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[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第55回】株式会社メディビックグループ「第三者委員会調査報告書(平成28年8月15日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第55回】

株式会社メディビックグループ

「第三者委員会調査報告書(平成28年8月15日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【第三者委員会の概要】

〔適時開示〕

〔第三者委員会〕

【委員長】

弁護士 高野 哲也

【委 員】

公認会計士 能勢 元
公認会計士 後藤 幸男

〔調査期間〕

2016(平成28)年7月6日から8月12日まで

〔調査の目的〕

① 内部調査で判明した3件に関する事実関係及び問題点の調査

② ①以外に不適切な会計処理があるかの調査

③ 根本的な原因に即した実効性の高い再発防止策の策定

〔適時開示(調査結果)〕

 

【株式会社メディビックグループの概要】

株式会社メディビックグループ(以下「MDG社」と略称する)は、2000(平成12)年設立。遺伝子事業、再生医療事業を行う連結子会社(孫会社を含む)4社の持株会社。資本金約29億6,000万円。連結売上高104百万円、連結経常損失502百万円。従業員数17名(数字はいずれも訂正前の平成27年12月期)。本店所在地は東京都港区。東京証券取引所マザーズ上場。

 

【調査委員会報告書の概要】

1 発覚の経緯

MDG社は、平成28年5月11日、「外部からの指摘」により、子会社である株式会社アニマルステムセル(以下「ASC社」と略称する)の平成26年12月期における自動培養装置開発権の売上計上につき疑義が生じたことから、社外役員3名による内部調査が進められた。「外部からの指摘」については、調査報告書に具体的な記述は存在しない。

内部調査報告書において、「第三者委員会を設置して引き続き調査を行うことが適当である」との判断が示されたことを受けて、第三者委員会による調査が行われたものである。

 

2 調査結果の概要

(1) 不適正と判断された2件の売上計上

第三者委員会は、平成26年12月期におけるASC社の「自動培養装置開発権の売買契約」2億円(消費税等を含まない。以下同じ)及び平成27年12月期におけるASC社による「培養上清液の売上計上」1,500万円をいずれも、適正ではない、と結論づけた。

この理由を簡単にまとめると、については、契約の相手方であるX社取締役会において、契約締結が否決されている以上、「X社が開発権を譲り受ける意思が存在しなかったことは明らかである」としており、一方、については、売上先とされるMクリニックが、販売当時すでに閉院したこと、翌月になって、代金が支払えない旨の連絡があったことなどから、返品があったとして「売上を取り消すことが妥当である」としている。

(2) 売上計上を維持するための画策その1――自動培養装置開発権

MDG社は、X社取締役会において開発権譲受の件が否決されてからも、売上取消しを回避するため、Y社と交渉、X社の地位を承継するための地位譲渡契約書をASC社、X社及びY社の3社で締結し、2月10日、Y社から2億円の支払いを受けた。

ただ、支払いにあたって、Y社は、追加覚書の締結を求める。そこでは、「6か月以内に開発の進捗が見られない」場合には、Y社により買戻しの請求ができ、ASC社による買取義務について、MDG社及び同社取締役3名が連帯して保証することが求められていた。MDG社は、この連帯保証について、取締役会の決議を得ることなく、また、会計監査人に対しても、地位譲渡契約の存在は説明したものの、覚書については開示しなかった。

その後、装置の開発は進まず、Y社は平成27年6月ころ、開発権の買取請求を行うことになる。これを受けた、ASC社、Y社及びZ社間の地位譲渡契約にあたっても、Z社のY社に対する2億円の支払義務について、MDG社、同社取締役4名が連帯して保証することを定めた覚書の締結が求められ、ここでも、MDG社は、取締役会の承認なしに、覚書の締結を行っている。

地位を譲受されたZ社であったが、支払期日である9月30日までに2億円をY社に支払うことはできなかった。そのため、平成28年3月14日、Y社から、MDG社及び同社取締役4名に対して、それぞれ2億円の支払を求める催告書が内容証明郵便により送付された。5月11日になって、外部からの指摘により、この催告書の存在が、代表取締役から常勤監査役に報告されたことから、社外役員による内部調査が開始された。

