〔会計不正調査報告書を読む〕
【第50回】
株式会社東芝
「改善状況報告書(2016年8月18日付)」
「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」
(前編)
税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝
【報告書の概要】
〔適時開示〕
- 2016(平成28)年3月15日
「『改善計画・状況報告書』の公表について」 - 2016(平成28)年8月18日
「『改善状況報告書』の公表について」
【はじめに】
株式会社東芝(以下「東芝」と略称する)は、2015年9月15日において、東京証券取引所(以下「東証」と略称する)より特設注意市場銘柄に指定されるとともに、上場契約違約金を徴求された。このリリースでは、東芝が、第三者委員会報告書をはじめとする各種のリリースで「不適切な会計処理」と強調し、多くのマスコミもこれに追従していたところ、東証は、「不正会計」と断じ、「上場廃止に準ずる措置」である特設注意市場銘柄指定という厳しい処分を発動したものである。
この結果、東芝は、指定から1年経過後速やかに、「内部管理体制確認書」を提出することが義務づけられるとともに、東証による審査を受け、内部管理体制等に問題があると認められない場合には、特設注意市場銘柄指定が解除されることになるが、改善がなされなかったと東証が認めた場合には、上場が廃止される可能性もある。
そうした状況の中、東芝は、2016年3月15日において、「『改善計画・状況報告書』の公表について」というリリースを出した。これは、2016年9月15日以降速やかに東証への提出が義務づけられている「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を参照に情報開示を行ったものである。
そして、去る8月18日、再発防止策の進捗状況について、「改善状況報告書」を公表するに至る。リリースのなかで、東芝は、内部管理体制確認書を、「特設注意銘柄指定から1年経過後の本年9月15日に提出予定」であることを明言していたところ、実際に9月15日に提出が行われたため、東証が、確認書をどのように評価するのか、早期の指定解除が叶うのかが注目されている。
本稿では今週と来週の2週にわたり、東芝が2016年3月期決算に先だって公表した「改善計画・状況報告書」における再発防止策の内容を検証するとともに、その進捗状況を報告した「改善状況報告書」により、進捗状況を確認することを目的に、論考を進めたい。
なお、本件に関するこれまでの経緯等については、下記拙稿を参照されたい。
【参考記事】
【「改善計画・状況報告書(原因の総括と再発防止策の進捗状況)」の概要】
冒頭でも記したように、2016年3月15日に東芝が公表した「改善計画・状況報告書(以下、「改善報告書」と略称する)」は、「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル 」を参照に情報開示を行ったものである。
特に、「原因分析」に関しては、全体の半分程度のボリュームとなっており、これまでの調査報告書よりも踏み込んだ内容になっている点、注目される。
1 原因分析
「改善報告書」は全53ページに及ぶが、そのうち25ページを占めるのが「過年度決算訂正が生じた原因に関する分析」である。具体的には、以下の6項目について、原因分析が行われている。
(1) 経営環境を背景とした歴代社長による達成困難な損益改善要求
(2) 達成困難な損益改善要求の背景としてのカンパニーの業績評価・予算統制
(3) 業務執行部門における牽制機能の不全
(4) 内部監査部門等における牽制機能の不全
(5) 取締役会、指名委員会及び監査委員会における牽制機能不全
(6) 業務プロセス
特徴的な改善報告書の記述を引用しながら、東芝の原因分析を検証したい。
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