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〔会計不正調査報告書を読む〕【第12回】イオンフィナンシャルサービス株式会社・「台湾子会社における不祥事等に関する調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第12回】

イオンフィナンシャルサービス株式会社・

「台湾子会社における不祥事等に関する調査報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】
 

【イオンフィナンシャルサービス株式会社の概要】

イオンフィナンシャルサービス株式会社(以下「AFS」と略称する)は1981年設立。旧社名イオンクレジットサービス株式会社。2013年4月、株式会社イオン銀行と経営統合のうえ、銀行持株会社へ移行し、現在の社名となる。営業収益205,972百万円、経常利益33,367百万円。従業員数9,230名(いずれも2013年3月期)。国内7社、海外23社の子会社を有する。東証1部上場。

 

【資本関係】

今般、不正が明らかになったイオンクレジットカード台湾及びイオンクレジットサービス台湾(両社を合わせて「台湾子会社」と略称する)は、AFSの100%子会社であるAFS香港の100%子会社である。

 

【報告書のポイント】

1  調査結果により判明した事実

(1)  不適正な取引発覚の経緯

当初、AFSは、「社内調査により」不適切な会計処理が判明したとリリースしていたが、調査報告書によれば、不正会計に関与してきた台湾子会社の総経理が、「自分が行っている不適正な会計処理とイオンDNA大学(注1)で学ぶことのギャップに苦しみ」、「海外責任者会議の後自らの不正行為を吐露することとなった」ということである。

この時点で、不適正な会計処理は、前任の総経理時代から7年以上にわたって続けられていた。

(注1) 正式名称は「イオンDNA伝承大学」。開校の際のリリースによれば、「創業より培われ現在まで受け継がれてきた不変の理念や価値観を次世代に伝承していくこと」を目的に、約40名を国内外のイオングループから公募して受講させることとなっている。

次世代経営人材育成機関「イオンDNA伝承大学」が9月1日(土)開校」 ※PDFファイル

 

(2)  不適正な会計処理の概要

① 割賦売掛金の過大計上
台湾子会社では、利息収入等の架空計上及び営業費用の過少計上に伴い、割賦売掛金を過大に計上しており、判明分だけで594,649千台湾ドル(注2)と不適正な会計処理金額全体の約70%がこの手口によるものであった。
(注2) 1台湾ドルは約3.35円。

② 未収入金等の過大計上
台湾子会社では、償却済債権のうち、裁判所の差押判決を得た債権の全額を未収入金に計上しているが、実際の回収率は0.8%程度にとどまっており、本来ならば、回収時に償却債権取立益として計上すべきものであった。

③ 貸倒引当金の過少計上
台湾子会社では、貸倒引当金を設定すべき延滞債権を正常債権として虚偽表示した債権残高管理表を作成して、貸倒引当金の過少計上を行っていた。

④ 繰延税金資産の過大計上
各年度の貸借対照表に計上されている繰延税金資産は、上記の不適正な会計処理によって過大に計上された利益・純資産をもとにその回収可能性が判断されたものであり、不適正に過大計上されたものである。

(3)  元董事による不法領得行為

台湾子会社の財務・経理部門のトップの地位にあった元董事は、会社の小口現金から自己の預金口座へ預け入れ、又は会社の口座から送金する形で、少なくとも2億台湾ドル(約6億7,000万円)以上の金銭を領得していた。

また、返済の実態がないにもかかわらず、自己名義のクレジットカード残高について返済があったかのように処理する形で、約1,000万台湾ドルの債務を免れていた。

なお、元董事は約1億4,763万台湾ドルを会社預金口座へ返済しており、損害額は約7,425万台湾ドル(約2億5,000万円)となっている。

(4) 業績に与えた影響

 

2  不適正な会計処理・不正が長期間発覚しなかった理由

(1)  不適正な会計処理

他の海外子会社同様、台湾子会社2社も30代半ばの日本人駐在員が若くして経営者となっており、先行成功事例に倣い、早期の黒字化、株式上場を目標にしていたが、損失計上が続き、台湾銀行管理局の規定に抵触するのみならず、親会社AFSの所有株式について減損が検討される事態となっていた。

こうした中で始められた不適正な会計処理は、トップ自らの不正であることに加えて、董事会の形骸化、監察人・内部監察部門の機能不全、内部通報制度の機能不全もあいまって、長期間、発覚することなく継続されるに至った。

(2)  存在した不正の端緒

2008年2月、当時の総経理が損害賠償請求訴訟で勝訴したことを受けて、その全額を未収収益に計上しようとして、現地の会計監査人から指摘を受けて、修正していたことが発覚した。

これを受けて、AFS懲戒委員会は、当時の総経理を減俸10%、配置転換して社長付特命部長としたが、台湾子会社において他に不正会計がないかといった調査は行われておらず、本件の発覚を遅らせる結果となった。

