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〔会計不正調査報告書を読む〕【第21回】株式会社富士通ビー・エス・シー・「従業員による不正行為に関する第三者委員会調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第21回】

株式会社富士通ビー・エス・シー・

「従業員による不正行為に関する第三者委員会調査報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【概 要】

〔適時開示(不正発覚)〕

  • 2014(平成26)年7月4日
    「当社従業員による不正行為のお知らせ」
  • 同7月7日
    「第三者委員会設置のお知らせ」

〔第三者委員会〕

  • 委員長:宇澤 亜弓(公認会計士、公認不正検査士)
  • 委 員:村島 俊宏(弁護士)
  • 委 員:熊谷 真喜(弁護士)

〔調査期間〕

2014(平成26)年7月7日から2014年(平成26)年8月13日まで

〔調査依頼者〕

株式会社富士通ビー・エス・シー

〔調査委員会の目的〕

(1) 本件疑義に関する事実関係及び問題点の調査分析

(2) 本件疑義に関する取引に係る適正な会計処理の検討

(3) 再発防止策の検討及び提言

〔適時開示〕

  • 2014(平成26)年8月14日
    「第三者委員会の調査結果等について」
    「過年度に係る有価証券報告書の訂正報告書の提出及び過年度決算短信等(訂正版)の公表について」

 

【株式会社富士通ビー・エス・シーの概要】

株式会社富士通ビー・エス・シー(以下「BSC」という)は、1963(昭和38)年創業。創業時の社名は、日産リース株式会社。その後、日産コンピュータ株式会社への社名変更を経て、1975(昭和50)年から富士通株式会社(以下「富士通」という)の子会社となる。現在の富士通による持株比率は56.44%。各種システム用ソフトウエア開発を主たる事業とする。連結売上高31,547百万円、連結経常利益1,375百万円。従業員数2,119名(数字はいずれも平成26年3月期)。本店所在地、東京都港区。JASDAQ上場。

 

【報告書のポイント】

1 調査に至った経緯

(1) 経理部による決算資料作成

4月28日、経理部は、平成26年3月期決算の説明準備段階において、甲社に対する売掛金残高が1年前の約5億円から、約8億円に増加していることを把握し、担当の管理部門に対する問い合わせの結果、甲社に対する売掛金の大部分が未請求売掛金(工事進行基準の適用により売上計上されたが、未検収であるため未だ取引先に対して請求をしていないものをいう。以下同じ)であり、中には、平成21年11月1日に作業を開始したオーダに係るもの(4年以上滞留)も存在することが判明した。

(2) 代表取締役社長による回収促進の指示

5月19日、経営会議において、経理部長から月次決算の説明があり、甲社に対する未請求売掛金が8憶4,400万円存在することが報告され、小島代表取締役社長は、これを受け、甲社を担当する本部の本部長である小林取締役(当時。現在は常勤監査役。以下「小林元本部長」という)に対して、当該売掛金の回収促進を指示した。

その後、5月26日の経営会議でも同様の指示を受けた小林元本部長は、不正行為の実行者であった甲社担当のA部長、B本部長代理から事情聴取を行い、副本部長らを通じて、甲社担当者との面談実施など、売掛金回収を図るが、不正行為の実行者であるA部長は、甲社担当者との接触を阻害するなどして、回収交渉は捗らなかった。

(3) 不正行為実行者による自白

甲社に対する未請求売掛金の回収交渉が進まない中、A部長は、本件不正のもう一人の実行者であるB本部長代理が責任逃れの供述を行っていることを知り、不正行為の責任を自分一人がとらされることとなるとおそれ、6月20日になって、未請求売掛金が架空のものであることを自白した。

その後、A部長の作成した資料をもとにさらなる調査を進め、B本部長代理が担当する乙社等との取引に係る未契約仕掛品残高についても調査の必要があることが判明し。石川取締役ビジネスサポート本部長(当時)らが、6月30日、B本部長代理に対し、事情聴取を行ったところ、乙社等に対する未契約仕掛品残高は、証憑書類の偽造により計上されたものであることを認めた。

 

2  調査報告書により判明した事実

(1) 不正の発端となった損失処理と原価の付替え

調査報告書によると、不正の発端は、平成14年から15年にかけて、A部長が担当した甲社関係の取引において発生した損失を、一部をB本部長代理が他の取引に係る損失として処理し、残りを他の甲社取引の原価として振り向ける方法により、解消したことにあった。その後、A部長は、平成19年12月頃から、甲社との取引において正式受注が見込めるオーダについて、注文書を偽造することを繰り返すようになった。

一方、B本部長代理は、平成17年から18年にかけて、乙社等との取引において、各オーダの原価率が85%を超えないように見せかけるため、架空の内示オーダ(仮受注)を発行して、正式オーダで発生した原価の一部を付け替えるようになり、その結果、未契約仕掛品(取引先より作業依頼の内示を受けて作業を行ったことにより発生した原価のうち、未だ契約の締結には至っていないものをいう)残高が約260百万円に達していた(平成25年3月期)。

(2) 不正の手口

A部長が行った不正の手口は、甲社が発行すべき注文書を偽造して、正式受注オーダに基づき工事進行基準により売上を計上するというものであった。当初は、正式受注が見込めるオーダについて正式注文書が出る前に偽造していたものであり、その後、甲社から正式に受注して売上が計上できれば問題のないものであったが、平成20年頃からは、甲社関係取引の各オーダの原価率が85%を超えないように見せかけるため、架空のオーダを使って、原価の付替えを繰り返すようになっていた。