(3) 売上計上を維持するための画策その2――培養上清液

Mクリニック事務局長との間で、培養上清液の商談が進んでいたことは事実であったようだが、MDG社においては、連結年間売上高1億円を達成して上場廃止基準を回避するためには、何としても1,500万円の売上計上を行う必要があった。そのため、当初の商談規模である500万円程度から、規模を拡大したものであるが、平成27年12月において、Mクリニックからの発注書の送付、培養上清液の納品と受領書の交付などは、通常どおり行われ、ASC社は支払期日を平成28年1月31日までとする請求書を発行した。

ところが、平成28年1月中旬、Mクリニック事務局長から、支払いが難しいとの話があり、MDG社は転売先を探すことを決定する。Mクリニックとの契約を解除して、新たな販売先を探すと連結年間売上高が1億円を下回り、上場廃止基準に抵触するため、Mクリニックからの転売という形式をとる。しかし、転売先は、MDG社の取締役の1人が代表を務めるQ社であり、販売代金は、Q社がMクリニック名義でASC社の口座に振り込む方法により支払われた。

 

3 発生原因の究明報告書p.29以下)

第三者委員会が発生原因として挙げたのは、次の3つであった。

(1) 経営トップとその他業務執行取締役等のコンプライアンス意識の欠如

(2) 他の役員による監視・監督機能が不十分であったこと

(3) 売上獲得に向けられた外部環境

 

「他の役員による監視・監督機能」については、問題となった2件の売上取引が各期末の取締役会において慎重かつ十分な検討が行われなかっただけでなく、その後の入金状況の確認といった取引経過の検証も行われていないことから、監視・監督機能が十分に発揮されていなかったと結論づけている。

また、「売上獲得に向けられた外部環境」については、MDG社グループの事業は、再生医療等に関する研究・開発が中心で、「研究が実用化され、売上に結びつくまでには一定の時間を要する」一方、「上場廃止基準に該当しないよう連結売上高を維持」したうえで、「市場による資金調達を実現するために業績の維持・向上に対するインセンティブが働きやすい」と分析している。

 

4 再発防止策の提言報告書p.36以下)

第三者委員会による再発防止策は、次の5つである。

(1) 役職員に対するコンプライアンス意識の徹底

(2) ガバナンス体制の再構築

(3) その他の体制・規定の整備

(4) 内部監査室による監査や内部通報制度の活性化

(5) 社内処分・責任追及

 

第三者委員会は、MDG社では、内部監査室長が平成28年4月に退職した後、後任が不在であったり、社外の弁護士に通報できる内部通報システムが構築されていながら、通報が1件もなかったりと、自浄作用が十分に機能していなかった点を改める必要があると指摘している。しかし、本件は、代表取締役以下の不正行為であるため、むしろ、社外取締役・社外監査役による監視・監督機能をさらに発現させるためにどうすればいいかについての提言があった方がよかったのではないかと思われるが、そうした点については、「ガバナンス体制の再構築」の中で、指名委員会等設置会社への移行について「検討に値する」と記述しているに過ぎない。

 

【調査報告書の特徴】

連結売上高が1億円に満たない可能性が強くなった上場企業が、上場を維持するために無理な売上計上を行い、売掛金が回収できないことを隠蔽するために取締役が経営する別会社から入金をさせる。過去、何度となく同じような会計不正が行われてきたおり、経営陣にそうした知見がまったくなかったとも思えないのだが、本件も、「無理な売上計上」⇒「会計監査人に対する隠蔽行為」⇒『不正の発覚』⇒「行政処分(上場廃止・課徴金の納付命令)」という過去のパターンを踏襲している。

本件の特徴としては、会計監査人の強い意思が、不正の解明と不正を犯した企業に対して市場からの撤退へと導いたものであるといえよう。

 

