公開日: 2021/03/11 (掲載号:No.410)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第111回】大分県農業協同組合(JAおおいた)「不祥事第三者委員会調査報告書(2020年12月24日付)」

筆者: 米澤 勝

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第111回】

大分県農業協同組合(JAおおいた)

「不祥事第三者委員会調査報告書(2020年12月24日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【JAおおいた不祥事第三者委員会の概要】

〔情報開示〕

〔不祥事第三者委員会〕

【委員長】

中島 肇(弁護士)

【副委員長】

宮野 勉(弁護士)

【委 員】

甲斐 淑浩(弁護士)

田中 保之(弁護士)

【調査補助者】

下地 謙史(弁護士)

〔調査期間〕

2020(令和2)年9月28日から12月23日まで

〔調査目的〕

(1) 本件不正貸付とその隠蔽の実態解明

(2) 本件不正貸付とその隠蔽の発生原因及び問題点の調査分析

(3) 内部管理態勢、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点の調査分析

(4) 本件不正貸付とその隠蔽に関して責任を負うべき役職員の範囲、責任の所在の解明

(5) 類似事案調査の適切性の評価

(6) 上記(1)から(3)を踏まえた再発防止策の提言

〔調査結果〕

 

【大分県農業協同組合(以下「JAおおいた」と略称する)の組織概要

(※) 令和2年3月31日現在(事業量のうち購買品、販売品は令和元年度中の取扱高)

◎JAおおいたにおける過去の不祥事

  • 平成21年6月
    職員が支店の金庫室から現金(2,400万円)を持ち出し横領し、また、無断で届出書類を作成するなどして複数の顧客の定期貯金を無断解約し横領していたことが本店の監査により判明した。また、同年、4地域本部(当時)の支店、給油所において、売上金(商品取引、給油取引)の横領、顧客の貯金からの横領があったことが判明した。
  • 平成29年5月
    職員が生産者拠出金(被害金額約100万円)を横領し、事業部が隠蔽を図ったこと、また、同年6月には職員が受託販売品の残渣(ざんさ)(被害金額なし)を横領していたことが、それぞれ判明した。
  • 令和元年7月
    職員が顧客から定期貯金として預かった現金を横領するとともに不正に共済契約を締結していたこと、職員が顧客から共済掛金として預かった現金を横領していたことが判明した。前者は、被害総額約2,000万円で、支店長が面談により事実を認識したが発覚まで報告がされず、後者は前者の類似案件調査をする中で発覚した。
  • 令和2年3月
    北部事業部において、令和2年3月、職員が倉庫から160トンを超える玄米(被害総額約3,300万円)を盗んでいたことが判明した。
  • 令和2年7月【本件調査の経緯となった不祥事】
    東部事業部国東支店において、共済コンプライアンス点検が行われたところ、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明した。調査の結果、担当職員であったA氏が、無断で貸付申込書等を作成し、虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得したことが判明した。
  • 令和2年9月
    東部事業部武蔵支店において、平成28年、A氏が、金庫から現金10万円を無断で持ち出していたことが、代表監事への内部通報を端緒として、東部事業部の当時の関係者への事実確認により、発覚した。
  • 令和2年(時期不明)
    第三者委員会の調査により、東部事業部担当常務理事であるM氏が使用していたPCに保存されたデータから削除済みのメモが復元・発見された。このメモは、平成27年4月に、職員であるd氏による、武蔵配送センターで行われた展示会(物販促進会)における販売代金81万円余の着服及び同氏による武蔵給油所におけるA重油販売代金の着服が発覚したにもかかわらず、東部事業部から本店にこれを報告せず、d氏を依願退職させ、退職金等で被害を弁償させた経緯を詳細に記載したものであった。

 

【調査報告書の概要】

1 不正貸付発覚の経緯(調査報告書1ページ

JAおおいた東部事業部国東支店において、令和2年7月22日、共済コンプライアンス点検が行われたところ、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明し、内部調査の結果、担当職員であったA氏が、無断で貸付申込書等を作成し、虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得したことが判明した(以下「本件不正貸付」という)。

本件不正貸付は、JAおおいたの不祥事対応要領の「不祥事」に該当し、本来であれば、不祥事の発生部署の所属長が直ちに不祥事の概要をコンプライアンス統括責任者である本店リスク管理部長に報告する必要があったにもかかわらず、同事業部の担当部署の所属長、その上司であった総務部長、同事業部担当の常務理事らは、本店リスク管理部長に報告せず、本件不正貸付を隠蔽した(以下「本件不正貸付の隠蔽」という)。この本件不正貸付の隠蔽は、令和2年8月26日、本店コンプライアンス統括課への内部通報を端緒として、東部事業部の事実確認により発覚したものである。

