公開日: 2025/06/19 (掲載号:No.623)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第170回】いわき信用組合「第三者委員会調査報告書(公表版)(2025年5月30日付)」

筆者: 米澤 勝

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第170回】

いわき信用組合

「第三者委員会調査報告書(公表版)(2025年5月30日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【いわき信用組合第三者委員会の概要】

〔適時開示〕

〔第三者委員会の構成〕

【委員長】

新妻 弘道(弁護士、磐城総合法律事務所)

【委 員】

小川 尚史(弁護士、日比谷パーク法律事務所)

尾田 智也(公認会計士、尾田智也公認会計士事務所)

【調査補助者】

渡邉 太健史(弁護士、いわき南法律事務所)

金田 康裕(弁護士、磐城総合法律事務所)

辻 健太郎(弁護士、野村綜合法律事務所)

フォレンジック調査:AIデータ株式会社
大野 宏和、森田 善明、清 利樹、小瀬 聡幸、寳達 優

〔調査期間〕

2024年11月15日から2025年5月30日まで

〔第三者委員会の目的〕

 三事案の事実関係の調査

 類似事案の有無の調査

 発生原因の分析

 再発防止策の提言

 前各号に関する調査の結果を記載した調査報告書の作成

 その他前各号に付随する業務

〔調査結果〕

 

【いわき信用組合の概要】

いわき信用組合は、1948(昭和23)年7月31日設立。設立時の名称は江名町信用組合。

1966(昭和41)年9月、いわき信用組合に名称変更。自己資本22,976百万円、預金残高204,164百万円、貸出残高121,586百万円。組合員数は41,810名で、その出資金は15,864万円である。経常収益は3,495百万円、経常利益は230百万円。

福島県いわき市内に14店舗、福島県双葉郡楢葉町に1店舗を有している。常勤役職員数は185名。本店所在地は福島県いわき市(令和6年3月31日現在)。

会計監査人は、2019年6月まではEY新日本有限責任監査法人、同年7月以降は鈴木和郎公認会計士事務所及び公認会計士鈴木一徳会計事務所。

いわき信用組合が2024(令和6)年11月15日に公表した不祥事は、次の三事案である。

事案① 〈旧経営陣による迂回融資〉

平成20年(2008年)7月ごろ当時当組合の大口融資先であった企業の資金繰りを支援するために、当時の代表理事らが協議の上、個人名義による融資をおこない、その後も迂回融資を続けていたものです。

事案② 〈元職員による横領事件及びその隠蔽〉

平成26年(2014年)7月に所属店舗に勤務していた当時係長の元職員が横領をおこなっていたことについて、旧経営陣が隠蔽していたものです。

事案③ 〈元職員による現金の着服事件〉

平成21年(2009年)6月ごろ、所属店舗に勤務していた当時次長の元職員が金庫内にあった現金を着服した事実がありましたが、数時間後に返却されたことから当時の支店長が本部に対し一切の報告をおこないませんでした。そのため監督官庁に対しても未報告となっていたものです。

同じ三事案について、いわき信用組合第三者委員会による事実認定は次のとおりである。

甲事案

いわき信用組合が、遅くとも2004年3月頃から2011年3月頃にかけて、X1社グループに対して、本件迂回融資及び本件無断借名融資の手法を用いて極めて多額の融資金を不正に資金提供し、かつ、当該資金提供の事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案。

乙事案

元職員のY氏が、いわき信用組合α支店及びβ支店に在籍中の2010年3月頃から2014年8月頃にかけて、上記各支店の顧客名義を無断で借用して、預金担保融資、保証付融資及び個人ローン等の無断借名融資を実行し当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の総合口座貸越を利用して当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の定期預金を無断解約して解約金を着服する方法、β支店の諸勘定(個別貸倒引当金勘定)を不正操作する方法によって多額の金員を業務上横領又は詐取し、かつ、当該横領が2度にわたり発覚した後も当該事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案。

丙事案

元職員のZ氏が、いわき信用組合α支店に在籍中の2009年5月下旬から同年6月7日までの間に、同支店の金庫内に保管されていた100万円の帯封現金から1万円札20枚を抜き取る方法によって、現金20万円を業務上横領又は窃取し、かつ、当該事実が当組合本部に報告された後もその事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案。

 

【第三者委員会による調査報告書の概要】

1 第三者委員会設置の経緯

2024年9月8日頃から同月30日頃にかけて、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「X」(旧 Twitter)上に、「元信用組合職員」を名乗るアカウントから、いわき信用組合が隠蔽してきた不祥事件や不正会計(粉飾決算)について発信していく旨、並びに、三事案の存在をうかがわせる内容の投稿がなされた。同年10月2日に全国信用協同組合連合会(全信組連)仙台支店からいわき信用組合に対して上記投稿がなされている旨の情報提供がなされたため、旧代表理事らへの事実確認等の内部調査を行った結果、同月21日頃までに、三事案がいずれも概ね事実であることが判明した。

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第170回】

いわき信用組合

「第三者委員会調査報告書(公表版)(2025年5月30日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【いわき信用組合第三者委員会の概要】

〔適時開示〕

〔第三者委員会の構成〕

【委員長】

新妻 弘道(弁護士、磐城総合法律事務所)

