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〔会計不正調査報告書を読む〕【第15回】株式会社リソー教育・「不適切な会計処理の疑義に関する第三者委員会調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第15回】

株式会社リソー教育・

「不適切な会計処理の疑義に関する

第三者委員会調査報告書

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】

 

【株式会社リソー教育の概要】

株式会社リソー教育(以下「リソー教育」という)は、1985年7月設立。TOMASという名称の学習塾を直営方式で経営している。売上高約218億円、従業員数539名(2013年2月期)。本店所在地は東京都豊島区。東証1部上場。

調査の結果、不適切な会計処理が判明したのは、リソー教育の連結子会社、株式会社名門会(以下「名門会」という)と株式会社伸芽会(以下「伸芽会」という)の2社であった。名門会は家庭教師派遣事業を営み、年商約51億円、伸芽会は幼児教育事業を営み、年商約30億円で、いずれも、連結売上高に占める割合が10%を超える重要な子会社である(2013年2月期)。

 

【報告書のポイント】

1  調査結果により判明した事実

(1) 不適切な会計処理に関する疑義が発覚した経緯

リソー教育は、平成25年11月下旬、証券取引等監視委員会の任意調査を受けたことから、同社及び同社の連結子会社である名門会において、不適切な会計処理が行われた疑いが明らかとなった。

(2) リソー教育における不適切な会計処理の概要

リソー教育における不適切な会計処理の手法は多岐にわたっているが、主な手法は以下の3種類である。調査報告書では、「監査法人の監査を擦り抜けるために、複数の方法を組み合わせたり、過去の方法を応用したりした」売上の不適正計上があったとされている。

① 「当日欠席」「社員授業」を仮装した売上計上
「当日欠席」とは、授業当日の欠席は、役務の提供があったものとみなされる受講契約を悪用して、授業実施コマ数に応じた売上を計上するものであり、「社員授業」とは、専任講師としての社員が授業を実施したことを仮装して、未消化のコマ数を減らすことにより、売上を計上するものである。
仮装売上に「社員授業」の手法が使われた理由は、社員以外の講師が授業を実施したことを仮装すると、その分、講師料の支払が発生するため、授業実施の偽装には社員である専任講師が利用されたものであろう。

② 「ご祝儀」を仮装した売上計上
「ご祝儀」とは、生徒が未消化授業を残しながら志望校に合格して退会した場合や、生徒が転居等によって未消化授業が残った場合に、教室の担当者が保護者から明示・黙示による「授業実施と前受金の返還はいずれも不要」との了解を得て、未消化授業相当の売上を計上するものであるが、売上が数字目標に達しないときに、実際には発生していない「ご祝儀」を仮装して、未消化コマ数を減らし、売上計上する不適切な会計処理が行われていた。

③ 映像講座契約等を利用した不適正な売上計上
契約書の日付を遡及した売上計上、仮契約書に基づく売上計上、契約書の偽造による売上計上など、「映像講座等を使った売上の不適正な計上が大規模かつ組織的に行われたことは明らかである」と報告書は指摘している。

(3) 名門会における不適切な会計処理の概要

名門会の売上計上システムは、契約内容とは無関係に、講師に支払う指導料の算定システムを利用して、その指導料に見合う金額の授業料が入金されているとの仮定に基づいて売上を計上するものであるため、サービス授業(無料)や値引き契約分についても売上が計上される欠陥システムであった。

こうしたシステムの欠陥を利用して、サービス授業の実施により売上目標(ノルマ)の達成を図るとともに、契約を額を増やし、入金額を先取りすることにより、不適正売上の発覚を免れてきた。

(4) 伸芽会における不適切な会計処理の概要

平成25年3月実施予定の春期講習会契約について、実施日を2月と入力することにより、平成25年2月期の売上として64百万円を前倒し計上した。

(5) 不適切な会計処理による影響額について

売上の不適正計上金額は、3社合計で83億8百万円に及ぶ大規模なものであり、調査委員会は、「全社的に不適切な会計処理を行った事案と言っても過言ではなく、上場企業として投資家に対する大きな背信行為であって、企業責任は極めて大きい」と断じている。また、グレーゾーンに属する売上計上の是非については、第三者委員会は、「リソー教育が上場企業であり、投資家に不確実な情報を提供すべきではない」として、会社側が提出した証拠等によって正当なものと認められる場合を除き、不適正なものと推定して処理する方針をとったとしている。

 

2  調査報告書の特徴

(1) 学習塾運営ビジネスにおける売上計上基準

入塾金と月々の授業料で運営されている学習塾であるが、その一部には、授業料の複数月一括払い、複数年一括払いによる優待と塾生の囲い込みを行っているようである。リソー教育でも数百コマの講習会を一度に契約することも稀ではなかったようで、常に入金が先に立っていることから、コマ数消化を偽装して売上を計上することが横行していた。

本来、会計上の売上高は、契約や入金とは切り離して、授業実施に対応して計上するべきであるが、授業の実施状況と乖離した売上計上が行われていても、入金が先行している、つまり通常の架空売上と異なり、売掛金が滞留しないことから、実態が判明しづらい面があったかもしれない。

(2) 売上至上主義の企業風土

創業者であり、経営者であり、32%の持株を持つ岩佐実次代表取締役会長(以下「岩佐会長」という)の売上に重きを置く経営方針と、これに直結する短期(3ヶ月ごと)の昇給、昇格、降給、降格等の人事制度は、取締役や社員が売上目標達成のためには売上の不適正計上もやむを得ないとの心情に陥らせた。また、当該経営方針のもと、売上に貢献する営業部門(教務企画局)に焦点があてられた結果、同部門による不適正売上をチェックすべき管理部門の立場が弱くなり、内部監査室(在籍者1名は人事部との兼任)も有名無実であったため、不正を防ぐことができなかった。