また、加盟店であるピアノ販売会社が、ピアノ代金に加えてレッスン代金を分割払い債権としていたため、同加盟店が2009年に倒産後、レッスン代金は払えないというクレームがあり、延滞債権が発生していた。しかし、台湾子会社では、未回収の債権について貸倒引当金を設定しておらず、こうした事実が表面化したのは2012年5月頃であった。

その後、8月には、監査部と香港統括会社により台湾子会社の監査が行われたが、通常の監査として行われたため、貸倒引当金計上が適切だったのかどうかなどの問題については、調査された形跡がない。2008年に続き、不適正な会計処理が再度発覚したにもかかわらず、会計処理の適正性は十分に調査されず、不正会計を見つけ出すことができなかった。

(3)  元董事による不法領得行為

台湾子会社においては、会社財産の不法領得を予防し、発見する内部統制が整備・運用されていなかった。

 不正会計の影響によって、小口現金、売掛金の帳簿残高は実際の残高と不一致となっていたため、不正行為が容易に発見できない。

 財務機能と経理機能が分化されていない。

 財務経理部門と債権管理部門の相互牽制が整備されていない。

 ジョブ・ローテーションが存在せず、元董事が10年以上財務経理を担当していた。

 送金先・送金元を特定する情報が会計帳票上記録されていない。

 現金実査、帳簿間の突合といった基礎的な統制が実施されていない。

また、元董事によるクレジットカード残高の不正入金処理に関しては、現地社員から総経理のもとに不正に関する通報があったにもかかわらず、通報を受けた総経理は、自己の不正会計の発覚を恐れ、何らの踏み込んだ調査も行わなかったため、発覚がさらに遅れる結果となった。

 

3  調査報告書の特徴

(1)  海外子会社に対する内部統制の難しさ

本連載でも、【第1回】から【第3回】まで続けて、海外子会社の不正調査報告書を取り上げたが、海外子会社の不正をどう防止し、早期に発見するかについての関心は、新たな不正の発覚が報じられるたびに、高まっている。

本報告書は、海外子会社の経営を任された若い日本人駐在員が、赤字体質を隠蔽するため粉飾決算を繰り返す中、現地雇用の董事が不適正な会計処理に便乗する形で会社の金銭を不法に領得した事案が、どのようにして発生し、かつ、長期間発覚しなかったのかについて、綿密に調査した報告書である。

(2) 台湾で苦戦していたイオングループ

本件で問題となった台湾子会社は1999年に設立され、その後、2003年に、イオングループの総合スーパーマーケットである「ジャスコ」が台湾に進出したことを受けて、その顧客に対する分割払いサービスやクレジットカード発行を行ってきた。しかし、肝心の店舗と店舗運営会社は、2007年12月に撤退することが決まる。

そうした状況で迎えた2007年12月期決算において、台湾子会社のうちクレジットサービス(台湾)は、決算期変更の影響で10ヶ月決算になったにもかかわらず、前年比122%の営業収益を達成して、初の黒字決算を報告した。

実際には、この期に最初の粉飾決算が行われていたわけである。

店舗の撤退が台湾子会社の業績にどのような影響があったのかは不明であるが、この報告を受けたAFS経営陣は、何も疑うことなく黒字決算を喜んだのだろうか。

(3) 銀行持株会社としてのAFSの管理体制

本報告書では、銀行持株会社としてスタートしたばかりのAFSについて、法令等遵守・子会社管理体制に関する提言に紙幅が割かれているのも特徴的である。再発防止策として掲げられた下記項目についても、(ア)から(オ)については、もっぱら、銀行持株会社として組織を再編したAFSについて、あるべき姿を提言したものといえよう。

〈再発防止策のうち、「法令等遵守・子会社管理体制」として掲げられた項目〉

(ア) AFSにおける人員の拡充

(イ)  子会社によるAFSへの報告・承認系統の明確化

(ウ)  子会社組織体制整備へのサポート強化

(エ)  子会社における内部統制システム・コンプライアンス体制構築へのサポート強化

(オ)  AFS財務経理及び海外子会社間の財務・経理に関するコミュニケーションの強化

(カ)  海外子会社責任者の在任期間制限

(キ)  監査体制の充実

(ク)  内部通報制度の拡充

(4) 関係者の処分

9月25日付のリリースでは、台湾子会社は、台湾子会社の2人の元総経理及び元董事については、台湾商業会計法違反の疑いにより、元董事についてはこれに加えて台湾刑法における業務上横領罪等の疑いにより、台湾の法務部調査局に刑事告訴したことが公表された。この3人については、刑事告訴の前日において、すでに懲戒解雇処分が行われている。

他社の不正事例では、調査報告書を公表した際に「刑事告訴を検討している」と記載されていることが多いが、本件は、日本と台湾の刑事告訴手続の相違もあるだろうが、非常に早い時点での刑事告訴である。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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