【委 員】

小川 尚史(弁護士、日比谷パーク法律事務所)

尾田 智也(公認会計士、尾田智也公認会計士事務所)

【調査補助者】

渡邉 太健史(弁護士、いわき南法律事務所)

金田 康裕(弁護士、磐城総合法律事務所)

辻 健太郎(弁護士、野村綜合法律事務所)

フォレンジック調査:AIデータ株式会社
大野 宏和、森田 善明、清 利樹、小瀬 聡幸、寳達 優

〔調査期間〕

2024年11月15日から2025年5月30日まで

〔第三者委員会の目的〕

 三事案の事実関係の調査

 類似事案の有無の調査

 発生原因の分析

 再発防止策の提言

 前各号に関する調査の結果を記載した調査報告書の作成

 その他前各号に付随する業務

〔調査結果〕

 

【いわき信用組合の概要】

いわき信用組合は、1948(昭和23)年7月31日設立。設立時の名称は江名町信用組合。

1966(昭和41)年9月、いわき信用組合に名称変更。自己資本22,976百万円、預金残高204,164百万円、貸出残高121,586百万円。組合員数は41,810名で、その出資金は15,864万円である。経常収益は3,495百万円、経常利益は230百万円。

福島県いわき市内に14店舗、福島県双葉郡楢葉町に1店舗を有している。常勤役職員数は185名。本店所在地は福島県いわき市(令和6年3月31日現在)。

会計監査人は、2019年6月まではEY新日本有限責任監査法人、同年7月以降は鈴木和郎公認会計士事務所及び公認会計士鈴木一徳会計事務所。

いわき信用組合が2024(令和6)年11月15日に公表した不祥事は、次の三事案である。

事案① 〈旧経営陣による迂回融資〉

平成20年(2008年)7月ごろ当時当組合の大口融資先であった企業の資金繰りを支援するために、当時の代表理事らが協議の上、個人名義による融資をおこない、その後も迂回融資を続けていたものです。

事案② 〈元職員による横領事件及びその隠蔽〉

平成26年(2014年)7月に所属店舗に勤務していた当時係長の元職員が横領をおこなっていたことについて、旧経営陣が隠蔽していたものです。

事案③ 〈元職員による現金の着服事件〉

平成21年(2009年)6月ごろ、所属店舗に勤務していた当時次長の元職員が金庫内にあった現金を着服した事実がありましたが、数時間後に返却されたことから当時の支店長が本部に対し一切の報告をおこないませんでした。そのため監督官庁に対しても未報告となっていたものです。

同じ三事案について、いわき信用組合第三者委員会による事実認定は次のとおりである。

甲事案

いわき信用組合が、遅くとも2004年3月頃から2011年3月頃にかけて、X1社グループに対して、本件迂回融資及び本件無断借名融資の手法を用いて極めて多額の融資金を不正に資金提供し、かつ、当該資金提供の事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案。

乙事案

元職員のY氏が、いわき信用組合α支店及びβ支店に在籍中の2010年3月頃から2014年8月頃にかけて、上記各支店の顧客名義を無断で借用して、預金担保融資、保証付融資及び個人ローン等の無断借名融資を実行し当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の総合口座貸越を利用して当該融資金を着服する方法、上記各支店の顧客の定期預金を無断解約して解約金を着服する方法、β支店の諸勘定(個別貸倒引当金勘定)を不正操作する方法によって多額の金員を業務上横領又は詐取し、かつ、当該横領が2度にわたり発覚した後も当該事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案。

丙事案

元職員のZ氏が、いわき信用組合α支店に在籍中の2009年5月下旬から同年6月7日までの間に、同支店の金庫内に保管されていた100万円の帯封現金から1万円札20枚を抜き取る方法によって、現金20万円を業務上横領又は窃取し、かつ、当該事実が当組合本部に報告された後もその事実を2024年11月15日の公表時まで組織的に隠蔽していた事案。

 

【第三者委員会による調査報告書の概要】

1 第三者委員会設置の経緯

2024年9月8日頃から同月30日頃にかけて、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「X」(旧 Twitter)上に、「元信用組合職員」を名乗るアカウントから、いわき信用組合が隠蔽してきた不祥事件や不正会計(粉飾決算)について発信していく旨、並びに、三事案の存在をうかがわせる内容の投稿がなされた。同年10月2日に全国信用協同組合連合会(全信組連)仙台支店からいわき信用組合に対して上記投稿がなされている旨の情報提供がなされたため、旧代表理事らへの事実確認等の内部調査を行った結果、同月21日頃までに、三事案がいずれも概ね事実であることが判明した。

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連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第150回 ※クリックするとご覧いただけます。

第151回~

筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

関連書籍

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森・濱田松本法律事務所 AI・IoTプラクティスグループ 編 弁護士 戸嶋浩二 編集代表 弁護士 林 浩美 編集代表 弁護士 岡田 淳 編集代表

法務コンプライアンス実践ガイド

弁護士・青山学院大学法学部教授 浜辺陽一郎 著

不正会計リスクにどう立ち向かうか!

公認会計士・公認不正検査士 宇澤亜弓 著
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