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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第48回】株式会社テクノメディカ「第三者委員会調査報告書(平成28年6月23日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第48回】

株式会社テクノメディカ

「第三者委員会調査報告書(平成28年6月23日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【第三者委員会の概要】

〔適時開示〕

〔第三者委員会〕

【委員長】

宇澤 亜弓(公認会計士・公認不正検査士)

【委 員】

石井 輝久(弁護士)

熊谷 真喜(弁護士)

〔調査期間〕

2016(平成28)年4月28日から6月22日まで

〔調査の目的〕

① TMCの監査法人より指摘を受けた売上取引に係る事実関係の調査

② 売上取引に係る会計処理の適正性・妥当性を欠くと判断した場合には、その原因究明及びTMCがとるべき会計処理の検討

③ その他第三者委員会が必要と認めた事項の調査

④ TMCにおいて問題があった場合の再発防止策の提言

〔適時開示(調査結果)〕

 

【株式会社テクノメディカの概要】

株式会社テクノメディカ(以下「TMC」と略称する)は、1987(昭和62)年設立。臨床検査用分析装置及び医療機器の研究開発、製造、販売を主たる業務としている。売上高9,519百万円、経常利益2,323百万円。従業員数189名(数字はいずれも平成27年3月期)。本店所在地は神奈川県横浜市都筑区。東京証券取引所一部上場。

 

【調査委員会報告書の概要】

1 不適切な会計処理が発覚した経緯

TMCの平成28年3月期に係る会計監査において、TMCの会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、TMCの主力製品である採血管準備装置に係る売上取引に関し、従前からの説明と異なる取引の実態の可能性を把握したため、TMCに対して当該売上取引に係る実態の説明を求めたが、これに対する回答を踏まえても、不適切な会計処理がなされている疑いが払拭できなかったため、平成28年4月23日に、TMCに対して、第三者委員会による当該売上取引の実態に関する調査の実施を求めたものである。

なお、採血管準備装置の売上高は4,535百万円で、TMCの売上高全体に占める比率は47.6%となっている(平成27年3月期実績)。

 

2 不適切な会計処理の概要

第三者委員会による調査の結果、判明した不適切な会計処理は、大別して、売上高の前倒し計上、売上高の架空計上及び売掛金の回収偽装の3種類であった。

(1) 売上高の前倒し計上

TMCでは売上計上基準として「出荷基準」を採用しているところ、採血管準備装置の売上取引の一部に関して、実際にはエンドユーザーである病院等に納品していないにもかかわらず、TMCの直接の販売先である顧客(仲介業者)の検収を受けたかのような外観を作出することにより、売上高の前倒し計上を行っていた。

また、ITソリューション部における売上計上の一部に、検収書を偽造して売上計上を行い、あるいは、顧客との合意に基づき、検収書等を取得して前倒しで売上計上していたケースが発見されている。

さらに、海外取引においても、船荷証券等を偽造して、売上の前倒し計上及び架空計上が行われていた。

(2) 売上高の架空計上

売上高の架空計上としては、上記(1)の海外取引以外にも、TMCの発行済み株式の3.12%を所有している関連当事者である株式会社オートニクス(調査報告書における表記は「A社」。以下、「A社」で統一する)との取引に関する不適切な会計処理が指摘されている。

A社との取引は、TMCにおいて破談となった取引に係る製品等をA社に販売したこととし(架空売上の計上)、一方、A社に対して研究開発などの業務委託を行うことによって債務を生じさせ、これを架空売上による売掛金を相殺する(売掛金の回収偽装)ことにより、不正な売上計上を隠蔽したものである。

 

3 不適切な会計処理に至った背景と目的

(1) 東証2部への上場と会長による経営方針

第三者委員会は、売上の前倒し計上の始期として平成19年3月期以前と認定し、これは、TMCが東京証券取引所第2部への上場準備と時期と同じくしていることから、「計画した予算の達成が強く意識されるようになった」ことを挙げている。

また、創業者である代表取締役会長の實吉繁幸氏(以下「会長」と略称する)による経営方針の一つとして、「会社が存続するためには、毎期、増収増益でなければならない」という考えがあり、会議における会長の発言により、こうした方針は全社的に共有されていたことを、多くのヒアリング対象者が供述している。

