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〔会計不正調査報告書を読む〕【第14回】株式会社雑貨屋ブルドッグ・「棚卸資産に係る不適切な会計処理に関する第三者委員会調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第14回】

株式会社雑貨屋ブルドッグ・

「棚卸資産に係る不適切な会計処理に関する

第三者委員会調査報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】

 

【株式会社雑貨屋ブルドッグの概要】

株式会社雑貨屋ブルドッグ(以下「雑貨屋ブルドッグ」という)は、1976年10月設立。ファッション雑貨の小売店舗を全国チェーン展開する。売上高112億円、従業員数288名(2012年8月期)。本店所在地は静岡県浜松市。JASDAQ上場。

 

【報告書のポイント】

1 調査結果により判明した事実

(1) 不適切な会計処理が発覚した経緯

会計監査人である監査法人トーマツは、管理本部財務課課長より、平成25年8月期第3四半期決算及びそれ以前において、棚卸資産に関連して不適切な会計処理が行われていたことを示唆する情報提供を受けた。

会計監査人は、直ちに、代表取締役社長に対し、事実関係の調査、法令違反などの事実があれば、是正その他適切な措置をとるよう申し入れた。その結果、棚卸資産に関して、一部、不適切な会計処理が行われていた疑義(以下「本件疑義」という)を認識したため、第三者委員会を設置することを決議した。

(2) 不適切な会計処理の概要

① 棚卸データの改ざんによる在庫の過大又は過少計上
財務課課長は、取締役管理本部長による個別具体的な指示に基づいて、システム課が集計した各店舗における実地棚卸の各店舗別・ジャンル別の集計金額について、過大又は過少となる金額を直接上書き入力することにより改ざんした。

② 店舗間の不適切な在庫の移動処理による在庫の過少計上
財務課課長は、取締役管理本部長による個別具体的な指示に基づいて、平成22年8月期末の在庫計算の過程において、実際の商品の移動を伴わないにもかかわらず、エクセルファイル上のシートの数字を操作することにより、閉鎖店舗の在庫は一律にゼロとして処理する方針に従い、在庫の過少計上を行った。

③ 在庫の計上額算定過程におけるロス率の改ざん
平成22年8月期末の決算に係る実地棚卸に基づく在庫計上額と理論在庫に基づき算定したロス率は13.1%となり、通常2~3%のロス率より高いため、財務課担当者は、会計監査人に在庫計算に関して疑義を抱かれる可能性があると考え、取締役管理本部長の個別具体的な指示に基づき、基準日における理論在庫の金額を改ざんすることにより、ロス率を3.1%に調整した。

④ 売変データの取込漏れ(月次在庫計算過程)
売価の変更(売変)が行われた商品については、売変による在庫計上額の減算を行うところ、期間限定なしに売価を変更する「売切売変」について、月次の在庫計算に含めないよう取締役管理本部長から財務課担当者に個別具体的な指示があり、月次の理論在庫が過大に計上されていた。

⑤ 売変データの取込漏れ(期末在庫計算過程)
平成25年8月期の決算監査において、会計監査人が実地棚卸手続の立会いを行ったところ、実地棚卸用ハンディターミナルに表示される売価と店舗における売価との間に差異があるものが検出された(期末在庫は過大計上となる)。
システム課による検証の結果、商品単価に売変データを取り込むクエリが作動しないようになっていたことが判明、実行行為者は不明であるが、上記のとおり、月次決算においても売変データを意図的に反映していないことに鑑みれば、意図的なものであった可能性は否定できない。

⑥ 未実現利益の不適切な算定による在庫の過大計上
連結決算手続において、期末棚卸資産のうち100%子会社からの仕入れ分について未実現利益の額を消去すべきところ、これを過少に消去することにより、棚卸資産を過大に計上したものである。

(3) 不適切な会計処理が発覚しなかった原因

雑貨屋ブルドッグにおける期末在庫の計算プロセスは、実地棚卸結果の報告までは複数の部署・人員が関与し、コンピュータシステムによる自動化も進んでいたため、不正が介在しにくい状況であった。

しかし、実地棚卸結果が管理本部財務課に報告された後は、2名程度の人員により、手作業入力を伴う膨大な計算プロセスを必要とする業務が行われていた。

そして、旧経営陣による指示のもと確定した棚卸資産金額については、実地棚卸を行った店舗や人員と共有されることはなく、作業過程や計算結果が確認されることもなかったため、他部署からの牽制は効かず、いわばブラックボックス化していた。

