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[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第49回】サイオステクノロジー株式会社「社内調査委員会調査報告書(平成28年6月9日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第49回】

サイオステクノロジー株式会社

「社内調査委員会調査報告書(平成28年6月9日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【社内調査委員会の概要】

〔適時開示〕

〔社内調査委員会〕

【委員長】

常勤監査役 平松 祐樹

【委 員】

社外取締役 福田 敬

社外監査役 古畑 克巳(公認会計士)

社外監査役 長谷川 紘之(弁護士)

他に調査補助者として、西村あさひ法律事務所所属の弁護士8名、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社所属の公認会計士・公認不正検査士ら9名が、調査委員会を構成している。

〔調査期間〕

2016(平成28)年4月26日から6月8日まで

〔調査の目的〕

① 不適切な取引の事実関係の調査及びその影響額の算出

② 当社及び子会社の全取引について本件事象と類似の事象が存在しないかの調査、並びに不適切な取引が発見された場合には当該取引の事実関係の調査及びその影響額の算出

③ 上記①及び②において判明した不適切な取引等の原因分析及び関係者の責任の検討

④ 再発防止策の提言

〔適時開示(調査結果)〕

 

【サイオステクノロジー株式会社の概要】

サイオステクノロジー株式会社(旧社名は株式会社テンアートニ。以下「サイオス」と略称する)は、1997(平成9)年設立。ITシステムの開発/基盤構築/運用サポート事業を展開。連結子会社9社。筆頭株主は株式会社大塚商会(17.95%を所有)。売上高9,362千円、経常損失△127千円。従業員数414名(数字はいずれも訂正前の平成27年12月期)。本店所在地は東京都港区。東京証券取引所二部上場。

不適切な取引が発覚したのは、サイオスの100%出資子会社である株式会社関心空間(旧社名は株式会社SIIIS、以下「SIIIS」と略称する)。同社は、資本金65百万円で、ソーシャルメディアの企画等のWebアプリケーション事業を行っている。

 

【調査委員会報告書の概要】

1 SIIISが参画していた実証事件事業

SIIISは平成23年10月から平成26年3月まで、一般社団法人新エネルギー導入促進協議会(以下「NEPC」と略称する。)による次世代エネルギー技術実証事業費補助金の対象事業である「電力需要抑制のモデル化と高自給率コミュニティの計画・運用体系化に関する実証事業(長崎県佐世保市)」に、双日株式会社(調査報告書では「A社」。以下「A社」で統一する)ほか複数社とともに、補助対象事業者として参加し、補助金を受給していた。

実証事業におけるSIIISの役割は、A社を代表とし数社からなるコンソーシアムのプロジェクトマネジメントオフィス補佐として、同事業の円滑な推進、各関係者及び関係者間の調整、討議や打ち合わせに必要な各種資料作成、各種会議体運営支援を行うこと及びデジタルサイネージ(※)導入業務を行うことであった。

(※) デジタルサイネージとは、屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するシステムを総称して 「デジタルサイネージ」と呼ぶ。

【参考】 「デジタルサイネージについて」(一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムホームページ)

実証事業に対するNEPCの補助金の交付の対象となる経費は、システム実証に必要な機械装置等の制作・購入又は賃借及び土木作業工事費等の事業費と事業の遂行に必要な調査・設計・企画・調整等を行う職員等に係る経費等の人件費と定められており、当該経費の2分の1が補助率と定められていた。

 

2 不適切な会計処理が発覚した経緯

平成27年9月、SIIISの取締役に就任した、サイオスの開発事業部・新規事業企画部長であるs7氏は、平成28年3月24日、実証事業に関するSIIISからA社に対する回答が行われていないことを知り、回答準備のために、過去の資料の確認、関係者への聴取等を行ったところ、実証事業に関する経費の水増し・架空売上の計上が行われていた疑いがあることを認識した。

4月11日、s7氏は、サイオス代表取締役社長らに報告を行い、協議の結果、西村あさひ法律事務所に対応を相談。その後、会計監査人である新日本監査法人とも協議のうえ、4月26日のサイオス取締役会において、サイオス常勤監査役を委員長とする社内調査委員会を設置し、調査を行うことを正式に決定した。

 

3 不適切な会計処理の概要

不適切な会計処理と認定されたのは、(1)協力会社に対する外注費・設備購入代金を水増しした金額で発注を行い、支払った金額の一部を業務委託費等の名目でSIIISに還流させる手口と、(2)SIIISにおける社内人件費を過大報告する手口に基づき、補助金を不正受給したことであった。

【図表1】 還流取引の概要

NEPC 株式会社双日 SIIIS 協力外注業者 関係事業者 補助金 補助金 架空・水増し発注 架空発注 キックバック

【図表2】 不正受給額の合計

(単位:千円) 平成23年度 平成24年度 平成25年度 合 計 外注費等 80,197 44,397 20,750 145,344 人件費 17,822 13,685 10,469 41,976 合 計 98,019 58,082 31,220 187,321 補助金受給額 49,009 29,041 15,610 93,660 還流金額 41,395 22,888 9,884 74,167 水増人件費 13,189 10,173 9,626 32,988 合 計 54,584 33,061 19,510 107,155