また、A部長は、B本部長代理からの依頼に応じて、乙社等との取引で発生した未契約仕掛品(原価)を、甲社関係の取引オーダに付け替えることとなったため、甲社関係取引に係る架空の売上計上がさらに多額なものとなっていった。

【オーダ発行から売上計上までの流れ】

B本部長代理による原価の先送り 内示オーダ発行(架空の仮受注) 他のオーダから原価を付替え 未契約仕掛品残高の増加 経理部による監視対象 A部長による架空売上の計上 受注オーダ発行(架空の受注) 他のオーダから原価を付替え 工事進行基準による売上の計上 未請求売掛金残高の増加 債権管理の対象外 仕掛品を振向

(3) ビジネスサポート本部における不十分な連携

BSCビジネスサポート本部には、経理部、業務部、監査部及び業務プロセス改革推進部が置かれ、それぞれの立場から、本件不正の端緒に触れる機会があったものと考えられるが、部門間の連携に欠け、早期に発見することはできなかった。

経理部は、乙社等との取引における未契約仕掛品残高については、以前から注視し、取締役会にも報告していた。しかし、未請求売掛金については、

 契約済みであるため、実在性に問題がないこと

 未検収であることから請求する債権ではないこと

等の観点から、その残高の推移及び年齢調べ等の管理を行っていなかった。

なお、経理部のこうした姿勢は、会計監査人にも共通のものであり、未請求売掛金が長期間にわたり計上され、年々その残高が増加していた事実を把握していなかった。

監査部は、内部監査を通じて、未請求売掛金残高の存在や原価の付替えなどの事実を把握しており、指摘事項を継続監視していれば、早期の発見につながった可能性が高いが、フォローアップが行われておらず、また、他部署との情報共有が図られていなかったことから、不正の発見には至らなかった。

(4) 守られていなかった与信管理規定

調査報告書によれば、甲社に対する売掛金残高(未検収売掛金を含む)は、平成22年3月期の約1億5,000万円から、一貫して増加しており、平成25年3月期には5億3,000万円、平成26年3月期には8億3,000万円を超えていたが、同社に対する与信限度額は1億円であり、限度額超過が常態となっていたものの、問題とはならなかった。

これは、BSCでは、未検収売掛金は確定債権ではないことから、与信限度額管理の対象外となっていたことが理由であるが、本来であれば「営業債権に準じて与信管理の対象とすべき(調査報告書より)」であり、与信限度額の増額申請などの社内手続によっては、甲社取引における売上計上の適正性について、社内関連部署間の情報共有により、本件不正をより早期に発覚できた可能性があった。

(5) 従業員の不正行為が業績に与えた影響

報告書及び訂正された有価証券報告書から、従業員の不正行為の訂正によって、売上高が858百万円、営業利益が1,098百万円、純資産額が738百万円減少した。

年度ごとの影響額は以下のとおりである(単位:百万円)。

 

3  ホットラインへの情報提供とアンケート調査

本件調査の特徴の1つに、ホットラインによる情報提供及び全役職員に対するアンケート調査についての、次のような記述がある。

ホットラインによる情報提供及びアンケート調査の回答に関して、BSCの協力を得て、自主申告者に対しては、原則として懲戒処分等の減免等を行うことを明示することによって、自主申告を促すとともに、提供情報の信頼性を担保した。

いわば、一種のリーニエンシー制度の導入である。数は決して多くないが、せっかく調査委員会を設置して不正調査を行ったにもかかわらず、最初の調査では発覚しなかった不正が後日判明するという事例が見られることを考えれば、こうした制度によって自主申告を促すことは、不正の根絶に向けた対策としては効果があると言えよう。

実際、本件調査でも、ホットラインへの情報提供者が32名、アンケート調査では、不適切な原価付替えを行った者が回答者の15.6%に当たる297名もいたことなど、確実に効果が出ているのではないかと考えられる。

 

4  問題点及び再発防止策

第三者委員会による問題点の指摘とこれに見合った再発防止策の提言は、項目数にして12と非常に多岐にわたっている。また、再発防止策が、BSCの組織、事業内容などに合わせた格好で、かなり具体的に提示されているのも、本報告書の特徴であるといえよう。

1 全般的事項

(1) コンプライアンス意識の徹底

(2) 内部通報制度の形骸化

(3) 人事ローテーションの固定化

(4) ビジネスサポート本部における不十分な連携

2 業務実態の適切な把握

(1) 不十分な商流管理

(2) 経営管理指標の軽視

(3) 勤怠管理

3 業務実態の適切な管理

(1) 売掛金の滞留管理について

(2) 与信管理について

4 外部を利用した牽制機能

(1) 注文請書の得意先への送付

(2) 未請求売掛金および未契約仕掛品に係る外部への確認について

5 その他

不正の予防及び早期発見と懐疑心

BSCが第三者委員会報告公表時のリリースには、「対応方針」の最後に、次のような文章があり、再発防止策を真摯に受け止めている様子がうかがわれる。同社に止まらず、すべての企業の管理部門担当者にとっての課題であるともいえるかと考え、以下に引用したい。

今回、不正行為の端緒を把握しながらも発覚が遅れたのは、当該不正の端緒を把握していた担当者の意識の問題もあるかと考えます。単なるヒヤリングに留まらず、懐疑心を持ってヒヤリングの内容を裏付ける具体的な根拠資料を取得していればもっと早期に発見できた可能性もあります。今後、管理部門を中心に、担当業務の遂行と合わせて不正の可能性を視野に入れ懐疑心を持って事実の解明に当たっていけるよう、不正予防・早期発見に係る研修等を充実してまいります。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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