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〔会計不正調査報告書を読む〕【第5回】明治機械連結子会社・不適切な会計処理「第三者調査委員会調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第5回】

明治機械連結子会社・

不適切な会計処理

「第三者調査委員会調査報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】
第三者委員会の設置に関するお知らせ, 大鶴基成, 中村信雄, 宇澤亜弓, 第三者委員会の報告書受領に関するお知らせ

 

【明治機械株式会社の概要】

明治機械株式会社(以下「明治機械」という)は、東京都に本店を置く産業機械メーカーで、創業1899(明治32)年。連結売上高8,348百万円、連結経常利益388百万円。従業員205名(数字はいずれも2012年3月期)。東証2部上場。

今回不正会計が発覚したラップマスターエスエフティ株式会社(以下「ラップ社」という)は、明治機械が2004(平成16)年に株式取得により子会社化(議決権割合85%)した半導体製造装置メーカーであるが、明治機械の2012年3月期有価証券報告書によれば、2,670百万円の債務超過と報告されている。

 

【報告書のポイント】

1 ラップ社の不適切な会計処理が発覚した経緯

明治機械は、2012年10月、金融庁証券取引等監視委員会から、ラップ社における不適切な会計処理の疑義について指摘を受けたことから、自社において不正会計の実態と責任の所在の解明及び再発防止策立案等が必要であると判断し、第三者委員会を設置した。

 

2 調査結果により判明した事実

(1) 押込・架空売上の計上
ラップ社が売上計上した装置機械のうち、2008年3月期に売上計上した6台及び翌年3月期に売上計上した11台、売上代金約15億円が長期滞留債権として資金回収がなく、調査の結果、押込販売あるいは架空販売であったことが判明した。

17台のうち、未出荷であったものが4台、保管されたままになっているものが5台、他のオーダーに転用された後事業譲渡されたものが1台(したがって、本機は2台とカウントされている)、販売又は事業譲渡されたものが6台であり、これらの販売・譲渡代金の合計は約2億4,000万円であった。

(2) 不正な原価流用
調査の過程で、ラップ社において、本来売上原価に計上すべき金額の一部を仕掛品として増額する、不正な原価流用が判明した。

原価流用とは、明治機械において、製造委託をしていた装置機械が完成した時点で、余った部材が他の仕掛中の装置機械の製造部材として転用できる場合に、製造委託先とラップ社の判断により、完成済み装置機械の原価の一部を他の仕掛中の装置機械の部材に付け替えることをいう。

この結果、明治機械の損益計算書上の「売上原価」が減少し(利益が増加)、貸借対照表上の資産である「仕掛品」の金額が増加することとなる(報告書22ページ)。

利益の水増し等のために行われた不正な原価流用が行われ始めた時期、金額は特定できていない。

 

3 原因分析と責任の所在

(1) 債務超過回避、親会社からの圧力
明治機械は、会計監査人に対し、ラップ社の減損の判断を2008年3月期に行う旨の報告書を提出しており、ラップ社の債務超過回避が最重要問題となっていた。

ラップ社幹部は、そうした親会社からのプレッシャーを受け、同期に約6億8,000万円、翌期に13億6,000万円の押込・架空売上を計上し、それだけでは足りないことから、不正な原価流用により利益を捻出したものである。

これに加え、ラップ社では、幹部から多数の従業員に対して押込・架空販売の処理を指示するメールが公然と送信されており、コンプライアンス意識も欠如していた。

(2) 明治機械社長の責任
ラップ社の元社長はじめ不正の当事者の責任が問われるのは当然であるが、明治機械社長のもとにも、ラップ社H氏から、「注文書を捏造します」「無理やり船積みもします」「時期が来るまで海外代理店の保全倉庫で保管してもらう」といった不正の具体的手口にまで言及したメールが送信されており、同社長が不正や隠蔽工作を指示した、あるいは知っていながら阻止しなかったとまでは言えないまでも、不正な会計を是正する措置をとることができた可能性が十分にあり、かつ、そうすべき立場であったことから、その責任は否定できない、と調査委員会は判断した。

(3) 明治機械監査役会
2009年12月8日、ラップ社元社長が送信したとされる内部告発メールが会計監査人宛てに届いたため、明治機械監査役会が調査に当たった。

調査の結果、「事実無根」という一部関係者の証言や出荷関係書類が形式的に整っていたことから、不正会計を否定する結論を出した。

しかし、監査役会が、広く関係者をヒアリングし、販売先に現物確認等を行っていれば、内部告発メールには事実が含まれており、不正の発見、是正につながった可能性があり、不正が早期に是正できなかったことについての責任の一端があると、調査委員会は指摘した。

(4) 会計監査人
会計監査人は、2009年3月期に多額の売掛債権(前期の押込販売)が回収されていない状況にもかかわらず、長期滞留の原因調査が十分であったと考えられるし、ラップ社が採用していた出荷基準により売上計上を研修基準に変更させるべきではなかったかとも考えられる。

また、上記の内部告発メール後の監査においても、仕掛品の現物確認にあたっては一層注意を払う必要があったし、売上原価を仕掛品に付け替えていないかについて慎重に検討するなど、十分な監査を行う必要があったと、調査委員会は指摘した。

 

4 調査報告書の特徴

報告書の冒頭「調査の限界」の中で、ラップ社の本件調査に係る事業が、2011年3月に事業譲渡されており、従業員のほとんどが転籍・退職している上、PCや証憑書類が残っていないこと、ラップ社元社長へのヒアリングが病気のためできなかったこと、明治機械幹部も、記憶が明確でないという陳述に終始することが少なくなく事案の解明は困難を極めたという記述があり、調査は、ラップ社H氏の証言と、同氏のメールの分析を中心に行われたようである。

報告書は、会計監査人宛てに届いた内部告発メールに対し、監査役会が十分な調査をしないまま事実無根であるとの結論を出しただけではなく、その報告を受けた会計監査人も、独自に調査をすることも、その後の監査において特段に注意を払うこともなく、監査を行っていた結果、不正の発見・是正が遅れたものであると指摘し、こうした不正の端緒につながる情報に接したとき、監査役、会計監査人はどうあるべきかを改めて考えさせられる内容になっている。

また、内部告発メールに止まらず、ラップ社H氏から発信された、明治機械社長へのメール、監査役への説明、会計監査人担当者に対する監査における虚偽説明を認めたかのようなメールなど、不正会計の是正につながる可能性があった事象を詳細に取り上げ、彼らの責任を理詰めで追及した記述には、説得力を感じると同時に、共感させられる点も多い。

【追記】
本調査報告書受領後の明治機械の適時開示は以下のとおり。
2月22日、同日開催の取締役会において、社長の解職を決議。これを受けて、同氏が取締役を辞任したことを発表した。
同月26日、監査法人との間で監査契約の解除を合意し、一時会計監査人を選任したこと、22日に就任した新社長を委員長とする社内調査委員会を設置したことを発表した。
委員会設置の目的は、以下のとおりである。

(1) 第三者委員会の調査結果について事実確認を行うこと

(2) 責任の所在の明確化を図ること

(3) 再発防止策を策定すること

(4) コーポレート・ガバナンス及びコンプライアンスの体制を見直すこと

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

関連書籍

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