 

4 不適切な会計処理に至った背景と目的

実証事業への参加は、次世代エネルギー技術開発を本来的な事業目的として取り組んでいる事業者にとっては将来への投資として意義を有する事業であり、経費の2分の1を補助金で受給できるというメリットはあったと思われるが、SIIISの主たる事業はソーシャルネットワーク関連のIT技術の開発であって、エネルギー関係は本来の事業目的ではない。

また、当時のSIIIS代表取締役s1氏が還流取引を含む実証事業を行ったことにより、個人的な利得を得ていたことまでを示す証拠は得られていない。

こうした点について、s1氏は、実証事業への参加理由について、長崎県の担当者から「やってほしいと頼まれたので断れなかった」と説明するにとどまっている。

調査委員会は、s1氏が、「九州北部の自治体や事業者とのネットワークを事業活動の基盤としている」ことから、この要請にこたえることが将来のビジネスチャンスにつながることを期待して参加を決断したものの、過大な補助金を受給することにより、資金収支のマイナスを縮小し、デメリットを最小化することを企図したものと、「合理的に推察」している。

 

5 原因分析

調査報告書には、サイオスがSIIISを子会社化した理由について説明はないものの、「出資時の検討不足」を、本件不適切な取引の原因の最初に挙げているため、まずは、第三者割当増資引き受け時のサイオスのリリースを確認したい。

まず、SIIIS社の事業活動について。

シーズ(引用者注:SIIIS)は、ITのネットワーク技術を活用して、分散ネットワーク型社会「スマートコミュニティ」の実現を目指して設立された企業です。スマートフォンや位置情報、各種ソーシャル・ネットワーキング・サービス等を活用することで、人や社会の繋がりを構築し、地域社会の振興に寄与することを目的としています。

次いで、SIIIS代表取締役について。

シーズの代表を務める杉山隆志氏は、大手コンサルティング会社等において、地方自治体の情報戦略策定や個別システム構築に関する数々のコンサルティング実績があります。また、近年ではスマートフォンやソーシャル・ネットワーキング・サービスを活用した地域振興サービスやアプリケーションの開発を推進してきました。

最後に、サイオスによる第三者割当増資の引き受け目的について。

当社グループがこれまでに培ったクラウドコンピューティングや、オープンソースソフトウェア関連の技術は、シーズが目指す「スマートコミュニティ」での活用が期待でき、相乗効果に繋がるものと見込んでいます。また、杉山氏のソーシャル・ネットワーキング・サービスに関する知見や先見性を生かした新規事業の創出や、当社既存製品・サービスの拡販における相互支援、相乗効果等も期待できることから、今回の第三者割当増資の引き受けを決定しました。

社内調査委員会は、「深度ある十分な検証が行われていた場合には、少なくとも、出資にあたって本件事業への参加は中止させていた可能性があったのではないか」と指摘しているが、このリリースを読む限り、問題となった実証事業への参加予定(引き受け当時)はむしろ、SIIISの事業の発展性を予見させるものと映ったのではないかと考えられ、私見としては、「出資時の検討不足」を原因の第一に置くのは違和感を持たざるを得ない。

むしろ、出資後、サイオスから派遣された取締役・監査役による管理監督が十分ではなく、本件不適切取引を長期間放置していたのみならず、SIIISの内部統制システムが脆弱なまま、何ら手を打たなかった(「打てなかった」と言うべきかもしれない)ことにこそ、根本原因があるのではないかと思料する。

 

6 再発防止策

上述のとおり、社内調査委員会と筆者とでは、「原因分析」に対する考え方は少し異なるのだが、ここでは、調査委員会の提言を紹介したい。

(1) 子会社の買収等の際の深度ある調査の実施

調査委員会は、M&Aを実施するにあたっては、単に事業の収益性や利益率のみに関心をもつのではなく、「事業の適法性及び適正性」、「経営者の資質も含めてグループ会社とするにふさわしい体制を整えた企業であるかどうか」について、「深度のある調査及び検証を実施すること」が必要であると強調する。

(2) 社内及びグループ子会社の管理体制の強化

サイオスからSIIISに派遣された取締役・監査役がその職責を十分に果たせなかった原因に、派遣された者がいずれもサイオスでの職務を本務とし、SIIISの役職は兼務であったことから、社内調査委員会は、「子会社に派遣される取締役及び監査役が子会社の監視・監督に十分専念できる職務環境を整えること」を提言し、かつ、それが困難であれば、サイオスにおいて、子会社の管理を主として担当する部門を設け、「子会社に派遣された取締役・監査役と連携して子会社の監督を行う体制を整えること」も、効果的な子会社及び孫会社の業務遂行を可能にする、としている。