平成25年2月期の有価証券報告書によると、岩佐会長以外の4名の取締役はいずれも教務企画局の出身であり、ほとんどが局長を経験した後、あるいは局長兼務のまま取締役の地位にある。一方、管理部門担当役員は存在しない。

(3) 監査法人により繰り返された不適切売上の指摘

当社の外部監査は平成19年2月期までは新日本監査法人が担当し、平成20年2月期からは九段監査法人が担当して、現在に至っている。

調査報告書によると、平成17年以降、新日本監査法人から売上計上の否認や過大計上の指摘が繰り返され、「体質改善の試みは見られるものの、実際に改善されるかは不透明な状況にある」との理由で、平成19年2月期の監査終了をもって、監査契約が打ち切られた。

その後を引き継いだ九段監査法人による監査では、教室の往査等により問題を把握した場合には、経営陣に指摘して改善を求めてはいたものの、今回発覚した売上の不適正計上の実態を把握するには至らなかった。

(4) 取締役の責任の有無

岩佐会長について、調査報告書は、「売上の不適正計上に関与し、あるいは認識していたとは認め難い」ことから、「不適切な会計処理の事実を知らなかったことに落ち度があったとまで断じることはできない」としながらも、「一般投資家の信頼を裏切る結果となったことの経営責任は大きいものがある」と述べてはいるが、経営責任の在り方については、「リソー教育の今後の再建を念頭に起きつつ慎重に判断されるべき」とするにとどめた。その後、リソー教育の代表取締役社長らの辞任に伴い、岩佐会長は、代表取締役会長兼社長として、再建を主導することとなった。

調査報告書で、「売上の不適正計上を知りながら黙認」したとされた伊東社長、「自ら指示・命令したことを自認」したとされた赤尾常務取締役、「売上の不適正計上の事実を知りながら黙認・放置したことを自認」したとされた名門会の大森代表取締役社長の3名は、2月14日付で退任した。

(5) 監査役の責任の有無

監査役会の構成メンバーを見ると、常勤監査役は、当社の元専務取締役管理企画局長兼総務部長であり、非常勤監査役(社外監査役)3名のうち1名は公認会計士・税理士であり、他の2名はいずれも国税OBの税理士であった。

不適切な会計処理を防止し、あるいは早期に発見することが強く期待されるメンバー構成であるが、常勤監査役について、調査報告書は、「任務を十分果たしていたとはいえず、その責任は免れない」としたものの、他の3名の非常勤監査役については、「社外監査役としての任務を果たしていなかったとまで言えるかは疑問の残るところである」としている。

(6) 再発防止策

調査報告書は、再発防止策の提言として10項目を挙げているが、根幹となるのは「売上を過度に重視する経営方針の見直し」であろう。

その具体策として、「岩佐会長に比肩しうる見識を持った社外取締役」の受け容れや管理部門の強化、監査役会・内部監査室の充実、人事制度の見直し、外部委員会による再発防止策の進捗状況の検証などが並んでいる。

この提言を受けて、リソー教育は、2月14日付で、再発防止策を発表した。

《再発防止策》
(1) コンプライアンス重視の経営方針の再確認
(2) 組織改革によるコンプライアンス遵守体制の整備
(3) 社内制度の改革
(4) 業務についての改革
(5) 適切な会計システムの構築

また、3月4日には、上記(2)組織改革によるコンプライアンス遵守体制の整備の一環として、再発防止委員会を設置し、外部委員に1名の弁護士を迎えることを発表した。しかし、調査報告書で提言されている「外部有識者からなる第三者委員会」ではなく、委員長に岩佐会長兼社長が就き、1名の外部委員以外はすべて社内の委員であることから、実効性には疑問が残るところである。

リソー教育は、「28年連続増収」を標榜してきた。連続増収は、今回発覚した不適正な売上に基づくものであったわけであり、法的責任はともかく、経営責任をとるべきであったはずの岩佐会長兼社長の意識がどのように変わるかが、再発防止のポイントであると言えよう。

(7) 不適切な会計処理が行われていた期間中の資金調達

調査報告書では、「有価証券の偽計募集罪の成否については慎重な判断を要する」と書くにとどまっているが、不適正な売上が計上されている時期に約80億円の資金を市場から調達していたことに対する責任は、法的責任にとどまらない。 「(投資家を)だましてお金を取るようなもので、恥以外の何物でもない」――。日本取引所グループ・斉藤惇CEOは2月25日の定例会見の場で語気を強めた、とする報道もある。

また、3月7日には、証券取引等監視委員会は、「株式会社リソー教育に係る有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」というリリースを出し、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、約4億円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。

 

3  訂正された有価証券報告書の内容

(1) 訂正額が大きい勘定科目

訂正有価証券報告書に記載された連結貸借対照表を、訂正前のものと比較すると、訂正額が大きいのは以下のとおりである。なお、粉飾決算により、過年度において過大な法人税額等を納付していることから、繰延税金資産の額も大幅に増加しているが、これは割愛した。

(単位:百万円)

(2) 訂正内容から読み取れる不正の手口

前受金の大幅な増加は、本来であれば売上計上できない未消化のコマ数を売上としていた処理を正規の形に戻す過程で発生したものと考えられる。現役の塾生を対象にした売上の前倒し・架空計上が44億円余りあったということであろう。

売上返戻等引当金については、これまで独立科目表示がされておらず、かつ、「重要な引当金の計上基準」に記載もないことから、「ご祝儀」売上の発覚に伴う、退会生に対する未消化コマ数の返金に見合うものであることが推察される。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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