(4) 不適切な会計処理による影響額について

棚卸資産の過大計上額は、直近の2年で大きく膨らんでいる。下表については、正の金額は過大計上を、負の金額(▲表記)は過少計上を表している(単位:千円)。

 

2 調査報告書の特徴

(1) 小売業における期末在庫をめぐる粉飾決算

本連載第7回でも取り上げたように、小売業者が粉飾決算を行う手口としては、期末在庫の棚卸残高を過大に計上することによって当期の売上原価を過少に、利益を過大にするという手口が一般的である。その際には、実際の在庫数量の水増しよりは、売価還元率の算定にあたり売価を高めに設定する手法が用いられることが多い(本連載第7回参照)。

こうした粉飾を防止し、発見するためには、実地棚卸を現場任せにせず、内部監査部門や会計監査人が立ち会うことが有効である。本件でも、会計監査人が実際の店舗に足を運んで、ハンディターミナルに表示されている売価と店頭価格の相違という「不正の端緒」を発見している(上記1(2)⑤)。

(2) 旧経営陣が醸成した企業風土

報告書は、7月に退任した前代表取締役を中心とする旧経営陣について、業績不振が進む中、利益を確保することに強い執着を有し、各種の経費削減策を継続的に行うほか、平成22年8月期には不採算店舗(62店舗)の閉鎖を伴うリストラを行ったが、業績・利益の回復を実現できない状況にあったと断じ、人事権を含む圧倒的かつ強大な権力を背景に、決算日における棚卸資産確定の主要な実務作業を担当していた管理本部財務課の職員に対して、棚卸資産額の操作指示を行っていたものである、と結論づけた。

(3) 計画性のない粉飾

期末棚卸データの改ざんは、「取締役管理本部長による個別具体的な指示」に基づいて、財務課課長が行ってきたものであったが、平成23年8月期においては、棚卸データが過少に改ざんされていた。

これは、平成22年8月期において不採算店舗の廃止に伴う在庫の移動処理が適切に行われず、一律に不採算店舗の在庫はゼロとしたため、在庫の移動を受け入れた店舗では、理論在庫を実在庫が上回ってしまい粗利率が異常値を示したため、これを通常値になるよう、在庫を過少に改ざんしたものであった。

こうした手口が示すように、本件の不正にはあまり計画性は感じられず、不採算店舗の大規模な閉鎖というリストラ策をもってしても業績が向上しないことに対する旧経営陣の焦りが、安易な期末棚卸残高の調整による不正へと走らせたものと言えよう。

(4) 課長による会計監査人に対する通報

報告書から前後関係は読みとれないが、データを改ざんしていた財務課課長は、前代表取締役が7月10日に退任した後、会計監査人に対して、棚卸資産の不適切な会計処理を示唆する情報を提供したようである。会計監査人から適切な措置をとるように申入れを受けた現代表取締役が社内調査を行わせた結果、本件不正は発覚するに至った。

経営陣が関与する不正は露見しづらいこと、経営トップの交代を機に発覚する不正が少なくないこと、不正実行者がプレッシャーに耐えきれずに情報を洩らすこと、そうした不正発覚のパターンは、本件不正でも読み取れた。

(5) 当事者の責任追及・関係者の処分

本件第三者委員会も、その設置目的の中に「法的責任の追及」「関係者処分案の検討」といった文言は見られない。

7月10日退任した前代表取締役、改ざんを「個別具体的に指示した」とされる取締役管理本部長(11月22日、一身上の都合により辞任)ら旧経営陣の責任追及はどうするのか、会社の情報開示からは不明である。またそれ以外の関係者についても、「関係法令、社内規程等に基づき厳正に処分することを検討」しているとリリースしたにとどまっている。

(6) 再発防止策

雑貨屋ブルドッグは、本年4月にアクサス株式会社と資本業務提携を発表し、その後7月に同社代表取締役社長を代表取締役として迎え入れ、大幅な組織変更の実施、執行役員制度の導入など、経営改善に取り組んでいる。

そうした中、本件不正は発覚したわけであるが、11月14日リリースの再発防止策では、社外取締役の選任、監査役会の活性化など、上場会社としてはきわめて当然の施策とともに、決算関連業務を見直し、「在庫情報を共有化する仕組みを構築」して「互いに常時チェックを行う」としており、こうした地道な取組みは、経営管理本部の解体などすでに実施済みの改善策とともに、再発防止に資するものと考える。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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