(2) 野田哲常務取締役の役割

こうした会長の経営方針を受け、不適切な会計処理指揮したのは、発覚当時、常務取締役経営管理部長兼経営企画室長の要職にあった野田哲氏(以下「野田常務」と略称する)であった。

略歴によれば、野田常務は、平成15年1月、メインバンクからTMCに入社し、TMCが株式を店頭登録から上場へ、東証一部への指定替えを果たす中、経営企画室長としてその中心的な役割を担ってきたことがうかがえる。

野田常務は、売上の前倒し計上の根拠である「検収確認書兼受領書」を制度化し、前倒し売上計上に伴い簿外となった製品等を外部倉庫に移動させたうえで、当該外部倉庫の存在を監査法人に知らせないなどの隠蔽工作を主導していた。

また、A社との売上取引の取消しという事態を回避するために、会長とともに、TMCからA社に資金を還流して回収を偽装することを考え、これを実行した。

(3) 田口薫常務取締役の役割

営業本部長でもある田口薫常務取締役(以下「田口常務」と略称する)について、第三者委員会は、売上の前倒し計上が「不適切な会計処理であったとの認識があるとまでは認められない」と評価しているが、「その地位及び職責並びに保有する情報量に鑑みれば、不適切な会計処理が行われていたことを認識するべき立場にあった」としている。

(4) 村元和夫元取締役の役割

平成24年6月まで、取締役経営管理部長の職にあった村元和夫氏(報告書の表記では「a氏」。以下「a氏」で統一する)は、取締役退任後も、TMCの経理部顧問として、会長と野田常務による不適切な会計処理に関与し、監査法人に対して虚偽の説明を行っていたことが判明している。

今回の第三者委員会によるヒアリングに対しても、野田常務とともに、監査法人に対して行ったのと同様の虚偽の説明を行った。

(5) 小山維久元取締役の役割

元取締役で輸出管理室長の小山維久氏(報告書の表記では「b氏」。以下「b氏」で統一する)は、平成10年9月の入社以来、TMCの海外取引の責任者として業務にあたり、平成21年6月からは取締役の職にあった。その後、売上高の前倒し計上及び架空計上の責任をとる形で、平成26年6月における定時株主総会で取締役候補者に選任されず、現在に至っている。

会長及び野田常務は、b氏による架空売上計上の事実を知りながら、これを隠蔽し、売上の取消しなどの会計処理の修正を一切行わなかった。

 

4 再発防止策

第三者委員会が指摘した問題点とその改善のために提言した再発防止策は4つに大別されている。

(1) 役職員のコンプライアンス意識の醸成

第三者委員会は、会長、野田常務その他不正に関与した者の「規範意識の鈍麻」を最初の問題点として指摘し、「適正な開示を行うことの責務についての認識が完全欠如していた」としたうえで、再発防止策としては、上場会社の取締役として、「証券市場に上場する会社として享受する権利と併せて果たすべき義務」を学び続ける必要がある、としている。

(2) ガバナンス体制の再構築の必要性

次いで、第三者委員会は、創業以来、会長の強いリーダーシップで経営が行われてきたTMCにおいて醸成されてきた企業風土を変革し、組織内常識に対する一定の牽制効果と歪んだ価値観の是正が期待できる社外取締役による監視が必要であるとして、「執行部門を監督できる人材を真摯に選定し、複数の適切な社外取締役を選任すること」をガバナンス体制の再構築として指摘している。

(3) 内部統制制度の再構築の必要性

また、TMCでは、採血管準備装置に係る売上のみならず、他の取引についても、収益認識の時期について、会計記録に関する証憑書類の整備がなされていなかったため、適切な会計処理が行えるような体制の整備・運用が必要である、としている。

(4) 会計制度の意義に係る希薄な意識

不適切な会計処理について、第三者委員会は、「実務上の弊害を生じさせ、企業価値を棄損することになるという意味で、百害あって一利なし」と断じたうえで、TMCの役職員について、「正しい目的を認識し、正しい業務を行うことが企業価値の向上に資する企業活動の大前提であり、また、その結果、不正の予防・早期発見が可能となる」ことから、早急な業務の見直しを行う必要性を指摘している。

 

【調査報告書の特徴】

過年度における会計監査人による監査を何とかやり過ごしてきたTMCであったが、頻出する会計不正事件の影響もあって、監査法人の監査も厳しさを増している中で、第三者委員会による調査を余儀なくされ、過去における不適切な会計処理が続々と明らかにされた事件であった。