(3) 体制・規程の整備

SIIISにおいては、基本規程を含む規程の整備がされておらず、社内体制が著しく不備であったことから、社内調査委員会は、あらためて、各子会社の規定及び体制を確認し、欠けているものがあれば、速やかに整備するように提言している。

(4) 役職員に対するコンプライアンス意識の徹底

サイオスにおいて実施されているコンプライアンス教育が、子会社では実施されていないことから、社内調査委員会は、子会社の従業員向けコンプライアンス教育の実施と子会社の社長や子会社の派遣役員として常に意識すべき責任及び留意点につき教育を施す体制の検討を、提言している。

(5) 社内処分・責任追及

最後に、社内調査委員会は、s1氏をはじめとするSIIISの役員に対する民事及び刑事責任の追及について、連結会計上の影響、返還が必要となる補助金の額、HEPC・資源エネルギー庁による刑事責任追及に関する意向等を踏まえて、「今後更に検討する必要がある」として、提言を締め括っている。

 

【調査報告書の特徴】

新規事業分野への進出を目論んでM&Aによる子会社化した会社において、あろうことか法律違反行為が発覚した――M&Aを決定した経営陣からすれば、悪夢のような事態であったはずだが、外部の調査協力者を活用した社内調査委員会による調査は、比較的短期間で終わったようである。

 

1 社内調査委員会の体制

社内調査委員会は、親会社であるサイオスの常勤監査役を委員長に、社外取締役、社外監査役が委員として名を連ねているが、実質的には、西村あさひ法律事務所所属の弁護士とデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社所属の公認会計士・公認不正検査士等が、調査実務を担当しているようである。

連結子会社で発生した会計不正の場合には、こうした体制が一つのスタンダードとして定着しつつあり、上場会社において、監査等委員会設置会社への移行が進む中、今後もこうした体制による不正調査が主流になっていくのではないかと思われる。

 

2 原因分析に対するちょっとした異論

本文でも言及したとおり、筆者の私見によれば、社内調査委員会による、「深度ある十分な検証が行われていた場合には、少なくとも、出資にあたって本件事業への参加は中止させていた可能性があったのではないか」という指摘には首肯できないものを感じている。

M&Aの場面では決断の早さが要求されることは間違いなく、「深度ある十分な検証」を行っている時間はさほどないだろうし、何より、M&Aを決断しようとしている経営者は、相手先に惚れこんでいるのが実情であるから、それに水を差すような進言も難しいであろう。

であるとすれば、M&Aにより子会社化した会社には、現経営者をコントロールできる有能な管理者を専任の取締役として派遣し、親会社と同等のコーポレートガバナンス体制を早急に整え、内部統制システムを整備し、過去の取引も含め、適法性・適正性を確認することを最優先で行うことを徹底する方が、経営者に受け容れやすいのではないだろうか。万一、そうした人材がいなかったり、体制が整わなかったりという事情があるのであれば、M&Aによる事業領域の拡大は経営戦略としては妥当ではない、ということではないだろうか。

 

3 過年度損益の修正による影響
――過年度における剰余金の配当と自己株式の取得における問題点

調査報告書の公表から1週間後、サイオスは過年度の有価証券報告書等を訂正するリリース「平成28年12月期第1四半期決算短信の提出及び過年度の決算短信等の訂正、過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出、並びに、過年度における剰余金の配当及び自己株式の取得に関するお知らせ」を公表した。

本リリースのタイトルが長くなった理由は、過年度決算の修正により、分配可能額がマイナスであったにもかかわらず、平成25年3月6日開催の定時株主総会で剰余金の配当を決議して実施したこと、平成25年10月から11月にかけて実施した市場買付の方法による自己株式の取得が、同じく分配可能額の範囲を超えたものであったことを公表したからである。

不適切な取引による影響は、不正に受給した補助金の変換のみにとどまらず、会社法違反へとその影響が拡大している。

 

4 補助金等の返還

7月29日、サイオスは「補助金等の返還額確定に関するお知らせ」というリリースを出し、SIIIS(現社名は株式会社関心空間)がA社を経由して、NEPCに対して交付を受けた補助金全額と規程による加算金(年10.95%)を加えて、合わせて131,597,622円を返還したことを公表した。

 

5 補助金適正化法による刑事処分

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律〈補助金適正化法〉には、以下のような罰則規定が置かれている。

第29条 偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、5年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2 前項の場合において、情を知って交付又は融通をした者も、また同項と同様とする。

サイオスにおいては、前述のとおり、交付された補助金の全額に加え、規程に基づく加算金を合わせて返還しているため、本規定が適用されるのか否かは現時点では不明であるが、安易な不正行為が、会社に経済的な損害を与えるのみならず、会社法違反に加え、刑事罰の可能性もあるということで、不正は割に合わない行為であることをあらためて印象づけられた事件でもあった。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第40回 ※クリックするとご覧いただけます。

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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