1 内部調査と並行して行われた特別損失の計上と会計監査人の異動

平成28年5月16日、MDG社は、「特別損失の計上及び平成28年12月期第2四半期並びに通期(連結)の業績予想の修正に関するお知らせ」というリリースを公表し、本件で問題になっているASC社が締結した「自動培養装置開発権の地位譲渡契約」において、MDG社が連帯保証をしているため、当該債務保証に対し引当金を設定、債務保証損失引当金繰入額216百万円を特別損失として計上することを公表した。

この時点では、あくまで、ASC社における売上計上は適正であり、あくまで、「債務発生の可能性をあらためて検討した結果」の引当金計上であることが説明されている。

ところが、6月3日になって、「会計監査人の異動に関するお知らせ」がリリースされ、会計監査人であるアスカ監査法人が、「重要な証憑書類等の一部が意図的に提出されていないこと」、「得意先に関する重要な情報等が提供されないこと」等が、「委嘱者の役職員が受嘱者の業務遂行に誠実に対応しない場合等に該当」するとともに、「受嘱者の委嘱者に対する信頼関係が著しく損なわれた場合」に該当することから、監査及び四半期レビュー契約を解除する旨の通知を受領したため、監査契約を解除することとなったことが公表された。

もともと、MDG社の有価証券報告書には、「継続企業の前提に関する注記」が附されており、「営業損失、経常損失、当期純損失及び営業活動によるキャッシュ・フローにおきまして前連結会計年度まで5期間以上継続してマイナスを計上」していることが明示されており、このことは、監査報告書でも「強調事項」として記載されていた。

こうした状況のもと、社外役員による内部調査が進行中の段階で、会計監査人が監査契約を解除したという事実が、約3ヶ月後の上場廃止につながったのかもしれない。

 

2 取締役の辞任

MDG社がY社との間で締結した2件の追加覚書において連帯保証を行った4名の取締役のうち、喜多見氏は平成28年3月開催の定時株主総会において任期満了により退任しており、疋田氏と川畑氏は、上記の特別損失計上後、5月31日に、「取締役の辞任及び減俸処分の実施に関するお知らせ」というリリースにおいて、「取締役から会計監査人への自動培養装置開発権地位譲渡契約にかかる連帯保証についての報告が漏れていた」ことに関与していたことから辞任の申し入れがあり、これを受理したことと、関与したもう1人の取締役である代表取締役社長の窪島氏については、減俸処分を決定したことが公表された。

 

3 監査意見の不表明と再度の会計監査人の異動

その後、MDG社は、一時会計監査人としてフロンティア監査法人を選任し、過年度の有価証券報告書等の訂正作業を進めるが、訂正された有価証券報告書に記載された監査報告書には、「意見を表明しない旨」が明記されていた

フロンティア監査法人による意見不表明の根拠を引用する。

継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、営業損失、経常損失、当期純損失及び営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスを前連結会計年度まで5期間以上継続して計上しており、当連結会計年度においても営業損失、経常損失、当期純損失を計上しており、この結果、債務超過となっている。また、営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスを計上するに至っており、充分な営業活動資金の確保が確実ではない状況にあり、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している。当該状況に対する対応策は当該注記に記載されているが、現時点において事業の遂行に必要な資金調達の目途が立っておらず、具体的な計画は提示されなかった。

したがって、当監査法人は、経営者が進めている対応策についての監査証拠等、継続企業を前提として連結財務諸表を作成することに関する十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。

その後、平成29年1月25日、MDG社は、「会計監査人の異動に関するお知らせ」を公表し、フロンティア監査法人が1月13日付で契約の解除を通知したことを公表した。契約解除の理由は、「長期監査報酬未払い」であることが記載されている。

MDG社が監査報酬を支払わない理由については何ら記載がないため、上記の「意見不表明」との関係、上場廃止の影響、資金繰りなど、原因はいろいろ考えられるが、おそらくは資金繰りの問題が一番大きいのではないだろうか。MDG社に対しては、証券取引等監視委員会も、平成28年9月30日付で、有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告を発出しているが、開示されている四半期報告書を見る限り、1億1,333万円もの多額の課徴金を納付する資力はないようである。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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