 

1 「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」からの批判

本調査報告書の最大の特徴としては、平成28年2月14日、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(以下「プリンシプル」と略称する)の趣旨から、第三者委員会が、TMCの調査対応を厳しく批判している点にあろう。

プリンシプルは、「不祥事の根本的な原因の解明」として、以下のような行動・対処を期待している。

不祥事の原因究明に当たっては、必要十分な調査範囲を設定の上、表面的な現象や因果関係の列挙にとどまることなく、その背景等を明らかにしつつ事実認定を確実に行い、根本的な原因を解明するよう努める。

そのために、必要十分な調査が尽くされるよう、最適な調査体制を構築するとともに、社内体制についても適切な調査環境の整備に努める。その際、独立役員を含め適格な者が率先して自浄作用の発揮に努める。

ところが、第三者委員会の調査に対するTMCの対応は、以下の点で、このプリンシプルの趣旨からはほど遠いものであった。

(1) 委員会との連絡担当者に野田氏を選任したこと

(2) ヒアリング対象者の一部に虚偽の説明を行った者がいたこと

(3) データ保全を行うべき野田氏のPCがTMC側の説明と異なり2台存在したこと

TMCは、第三者委員会の連絡担当者として野田常務を選任したが、同氏は調査の過程で、調査委員会に対し虚偽の説明を行っていただけでなく、本件不正行為で中心的な役割を担っていたことが判明している。また、野田常務以外にも、ヒアリングに対して虚偽の説明を行っていた者が存在し、データ保全を行うべき野田常務のPC台数につき、事実と異なる回答がされたことなどについて、第三者委員会は、「調査に対する真摯な協力が得られたものとは認めがたく、調査は困難を極めた」と評したうえで、最後にこう締め括っている。

このようなTMCの対応は、不祥事対応プリンシプルの考え方に真っ向から反するものであり、不祥事の根本的な原因解明こそがステークホルダーからの信頼の回復及び企業価値の再生に資することに鑑みれば、極めて遺憾である。

 

2 ヒアリング対象者による虚偽の説明

報告書では、第三者委員会は、ヒアリング対象者である、会長、野田常務、a氏及びb氏による虚偽の説明を受け、これを証憑書類や他の関係者に対するヒアリングに基づき解明した事実関係により否定する記述が多くみられる。

依頼者である企業との間の独立性や調査範囲の選定などにおいて不十分さが指摘されることも少なくない第三者委員会による調査であるが、TMCが委嘱した第三者委員は、存分にその職責を果たし、調査依頼を行ったTMC経営陣にとっては大変厳しいものとなっている。

 

3 研究開発費名目での債務認識に基づく売掛金回収の偽装

A社との架空取引を隠蔽するために、研究開発費名目での債務計上が行われ、これを売掛金と相殺する不適切な会計処理が行われていたという第三者委員会の指摘については、税務上も大きな問題が生じうることを述べておきたい。

研究開発費が計上された会計期間において損金経理をされているかどうかまで、報告書には記述がないが、損金の額に算入して法人税の申告を行っているのであるとすれば、架空の費用であるから損金算入は否認され、追徴課税を受けるとともに、重加算税が賦課されることが予想される。

また、消費税の申告においても、この研究開発費に係る消費税額等は、課税仕入れに係る消費税額等であることが否認されることになるため、消費税額等についても過少申告が指摘され、事実の仮装・隠蔽であることから、こちらも重加算税の賦課が予想されるところである。

 

4 会計不正による経営陣の一掃と会計監査人の交代

調査報告書の公表から1ヶ月余り経過した8月3日になって、会長、田口常務、野田常務の3名の取締役の辞任が公表された。そこでは、「経営責任の明確化を図るため、及びコーポレートガバナンスを再構築するため」に3名の取締役が辞任に至ったこと、辞任する役員への役員退職慰労金の支給を行わない旨決議したこと、また、9月15日開催予定の定時株主総会において、新任取締役の選任を行うことが公表された。

また、同日、有限責任監査法人トーマツが、契約の満了を待たずに平成28年3月期の監査が終了次第、契約を解除すること、後任の会計監査人として監査法人シドーを定時株主総会で選任するための議案を上程することも発表されている。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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