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第111回】

大分県農業協同組合(JAおおいた)

「不祥事第三者委員会調査報告書(2020年12月24日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【JAおおいた不祥事第三者委員会の概要】

〔情報開示〕

〔不祥事第三者委員会〕

【委員長】

中島 肇(弁護士)

【副委員長】

宮野 勉(弁護士)

【委 員】

甲斐 淑浩(弁護士)

田中 保之(弁護士)

【調査補助者】

下地 謙史(弁護士)

〔調査期間〕

2020(令和2)年9月28日から12月23日まで

〔調査目的〕

(1) 本件不正貸付とその隠蔽の実態解明

(2) 本件不正貸付とその隠蔽の発生原因及び問題点の調査分析

(3) 内部管理態勢、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点の調査分析

(4) 本件不正貸付とその隠蔽に関して責任を負うべき役職員の範囲、責任の所在の解明

(5) 類似事案調査の適切性の評価

(6) 上記(1)から(3)を踏まえた再発防止策の提言

〔調査結果〕

 

【大分県農業協同組合(以下「JAおおいた」と略称する)の組織概要

(※) 令和2年3月31日現在(事業量のうち購買品、販売品は令和元年度中の取扱高)

◎JAおおいたにおける過去の不祥事

  • 平成21年6月
    職員が支店の金庫室から現金(2,400万円)を持ち出し横領し、また、無断で届出書類を作成するなどして複数の顧客の定期貯金を無断解約し横領していたことが本店の監査により判明した。また、同年、4地域本部(当時)の支店、給油所において、売上金(商品取引、給油取引)の横領、顧客の貯金からの横領があったことが判明した。
  • 平成29年5月
    職員が生産者拠出金(被害金額約100万円)を横領し、事業部が隠蔽を図ったこと、また、同年6月には職員が受託販売品の残渣(ざんさ)(被害金額なし)を横領していたことが、それぞれ判明した。
  • 令和元年7月
    職員が顧客から定期貯金として預かった現金を横領するとともに不正に共済契約を締結していたこと、職員が顧客から共済掛金として預かった現金を横領していたことが判明した。前者は、被害総額約2,000万円で、支店長が面談により事実を認識したが発覚まで報告がされず、後者は前者の類似案件調査をする中で発覚した。
  • 令和2年3月
    北部事業部において、令和2年3月、職員が倉庫から160トンを超える玄米(被害総額約3,300万円)を盗んでいたことが判明した。
  • 令和2年7月【本件調査の経緯となった不祥事】
    東部事業部国東支店において、共済コンプライアンス点検が行われたところ、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明した。調査の結果、担当職員であったA氏が、無断で貸付申込書等を作成し、虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得したことが判明した。
  • 令和2年9月
    東部事業部武蔵支店において、平成28年、A氏が、金庫から現金10万円を無断で持ち出していたことが、代表監事への内部通報を端緒として、東部事業部の当時の関係者への事実確認により、発覚した。
  • 令和2年(時期不明)
    第三者委員会の調査により、東部事業部担当常務理事であるM氏が使用していたPCに保存されたデータから削除済みのメモが復元・発見された。このメモは、平成27年4月に、職員であるd氏による、武蔵配送センターで行われた展示会(物販促進会)における販売代金81万円余の着服及び同氏による武蔵給油所におけるA重油販売代金の着服が発覚したにもかかわらず、東部事業部から本店にこれを報告せず、d氏を依願退職させ、退職金等で被害を弁償させた経緯を詳細に記載したものであった。

 

【調査報告書の概要】

1 不正貸付発覚の経緯(調査報告書1ページ

JAおおいた東部事業部国東支店において、令和2年7月22日、共済コンプライアンス点検が行われたところ、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明し、内部調査の結果、担当職員であったA氏が、無断で貸付申込書等を作成し、虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得したことが判明した(以下「本件不正貸付」という)。

本件不正貸付は、JAおおいたの不祥事対応要領の「不祥事」に該当し、本来であれば、不祥事の発生部署の所属長が直ちに不祥事の概要をコンプライアンス統括責任者である本店リスク管理部長に報告する必要があったにもかかわらず、同事業部の担当部署の所属長、その上司であった総務部長、同事業部担当の常務理事らは、本店リスク管理部長に報告せず、本件不正貸付を隠蔽した(以下「本件不正貸付の隠蔽」という)。この本件不正貸付の隠蔽は、令和2年8月26日、本店コンプライアンス統括課への内部通報を端緒として、東部事業部の事実確認により発覚したものである。

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連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第140回 ※クリックするとご覧いただけます。

第141回~

筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

関連書籍

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