調査報告書の概要】

1 特別調査委員会設置の経緯

いわき信用組合は、2024年(令和6年)9月に投稿された「元信用組合職員」を名乗る者によるSNSへの書込みを契機とする内部調査により、いわき信用組合において、長年にわたって組織的に無断借名融資が繰り返されるなどしていたことが判明したことから、同年11月15日、一連の不祥事件(無断借名融資等の不正融資の継続及びその組織的隠蔽並びに当組合元職員2名による着服横領及びその組織的隠蔽)の事実関係の調査、原因分析、再発防止策の提言等を目的とする第三者委員会を設置し、2025年(令和7年)5月30日、第三者委員会から調査報告書の提出を受け、同日、その公表版を公表した。

しかし、いわき信用組合は、第三者委員会報告書において、第三者委員会による調査に対するいわき信用組合の協力姿勢に強い疑義を示された上、一連の不祥事件の実態解明に向けて、更なる調査を行う必要がある旨指摘されたことから、上記調査に対する誠実な対応を欠いたことを猛省するとともに、可能な限りの実態解明を図るべく、同年6月13日付け総代会において選任された役員による新たな経営体制の下で第三者委員会報告書における指摘を踏まえた徹底調査を実施することとして、同月30日、いわき信用組合と利害関係のない外部専門家から構成される特別調査委員会を組成し、調査を委嘱した。

特別調査委員会は、調査に当たり、独立性を確保し、実効的な調査を実現するため、以下の事項をいわき信用組合と合意した。

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第177回】

いわき信用組合

「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年10月31日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【いわき信用組合特別調査委員会の概要】

【適時開示】

【特別調査委員会の構成】

【委員長】

貞弘賢太郎(弁護士 シティユーワ法律事務所)

【委 員】

井上寅喜(公認会計士 株式会社アカウンティング・アドバイザリー)

平井 太(弁護士 株式会社アカウンティング・アドバイザリー)

【調査補助者】

シティユーワ法律事務所所属の弁護士 4名

株式会社アカウンティング・アドバイザリー所属の公認会計士 4名

〔調査期間〕

2025年6月30日から10月30日まで

〔特別調査委員会の目的〕

(1) 不正融資事案(いわゆる「甲事案」)の追加調査

(2) その他の不正行為の追加調査

(3) (1)及び(2)の調査結果による当組合計算書類への影響額の算定

(4) その他特別調査委員会が必要と認めた事項

(5) (1)ないし(4)を踏まえた,追加的な原因分析及び再発防止策の提言

〔調査結果〕

 

【いわき信用組合の概要】

いわき信用組合は、1948(昭和23)年7月31日設立。設立時の名称は江名町信用組合。

1966(昭和41)年9月、いわき信用組合に名称変更。自己資本22,976百万円、預金残高204,164百万円、貸出残高121,586百万円。組合員数は41,810名で、その出資金は15,864万円である。経常収益は3,495百万円、経常利益は230百万円。

福島県いわき市内に14店舗、福島県双葉郡双葉町に1店舗を有している。常勤役職員数は185名。本店所在地は福島県いわき市(令和6年3月31日現在)。

会計監査人は、2019年6月まではEY新日本有限責任監査法人、同年7月以降は鈴木和郎公認会計士事務所及び公認会計士鈴木一徳会計事務所。

いわき信用組合が2024(令和6)年11月15日に設置した第三者委員会(以下、単に「第三者委員会」と略称する)は、調査報告書において、いわき信用組合で発覚した不祥事について、次のように事実認定を行った。

甲事案

いわき信用組合が、遅くとも2004年3月頃から2011年3月頃にかけて、X1社グループに対して、迂回融資及び無断借名融資の手法を用いて極めて多額の融資金を不正に資金提供し、かつ、当該資金提供の事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案

乙事案

元職員のY氏が、いわき信用組合α支店及びβ支店に在籍中の2010年3月頃から2014年8月頃にかけて、上記各支店の顧客名義を無断で借用して、預金担保融資、保証付融資及び個人ローン等の無断借名融資を実行し当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の総合口座貸越を利用して当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の定期預金を無断解約して解約金を着服する方法、β支店の諸勘定(個別貸倒引当金勘定)を不正操作する方法によって多額の金員を業務上横領又は詐取し、かつ、当該横領が二度にわたり発覚した後も当該事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案

丙事案

元職員のZ氏が、いわき信用組合α支店に在籍中の2009年5月下旬から同年6月7日までの間に、同支店の金庫内に保管されていた100万円の帯封現金から1万円札20枚を抜き取る方法によって、現金20万円を業務上横領又は窃取し、かつ、当該事実が当組合本部に報告された後もその事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案

 

【特別調査委員会による調査報告書の概要】

1 特別調査委員会設置の経緯

いわき信用組合は、2024年(令和6年)9月に投稿された「元信用組合職員」を名乗る者によるSNSへの書込みを契機とする内部調査により、いわき信用組合において、長年にわたって組織的に無断借名融資が繰り返されるなどしていたことが判明したことから、同年11月15日、一連の不祥事件(無断借名融資等の不正融資の継続及びその組織的隠蔽並びに当組合元職員2名による着服横領及びその組織的隠蔽)の事実関係の調査、原因分析、再発防止策の提言等を目的とする第三者委員会を設置し、2025年(令和7年)5月30日、第三者委員会から調査報告書の提出を受け、同日、その公表版を公表した。

しかし、いわき信用組合は、第三者委員会報告書において、第三者委員会による調査に対するいわき信用組合の協力姿勢に強い疑義を示された上、一連の不祥事件の実態解明に向けて、更なる調査を行う必要がある旨指摘されたことから、上記調査に対する誠実な対応を欠いたことを猛省するとともに、可能な限りの実態解明を図るべく、同年6月13日付け総代会において選任された役員による新たな経営体制の下で第三者委員会報告書における指摘を踏まえた徹底調査を実施することとして、同月30日、いわき信用組合と利害関係のない外部専門家から構成される特別調査委員会を組成し、調査を委嘱した。

特別調査委員会は、調査に当たり、独立性を確保し、実効的な調査を実現するため、以下の事項をいわき信用組合と合意した。

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連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第150回 ※クリックするとご覧いただけます。

第151回~

筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

関連書籍

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株式会社 エス・ピー・ネットワーク 著 中野 真 監修

適時開示からみた監査法人の交代理由

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気候変動リスクと会社経営 はじめの一歩

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ドローン・ビジネスと法規制

森・濱田松本法律事務所 AI・IoTプラクティスグループ 編 弁護士 戸嶋浩二 編集代表 弁護士 林 浩美 編集代表 弁護士 岡田 淳 編集代表

法務コンプライアンス実践ガイド

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架空循環取引

公認会計士 霞 晴久、 弁護士・公認不正検査士 中西 和幸、 税理士・公認不正検査士 米澤 勝 著

不正会計リスクにどう立ち向かうか!

公認会計士・公認不正検査士 宇澤亜弓 著
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